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ハルケギニアのウィザード見習い 土くれのフーケ

「買ってくれって言われても……」



 実家のヴァリエール領で商人に営業されることはあっても、商品であるインテリジェンス・ソードから営業されるのはさすがのルイズも初めてだった。

『アンタ自身は俺っちを振り回せねーだろうけどよ、実用的な武具が欲しいっつーからにゃあ、それなりの腕持ってる奴に贈る品探してるんだろ? な、頼むよ、切れ味にかけちゃあ、俺っち一級品だぜ?』

 ルイズはデルフリンガーを観察してみた。確かに魔法はかかっているようだ。でも、どんな魔法かまではわからない。

「私に売り込みをかけたいなら、もっと、利点を喋ったらどうなの? 切れ味がいいだけじゃあ……ねえ」

 ルイズはデルフリンガーをじっと見た。

 セラのレイピアとくらべて、刃は曇っていて、ただの小汚い鉄の塊にしか見えない。ただ、意思の疎通ができる武器というだけだ。

「貴族様、そんなボロ剣の世迷い言信じると痛い目みますぜ、只今シュペー卿の鍛えた剣を待って参りますから!」

 店主はルイズと勝手に交渉をはじめたデルフリンガーに焦って、手持ちの剣のなかで最も仕入れ値が高かった剣を持ち出すと口にして店主は店の奥へと姿を消した。

『切れ味以外って言われるとなあ……そうだ、俺っち話し相手になれる!』
「話し相手……」

 そういえば、と、ルイズは師匠であるタルブロンの相棒、ハーフリングのジーツが、かの島で手に入れた指輪を思い出した。その指輪は『チャッタリング・リング』という宝石の代わりに唇がついていて、敵意の感知や、罠の有無を教えたりするなど有事には極めて有能らしいのだが、平時にはうんざりするほど喋るらしいのだとか。あまりのやかましさに、師匠の仲間である異教の女僧侶であるセリマスが「元あったところに捨ててきなさい!」と怒鳴りつける程だった。

 そんな事態があったというのに、喋る剣を持ち込もうものなら、セリマスの怒りがこちらに向けられるのは間違いなかった。そもそもあの面子に、こんな大剣を振り回せる前衛がいない。

 ルイズが黙りこんだのを見て、旗色が悪いのを悟ったのか、デルフリンガーは「そ、それだけじゃねーよ。えーと、あのな……その……他には……えーと……」と、しどろもどろになったところで店主が戻ってきた。

「お待たせしました。こちらを御覧ください」

 店主が持ってきたのは、ゲルマニアが誇る貴族シュペー卿の短剣だった。ゲルマニアは鉄の国と言われるほど製鉄の盛んな国である。かの国でも高名なシュペー卿の鍛えた剣であれば、金貨100枚でも足りないかもしれない。

 流石にそれは予算を超える。しかし机の上に置かれた品を見て、予算はどうしようなんて考えは吹き飛んだ。

「これ、まさか……増補孔オーギュメント・スロット付きの短剣なの?」

 その両刃の短剣は鍔の部分に片面は貝紫で縁取った宝石をはめ込む台座が、もう片面にも、翡翠を砕いて縁取った宝石用の台座が拵えてあった。

「お、さすがはお目が高い。なんでも、極稀に出土する精霊石をそこにはめ込むと、貴族様はより魔法の力を増やすことができるそうじゃないですか。紫の台座は火と風で、緑の台座は土と水の属性だとかなんとか。いやあ、やっぱ鉄の国にはかないませんな」

 やたらとゲルマニアを褒めるその姿勢は業腹だったが、この品が業物なのは間違いない。だが、問題はこれが『向こうの世界』でも使えるのかということだ。

 紫の台座なら、サファイア、ルビー、ダイアモンドを、緑の台座ならトパーズ、サファイア、ダイアモンドに秘術の力を込めれば、よりこの短剣を強化できる。 

 ルイズはごくりと唾を飲み込んだ。

『おいおいおい、そんなチンチクリンな短剣に見惚れてねーで、頼むから俺っちを見てくれよ!』
「……切れ味が良くて、喋れる以外の利点はあるの?」
『待って、あと5分待って。今思い出すから』
「この短剣をいただけるかしら」
『おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

