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ハルケギニアのウィザード見習い 決闘

 

 紅と青の双月が天に上り、月明かりを受けたテーブルには、二客のティーカップがある。
 すでに夕食を終え、あとは寮の自室に戻るばかりなのだが、この場にいる二人の男女は名残惜しそうに、まだこの場に留まっている。

 女子寮は男子禁制故に、こうして食後のお茶会があるのは珍しいことではない。

 だが、ギーシュ・ド・グラモンの様に、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシという懸想している女性がいるにもかかわらず、別の女性と女子寮の前で堂々とお茶会を開くバカは滅多にいない。

 彼の相手をしているのは下級生であるケティ・ド・ラ・ロッタであった。

 彼女は上級生であるギーシュに二股をかけられている可哀想な子――と周りから見られていたが、実のところ、モンモランシーに対して下克上を狙っている大変ガッツに溢れる女性であった。

「これだけ美しい月夜だから――ちょっと遠乗りしてみないか?」

 という台詞と共に『錬金』の魔法で、バラの形に整形した薔薇水晶をギーシュは差し出したのたが、彼女は「もう遅い時刻ですし、寮の前でお茶なら」と、薔薇水晶をちゃっかりと懐に納めつつ、モンモランシーに見せつけるような提案をしたのだった。

 ……仮に見ていなくても、ギーシュとお茶会をしたという事実は、遠からず向こうに伝わるだろうという彼女の目論見は、別の形となって伝わるのだった。

 ルイズとキュルケのせいで。

 趣味であるお菓子作りの腕を、思う存分に振るって作り上げたシフォン・ケーキ。そのケーキを美味しそうに食べるギーシュを見て、ケティの若干垂れている目は余計に脂下がった。

「お味の方はどうですか? ギーシュ様」
「最高だよケティ!」

 ケティは微笑みを浮かべ、内心では「よっしゃああああ!」と勝鬨を上げた。

「もっと……味わってください」

 彼女がそう言った時、とある女子寮の窓がパリンと割れて何かが降ってきた。

「キャっ」
「な、なんだ!」

 ギーシュとケティは髪に突き刺さる何か硬い物体を手にとった。そして、卓上のケーキとお茶にも、その物体が突き刺さっている事を確認した。

 どう見ても、アレだった。2本のバッタの足がラクドリアン湖のオルレアン家状態で――!?

「キャアアアアアアアアアアアアアアア」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

 二人は椅子から転げ落ちた。ギーシュは驚きのあまり、テーブルクロスを引っ張って後ろに倒れこんでしまい、当然のことながら、卓上にあったケティのシフォン・ケーキやら紅茶等は、音を立てて全て地面に落ち、しっちゃかめっちゃかになってしまった。

「な、な、なんでバッタの足が」
「こ、こんなに美しい月夜だもの。バッ、バッタの足だって抜け出したくなるさ!」
「アホか、そんな事あるわけないだろ!」
「ケ、ケティ?」

 いけない。ハッと口元に手をあてて、オホホとごまかすケティであった。突然起きた惨事に、思わず『素』を出してしまっていた。

「バ、バッタの足がうんぬんは冗談だけど、誰がこんなイタズラを」

 ギーシュは女子寮の割れた窓を見上げた。

 キュルケと鼻血を出したルイズがのぞいていた。


 
 
 ヴェストリの広場には、すでに多くの人間が集まっていた。

 「暇を持て余した貴族ほどタチの悪い者はいない」とは、ハルケギニアの平民が良く言うフレーズだが真実でもある。

「おい、決闘と聞いたが誰と誰がやるんだ?」
 
 噂を聞きつけた生徒がやってきて、目の前にいる観戦者に聞いた。

「1年生のケティ、2年のギーシュ組と2年のキュルケ、ルイズ組」
「ええ? 何その組み合わせ、どういう事」
「ケティとギーシュの頭にルイズとキュルケがバッタの足をばらまいたらしい」

 バッタの足?

