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ハルケギニアのウィザード見習い トリスタニアへ

 待ちに待った虚無の曜日が来たというのに、ルイズはベッドの中にいて全身筋肉痛に苛まれていた。然程鍛えていない身体を酷使したことで悲鳴を上げたのだった。ベッドの中で寝返りをうとうにも、それすらダルくて億劫な有り様だった。

 自分はどうやってこの部屋に戻ってきたんだっけ?

 ルイズはボケーっと天井を眺めながら昨日の顛末を思い出していた。




 ギーシュの顔面にドロップキックを食らわせたルイズは勢い余って、ギーシュとそのまま倒れこんだ。

 荒い息をつきながら、ギーシュを見れば、鼻と口から盛大に出血していた。

「モ、モンモランシー! ギーシュをお願い!」

 肺を空にする勢いでそう叫ぶと、ルイズは地面に大の字になって寝っ転がった。

 (もうダメ、体力の限界……)

 自分の呼吸が整うまでどれほどたっただろうか。

 ザク、ザクっと土と草を踏む音が聞こえてきて、億劫ながら首を向けると、キュルケとモンモランシー、そしてタバサがルイズを見下ろしていた。

「ギ、ギーシュは大丈夫? 顔から出血していたようだけど」
「大丈夫。前歯が2本折れていたけど、私がくっつけたわ。ちょっと向きを間違えちゃったから反っ歯になってるけど」

 青銅のギーシュ改め、反っ歯のギーシュと名乗ればいいのよと、モンモランシーは恐ろしいことを平然と告げた。

「ルイズ、体が冷えるわ、そろそろ起きて」
「……そうね」

 モンモランシーの手を取ろうとして、

「痛!」

 と、叫んでしまった。

「足、足がつっ!」

 興奮が冷めたせいか、一度痛みを認識したせいか、体中いたる所が痛みだした。

「もう、しょうがないわね」

 モンモランシーは杖を取り出し、レビテーションでルイズの身体を浮かせた。

「ルイズ、秘薬は私持ちだから気にしなくていいわよ、体中の痛みを取り除いてあげるから、あとはぐっすりお休みなさい」

 そして、ルイズだけに聞こえるように耳元でこっそりと「私の為に怒ってくれてありがとう」と呟いた。

 正直、そんなつもりじゃないし、そもそもあれはツェルプストーが――と反論したかったが、痛みに苛まれてそれどころではなかった。

 キュルケは二人をニヤニヤと眺め、タバサはいつもの様に無表情に見えた。

 ギーシュとの決闘について学院の教師達は、所詮子供の喧嘩と思っているのか、何も言ってくることはなく、ギーシュが集めた観客たちは自然と解散していった。

 キュルケとケティの技の魅せ合いを語り合っている者達の多くが、軍人を志している男子生徒たちで、ギーシュとルイズの話題を語っているのがその他といった割合であった。中でも、空高く飛んで下着を見せびらかしながらギーシュにドロップキックをかましたルイズは、特に女子生徒達からは、いくらなんでも端ないと総スカンを食らっている。

 レビテーションで運ばれている最中に、クラスメイトの特に女子の視線と表情を解釈するとそういうことになる。



 ……あとの事は覚えていない。部屋に戻ってからモンモランシーの治療を受けているうちに、どうやら自分は寝てしまったらしい。

 ルイズは身体をゆっくりと起こした。痛みはないが、全身のだるさは抜けていない。

 せっかくの虚無の休日であるか、正直な話、今日だけはゆっくり休みたい。

 一度目覚めたルイズであったが、瞼を再び閉じて、睡魔の誘いに乗った。



 どれほど時間がたっただろう。身体のだるさはだいぶ抜け、頭はしっかりと動いた。

 ルイズは窓を見た。太陽はまだ中天に登り切っておらず、一日中寝て過ごしたわけではなさそうだった。

(うん、調子は悪くないみたい。『あちら』に行ってみよう)

 そう決心するとベッドから降りて、まずは朝風呂、そして食事をさっと済ませ、『あちら』へ行く準備を始めた。

 持っていく物はそうはない。ただ、決して忘れてはならないものがひとつ。

 コルソス村のウルザから貰った外套だ。

 この灰色がかった奇妙な外套には、魔法の力が込められていて、1日に1度軟着陸フェザー・フォールの効果がある。ただし、30秒間という時間制限があるので、よほど高空から使う場合は、地表ぎりきりまで使うのを待たねばならない。