 デルフリンガーはギャーギャーわめいていたが、商売の邪魔だと店主が彼を取り上げ、無理やり鞘に押し込んだ挙句、鞘と鍔をヒモで結んで無理やり黙らせた。

「こちらがシュペー卿直筆の品質証明書となります」

 店主は短剣に付随した羊皮紙を机の上に置いてルイズに見せた。

「手付けの前金で新金貨100枚おいておくわ。残りはいくらになるの?」

 店主は揉み手をしながらルイズの問いに答えた。

「新金貨であと2900は頂きたいのですが……」
「冗談が好きなのね。残りは100でしょ?」
「いやいやいや、それじゃ身代がつぶれちまいますよ。2800」

 ルイズも店主もお互いに良い笑顔を浮かべて『値引きハグル』を始めた。

「いくらなんでもボッタクリすぎだと思わない? 200」
「いや、勘弁してくださいよ 2700」

 このままでは埒があかないと見たルイズは、わずかに思案した。

「この『セラのレイピア』と交換であれば?」

 ルイズの、この『交渉ディプロマシー』は店主からは予想外だったらしく、うむむと悩み始めた。

「貴方ならこの『セラのレイピア』にいくらつける?」
「それなら、300くらいで……」
「冗談が好きなのね。4000でしょ?」
「いやいやいや、それじゃ身代がつぶれちまいますよ。310」
「話にならないわ、3900」
「勘弁してくださいよ、350」
「貴方ならここで高く買っても、別の誰かにより高く売りつけることはできるでしょ?」

 ルイズの指摘にぐぬぬと店主は唸った。

 元々平民向けに営む武器屋である彼が、こんな魔法の品を仕入れたのは、来るか来ないかわからない上客向けというよりも、同業者に『転がして』儲けるためであった。

 シュペー卿の短剣は彼が新金貨で500枚で仕入れたもので、600枚でハケればいいなと考えていた。

 そこへルイズがやってきたのだった。

 この貴族の嬢ちゃんにふっかければ「大金持ちだぜ!」とほくそ笑んでいたのだが、この嬢ちゃんが業物を持ち込んだ挙句、こんなにしぶとく『交渉』と『値切り』をしてくるとはまったくの予想外であった。

「それから……私と仲良くしているといい事あるわよ」
「……たとえば?」
「これからも魔法の武具を売りに来ることもあるし、何よりヴァリエール家の人間とつながりができる」
「ヴァ!?」

店主は口をパクパクしながら、ルイズを指さした。

「さあ、セラのレイピアと新金貨100枚、あとの代金はいくらになるの?」

 今日一番の笑顔をルイズは浮かべた。


 †


 ルイズとお喋りな魔剣デルフリンガーが武器屋で奇妙な出会いをしている頃――。

 学院長オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルがトリステイン魔法学院の宝物庫の扉の前に立ち、辺りを伺っていた。

 通路の奥に目をやり、音をたてないように爪先からではなく踵から歩き、扉に耳を当てて内部機構を調べる様は、熟練の盗賊ローグと呼んでいい程、堂に入っている。

 そう、彼女こそ――最近、トリテインを賑わしている盗賊、『土くれのフーケ』に他ならなかった。

 トリステインを賑わしている噂、

 曰く、――貴族からしか物を盗まない。

 曰く、――価値の高い魔法の品しか盗まない。

 曰く、――ご丁寧にも領収書を置いていく。

 その噂は全て真実だ。

 盗んだお宝で派手に遊び歩く生活――なんてしている訳がなく、換金したほとんどを故郷であるアルビオン王国某所に仕送りをしている苦労人である。ただ、盗みに入る対象を貴族としている為に、トリステインの平民達からは、義賊と密かに称賛され、彼らにとって体の良い鬱憤晴らしの種となっていた。

 そんな彼女がなぜこの学院で秘書をしているかといえば、酒場の女給をしている時に、オールドオスマンに尻を触られ、往復ビンタをかましたのが、そもそもの馴れ初めであった。