 それを聞いていた周りの者達は首をひねった。

「さあさあ、お集まりの諸君、決闘の時間だ」

 ギーシュは自慢の金髪をさらっと後ろへ撫で付け、両手を前へ広げて観客の前で宣言した。貝紫で染色した趣味の悪いシャツの袖が風をうけて膨らみ、レースの部分がひらひらと動く。女子生徒たちは「うわ、ダサ」と表情に表していたが、男子生徒にとってギーシュという男は「面白いバカ野郎」だったので、あえてバカをやる彼の芸風を好んでいた。

「ボクとケティがお茶を楽しんでいた。そこを何を思ったのか、ゲルマニアの野蛮人とゼロのルイズが邪魔をした。空中からバッタの足を大量にばらまくという暴挙によって、ケティの作ってくれた可憐で、美味なシフォンケーキは無残にも! 嗚呼、無残にも!」

「話なげーよ、ギーシュ、さっさとやれ。こっちは忙しいんだぞ」

 誰かがあっという間に茶々をいれ、観戦者たちは次々にブーイングを浴びせ始めた。

「わかったよ。兎にも角にもボクはこの二人を許せない」
 
 ビシっと音が出そうなキレで、ギーシュは、ルイズとキュルケを指さした。

 指をさされた当人たちは、

「イヤ、ホントこの件については何度も頭を下げて謝ってるんだけど……」
「私は人に頭を下げるなんて願い下げだ、なんて思ってる人間だけど、この件については真摯に謝罪するわ」

 ルイズもキュルケも神妙な顔をして、集ったギャラリー達の前で「ごめんなさい」と、頭を下げた。

「いいや、許せない! だから決闘だ。ルイズもキュルケも決闘に負けたら自分で杖を折って学園を去れ」

 自分に酔い、怒り狂っているギーシュには、もう何を言っても通じなかった。

 一方、ケティといえば、何処が損益分岐点なのかを真剣に見極めようとしていた。

 このまま、ギーシュにのって決闘して勝てば良し。名実共にギーシュのパートナーにはなれるだろう。だが相手はツェルプストー家のキュルケ、火のトライアングルである。まして、もうひとりはルイズであった。ゼロのルイズの噂はすでに1年にも広がっているが、その爆発はトライアングル並の威力があると聞いている。正直な話、ラインの自分には勝ち目はなかった。

 それだけならばマシというものであったが、悪いことに彼女は公爵家の令嬢であり、父は現役の宰相である。睨まれていい事など一つもなかった。

「あの。ギーシュ様、御二人とも、真摯に謝罪なさっていることですし。ここはひとつ……」
「そうだなケティ、ここはひとつ、こいつらをギャフンと言わせないとな!」

 ちっげェェェェェェェェェェよ、このスットコドッコイ! とケティは叫びそうになった。そこへ、

「あら、ギーシュと……なんていったかしら?」
 
 月明かりに照らされて美しい輝く金の巻き髪を、夜風に靡かれつつ現れたのはモンモランシーだった。

「や、やあモンモランシー」
「ギーシュ、これは何事なの?」
「いやあ、そのね、アハハ」
「アハハじゃないでしょ。詳しい事を教えてよ」

 真打ちの登場にケティは再度計算を始めた。このまま、彼女にとりなしを縋れば、おそらくは無駄な争いはしなくてすむ。だが、確実にモンモランシーの下に付くことになってしまう。それでは、下克上なぞ望むべくもない。

 いったいどうしたら……

 ぐぬぬと彼女は内心で頭を抱えた。

「ギーシュがケティと浮気してたから、懲らしめるためにヴァリエールがバッタの足をばらまこう……って言い出したのよね?」
「ちょ、ツェルプストー、何、あたしを巻き込んでんのよ!?」
「アンタがバッタの足を山ほど保存してたのは事実でしょ?」