 初めて『あちら』に行った時は、白竜オージロスが気絶した自分に魔法を付与してくれたらしいが、今度はそういうわけにはいかない。

 外套を着たルイズは、勉強用の机へ向かった。

 今度は必要な呪文を覚えるべく、脳裏から、昨日覚えた、健脚ロング・ストライダーの呪文を除去し、師匠から貰ったスクロールを広げて、そこに書かれてある軟着陸フェザー・フォールの呪文を脳裏に叩きこむ作業を始めた。

 呪文時間延長の修正特技を修めていれば多少は楽になるのだが、そこは今後の訓練次第というのが、ルイズのウィザードとしての現状だった。

 だがそれも遠いことではない。

 昨日の実戦投入でだいぶ自信がついたというのもある。が、何よりも自分の目指す方向性と、そこに到達するにはどうしたら良いのかという道筋が見えたというのが一番大きい。

 まさに蒙が啓けたというべきだろうか。


 脳裏に呪文を刻み込むと、ルイズは席を立ち、家具の無い部屋の中央へと進み出ると、杖嚢から愛用の杖を取り出し、使い魔召喚の呪文を唱え始めた。

 ――メイジとしての実力が上がったのではないかしら?

 素直にそう思える程に、精神力の、杖への通りが良かった。呪文と精神力が現象として結実し、目の前に召喚の門が開かれる。

 ルイズは躊躇することなく、むしろ、嬉々として門の中へと入っていった



 門の中に入ると、最も会いたかった人間が目の前にいた。が、突然

『ルイズ、ごめん!』

 と、才人は頭を下げて謝った。

『今日は無理』
「え、どうしたの?」

 才人は心底すまなそうな表情を浮かべて『実は……』と、話を切り出した。

『ほら、俺達1週間ぐらい行方不明になってただろ?』
「そうね。何故かこっちでは3日しか時間たっていなかったけれど」
『ああ、ルイズもか。俺も3日しか立ってなくて、逆に驚いたよ。『あっち』と『こっち』じゃ時間の流れが違うみたいだな……ってこんなのんびりしてる場合しゃなかった』

 才人は会話を仕切りなおした。

『行方不明になったせいで、関係各所に迷惑かけただろ。それでまあ、迷惑かけてスンマセンって両親と共に謝り倒してるとこなんだ。それがまだ終わってなくて……』

 頬をポリポリかきながら、才人は言い辛そうに口にした。

「う、そ、それは……ゴメンなさい」

 何しろ召喚したのはルイズである。才人が言い辛そうにするのは当たり前だった。

『いや、ルイズが謝ることなんてねーよ。エラい目にあったのは事実だけど、ルイズみたいな美人に知り合えたわけだし』

 そういって才人はニカっと破顔した。

『と、まあそういう訳だから、また来週な。あ、そうだ。これルイズに』

 才人は紙でできた箱をルイズにおしつけた。

「何これ?」
『中身は時計。詳しいことは英語……そっちじゃアルビオン語っていってたっけ? まあその言葉で書いたっていってたわ。昔読んだジュブナイルで召喚する側とされる側の様式美がナンタラとかわけのわからんこと言ってた。親父が』

 才人の言ってる言葉の後半部分は、ルイズには、まったく意味を成さない言葉に聞こえていた。

 相変わらず、この使い魔候補と会話は難しい。

『じゃあまたな』

 才人は手を振って、目の前から消えた。

 自分も門の中から追い出される様に、空気の膜に押し出される。


 ……せっかく会えたのにもうお別れだなんて。

 ルイズはがっりしながら、ベッドに腰掛け、才人から貰った箱を開けた。

 中には軽い素材でできた球形の物体と、上質な白い紙が入っていて、その紙にはやたらカクカクとした字体のアルビオン語が書いてあった。実際にはプリンタで印刷しただけになのだが、そうとは知らないルイズは人間の手で書かれたものと判断した。