 彼が魔法学院の学院長であることを知るや、彼女は元貴族であるプライドを投げ捨てオールド・オスマンに撓垂れ掛り、都落ちしたメイジの娘としてのお涙頂戴物語で助平で涙もろい老人を籠絡し、女給よりは確実に給料の良い今の秘書の地位を手に入れたのである。

 (魔法と機械の併用か――くそ、一番めんどくさい奴だな。周りの壁を壊すにしても私のゴーレムで破壊できるかどうか――)

 思考の途中で、ふいにロングビルは扉から離れた。廊下の奥から人の気配がこちらに近づいてきている――。

 ロングビルは地面に床においていた書類を取り上げ、それに何かを記入する振りをした。やがて、近づいてきた男性はコルベールと呼ばれる教師であった。

「おや、ミス・ロングビル、今日は虚無の曜日ですぞ。こんな時間にどうされました?」

 学院の教師の中では、まだ若い部類に入る彼だが、禿頭といっていい程髪が後退し、窓から差し込む光で余計に後光がさしている様に見える。普段持ち歩いている長めのクォーター・スタッフはなく、手ぶらであった。

 その輝きにロンクビルは目を眇めた。

「こんにちはコルベール先生。用事のついでに通りすがっただけですわ。最近、耳を疑う噂を聞きましたもので、いずれここの目録をきちんと作成しておかねばとオールド・オスマンに進言するつもりですの」

 長くワンレンに伸ばしたライムグリーンの髪を右の人差し指でくるくると手遊びしながら、ロングビルは答えた。彼女が苛立っている時のサインだった。それでいて笑顔を浮かべてるのだから役者である。特に男はこれにコロっと騙された。

(早くどこかに行けよ、このハゲ)

 そう内心で罵りながら、この教師が何か情報を持っていないか彼女は聞き出すつもりだった。

「ロングビル女史は仕事熱心ですなあ。ですが、ここは魔法学院ですぞ。防御に関しては王城並みです。噂の盗賊もここは狙わないのでは?」

 癖なのか、自分の禿頭を撫でさすりながら、コルベールは自分の考えを述べた。

 ロングビルは苦笑を浮かべながら、油断なくコルベールを見た。

 この温厚な教師はその評定に似合わない『炎蛇』という二つ名を持っている。名前からして炎の使い手であり、それなり実力の持ち主なのは間違いない。恐らくは、若い頃に相当ヤンチャをしていたはずだとロンクビルは当たりをつけていた。

 絶対にボロをだしてはいけない。

 ロングビルはより慎重に言葉を選んだ。

「確かにコルベール先生の言うとおりですわ。ですが、私は栄えあるトリステイン魔法学院の、それも学院長の秘書なのです。いつ求められてもいいように、手の空いた時に資料作りをしておきませんと、どうにも落ち着かないのですよ」

「ははは、それはまた、お若いのに苦労性ですなあ」

 コルベールもロングビルに釣られるように苦笑を浮かべた。

「オールドオスマンは中が散らかっていると仰っていましたの。私では手に負えないと判断したら、コルベール先生手伝っていただけますか?」

「もちろんですとも! 貴女の様な素晴らしい御婦人レディに頼まれたら嫌とはいえませんよ。ぜひともお手伝いさせてください」

 コルベールは自分の左拳で、どん、と胸を叩き、誠実であると噂にたがわぬ精神をロングビルに見せた。

「ミス・ロングビルは今、鍵をお持ちなのですか?」
「――っ、いいえ。今度、オールドオスマンに鍵を借りておきます。その時は頼りにしてますよコルベール先生」

 ここまでだ。

 鍵を持っていないのに、必要以上にウロウロしていると怪しまれる。

 ロングビルは内心で「マジでうぜぇコノハゲ」と毒づきながら、それでも笑顔を崩すことなくその場を去った。



 残されたコルベールは、彼女の姿が見えなくなるまで、その場に立ちつくした。

 彼女が完全に見えなくなると、ふぅっと長く、長く、息を吐き、握った左拳を開いた。

 そこにあるのは――爪楊枝のような、小さな杖だった。

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流石コルベール先生、油断が無い
続き期待してます
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