 そのアルビオン語を読みこんでゆくと、この不思議な物体は水で動く時計だ書かれてあった。細かい操作方法を挿絵混じりで解説してある。

「へー、おもしろい。水魔法で動くのかしら」

 そのまま読み解いてゆくと『SUN AM 10:00 という表示になったらうちの息子を召喚してください。息子をよろしく 父より』

 と書いてあって、ルイズは仰天し、次に困惑した。

 まともな両親なら、危険な目に合わせた事への非難をしてくるものだと思うのだが……。

 ルイズは、サイトの父親の文面に続きがあるのを見つけた。→ と矢印がある。

 そのまま次の頁をめくって見ると、「Thieving cat must die」と流麗な筆記体の走り書きを見つけた。恐らくはサイトの母親だろう。

(これが普通よね。実家のメイド達から借りた「フィリップ夫人の午後」という小説にも嫁いじめの話があったし……)

 と逆にルイズは安心した。

ルイズが普通と感じたものがハルケギニアでも「ちょっとおかしい」とは思わずに……。

 
 †

 
「ヴァリエール、起きてる?」

 言葉の後に、扉がコンコンと鳴らされた。声からしてキュルケの様だった。ルイズがどう返事しようかと、躊躇った次の瞬間には「起きてるわね。行くわよ」と、勝手に扉が明けられ、彼女はズカズカと入り込んできた。

「アンタね……もう何度も言ってるけど、許しも得てないのに勝手に入らないで!」
「はいはい、わかったから早く準備しなさいよ。トリスタニアへ行くわよ。ほら、その野暮ったい外套脱ぎ……あら、手紙読んでたの?」

 目ざといキュルケの指摘にハっとしたルイズは、両手を背中にまわし、とっさに手紙を隠した。

「あ~ら~ら~? その反応は……ヴァリエール、アンタのイイ人からの手紙だったりするんじゃな~い?」

 ニヤニヤと、まるで猫が舌なめずりする様な笑顔をキュルケは浮かべながら窓際に近寄った。

「ち、違うわよ!」
「まあ、どっちでもいいわ。私、人の一番は取らない主義だから」
「アンタと私のご先祖様はその一番をめぐって殺しあったの忘れてない?」
「だからこそよ。一番を取ったら殺し合いになるでしょ? 私はイヤ。だって面倒くさいもの」

 サラっと言ってのけたキュルケにルイズは驚いた。彼女の属性は情熱の火であるのに、その心はさらっとした風の様だった。

「それで、何でトリスタニアに行くわけ?」
「あら、露骨に話かえたわね。手紙の事、否定はしないってワケ? あらあら、ごちそーサマ」
「うっさい、しつこい!」

 顔を真っ赤にしてムキになったルイズを見て、キュルケはここいらが潮時と見た。

 程々にからかうから面白いのだ。しつこくすれば無視されるだけで反応は悪くなる。

 キュルケは直ぐ様、話題を本題に変えた。 

「ギーシュとの決闘お疲れさま祝勝会ってことで、私のおごりでクックベリーパイ奢ってあげる。行くでしょ?」

 クックベリーパイと聞いて、ルイズの喉がごくりと鳴った。しかし、太陽は中天に差し掛かろうとしていて、今から馬で行くならば、門限には到底間に合いそうもない。

「そりゃ行きたいけれど、門限が……」
「ああ、大丈夫よ。タバサも行くから、ハシバミ草のサラダ奢るって言ったら、一発だったわ」

 確かに、彼女の使い魔である風竜のシルフィードに乗れば、街までは然程かからない。 

「どうせ、今からバッタの足いじくりまわして知恵の輪にして遊ぶつもつりだったんでしょ? そんな暗い遊びしてないで、パッと騒ぎましょうよ」 

 大切な物質要素をひどく言われたのは業腹だったが、秘術についてを喋るわけにもいかず、ルイズは怒りを飲み込んだ。

「……わかった行くわ」
「じゃあ、準備できたら中庭ね。タバサったら待ちきれないのか、もう中庭で待っているわよ、ほら」

 キュルケは中庭を指さした。

 ベッドから降りて窓際に歩み寄り、キュルケの指す中庭をのぞくと、ルイズに気づいたタバサが、杖をあげた。ソレを見たルイズはちょっとしたイタズラを思いついた。

「ツェルプストー、アンタ、ロックの呪文使えるでしょ、施錠しといて」 
「え? 魔法使えるようになったんでしょ、自分で」

 キュルケが言い終わらないうちに、ルイズは窓枠に手をかけて、勢い良く飛び降りた。同時に、外套に込められた魔力を開放する。

 ウルザの外套は自身の外套を中心として、一瞬で光円を描き、その輝きが失せると辺りに羽を撒き散らし、ルイズの身体を包み込むと、羽は空中へと消え去った。

 力に包まれたルイズはゆっくりと地面に着地し、窓枠であんぐりと口を明けているキュルケに「施錠よろしく」と笑顔を浮かべた。
  
  

 派手な出立をしたせいで、昨晩のギーシュとの決闘の話なぞ一言もでなかった。むしろルイズがどの系統の魔法に目覚めのたかという話題に終始したぐらいである。

 ルイズはキュルケとタバサの「あの魔法は何」という実にしつこい追求を、のらりくらりと躱しつつ、クックベリーパイを楽しんだ。ただ、外套の事だけは『舞台演出用の魔法の外套』という事にした。役者が高いところから飛び降りても怪我をしない様にと作られたというカバーストーリーも付け加えた。

「門限までもうちょっと時間あるけど、何処か寄る所ある?」

 店を出しなにキュルケがタバサに尋ねると「ピエモンの秘薬屋」と小声で応えた。

「じゃあそこに行きましょう、ヴァリエールは?」
「別にどこでもいいわ」
「……そこの角を曲がればすぐ着く。あそこ」

 タバサが常に身に着けている節くれだった杖をむけた先にはピエモンの秘薬屋があった。そしてその隣には武器屋が見える。

(……今週は師匠のところにも顔を出さなかったし、何かお土産になりそうなものでもないかしら)

 キュルケとタバサが薬屋に入ったのを見届けたルイズは、武器屋の扉を開けた。

 秘薬屋でも何か良い出物のがあるかもしれないが、女三人連れ立ってというのがどうにも違和感が拭えず――ぼっち歴が長かったからなのだが――少しでいいから一人になれる時間が欲しかった。

 中に入ると不用心な事に店番はいなかった。

 棚の高い位置に安置されている斧や、壁により掛かるように立っている鎧を眺めていると、奥から人がこちらへ歩いていくる気配を感じた。 

「いらっしゃ……おや、貴族様がこんな武具屋に何用で?」

 ルイズの纏っているマントを見て、店主は即座に営業用の笑みを浮かべた。

「……贈答用なんだけど、それでいて実用的な魔法の武具とかあるかしら? あったら見せてもらいたいんだけど?」
「そういわれてもピンからキリまでありまさあ! どの程度の物をお望みで?」
「……そうね、少なくともこれ以上の物を」

 ルイズは、携帯型倉庫インベントリから『セラのレイピア』を取り出した。

 店主はルイズの取り出したレイピアよりも、懐から取り出すその技に驚いた。

 ルイズがあちらで手に入れたそれは、まさに魔法だった。コラプスド・ポータブル・ホールと呼ばれる太古の装置を修復して使う、携帯型倉庫インベントリは、これを1個持つことで、冒険者としてはやっと3流の仲間入りとされる。3個も持てば1流の仲間入りだ。

 この、携帯型倉庫インベントリはマテコンなどの小さな物なら1種類1000個まで、ポーションなどは1種類99個まで、計20種類の物品が収納可能な、凄まじい利便性をもたらすものだった。

「こいつは……結構な業物ですな」

 店主は真剣に『セラのレイピア』を鑑定した。

「魔法が一応かかっているわ。聞いた話では、特に海辺に棲む亜人に対して切れ味が鋭くなるそうよ」
『ほう! そいつはおったまたげた』

 店主ではない別の誰かの声がルイズにかけられた。

「デル公、てめぇお客様の前で静かにしてろといってるだろ!」
『おい、貴族の嬢ちゃん、このしみったれた店にそんな業物以上の物はオレっち以外にはねーよ! 買うならオレを買いな!』

店主が怒鳴った先を見れば、一山いくらと言わんばかりに、剣が乱雑に突っ込まれている樽だった。

 ルイズは、魔法の感知ディテクト・マジックでその樽を見た。樽の中に突っ込まれている数多の剣の中で、その一振りの大剣が一際輝いて見えた。

 その大剣の柄に覆いかぶさるようにして手首を防護している部分がカクカクと動いて音をたてた。まるで人間の顎が動いているかのように。

『オレの名はデルフリンガー、頼むよ貴族の嬢ちゃん、オレッちを買ってくれ』

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