 ぐぬぬとルイズは頭を抱えた。事実である。

「……なるほど。ルイズ、よくやってくれたわ。なんでバッタの足なのかはわからないけど」

 モンモランシーはルイズの元へやってきて、ルイズの手を握った。

「私の為に怒ってくれたのね。持つべきものは友達ね」
「え? ええ、そう、そうね」

 なんだこの状況はと思いながら、ルイズはとりあえず頷くしかなかった。

「かまわないわ。ルイズ、キュルケ、ギーシュと泥棒猫をコテンパンに伸してちょうだい。癒やしの秘薬は私持ちよ」
 

 †


 『男だろうが、女だろうが引くに引けない戦があるものだ』とは、フィリップ三世の軍記物に出てくる台詞だったろうかとルイズは思った。

 目の前に対峙するは、『青銅』のギーシュ・ド・グラモンに『熾火』のケティ・ド・ラ・ロッタである。二人との間は15メイル程離れている。横にいるのはどういうわけか『微熱』のキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーである。

 どうしてこうなった? どうしてこうなった!?

 ルイズは蹲って頭を抱えたかった。

 私はただ秘術の練習をしていたただけなのに!

 ルイズはこの原因を作り上げた、キュルケに『お前のせいだ何とかしろ』の意味を込めて睨みつけた。

「何よヴァリエール。言いたいことあるなら言いなさいよ」
「……先方はアンタに譲るわ。私の魔法でバラバラ死体は流石にマズいでしょ」
「物騒ねー。まあアンタと違って私は、レアからウェルダンまで、お客様のお好みの焼き加減はできるけど?」
「じゃあやって。私疲れちゃった」

 ルイズはマントの内ポケットからハンカチを取り出すと、地面にしいてチョこんと座ってしまった。

「アンタのその行動、いかにも末っ子って感じだわ」

 キュルケは気怠そうにマントの杖嚢から杖を取り出した。

「ルイズ、なんで君は座りこんでるんだ。僕らをバカにしてるのか?」
「そうです。ルイズ先輩、ギーシュ様の言うとおりです!」

 ヤケッパチになり、目が死んでるケティがギーシュに追従した。

「ゴチャゴチャめんどくさいわねー。はい、ファイアーボール」

 キュルケはいきなり、大技をぶちかました。

 ぶちかましたはずだった。

 キュルケが杖を振って、呪文を唱え終わるよりも早く、ケティの呪文が完成したのだった。

「ウル・カーノ!」

 大技を繰り出す実力がないのなら。相手にそれを撃たせぬ様に精度と速度を追求する。

 ラ・ロッタ家の教えを誠実に実行したケティの杖から飛び出した炎は、地面を這うような軌道を描きながら、恐るべき精度と速度で、キュルケの杖へと肉薄し、命中すると彼女の杖を上へと跳ね上げた。だが、トライアングルの実力を持つキュルケは杖を離す事はなかった。

「やるじゃないケティ、まさか、お父様との訓練以外で『跳ね上がり』なんて技使う羽目になるとは思わなかったわ」

 キュルケはケティの視線が己の杖に集中していることを悟るや、呪文詠唱を即座に破棄して、来る一撃に備えたのだった。そして、炎が杖に命中すると同時に、杖を自分から上へと跳ね上げて威力を殺したのだった。互いの魔法で相手の杖を落とし合うといった、貴族の決闘のみでしか使えない技だった。

 おそらくは、ツェルプストーに連なる人間は皆、これを練習するのであろう。

「……落とせなければ意味がありません」

 ケティには勝算があったのだろう。が、彼女は顔を顰めて、キュルケを見据えた。

「ねぇ、提案なんだけど、『私達』は引き分けってことにしない? あとはルイズとギーシュの問題ってことでどうかしら?」
「……構いません、謝罪は先ほど頂きました。私達は前座ということで。あとはギーシュ様とルイズ様にお任せします」

 最初からやる気のなかった二人は、互いのパートナーを裏切り、あっさりと手を組んだ。  

 だが、実のところ内心冷や汗をかいていたのはキュルケの方だった。杖は焼け焦げ、新しい杖を用意しなければ、とても実用には耐えない有り様になっている。ムリして魔法を使えば、あっという間に砕け散るだろう。そうなれば、ギーシュとの賭けの通り、退学しなければならず、即座に家に連れ戻されて、父親と似たような年齢の貴族の元へ後妻として嫁ぐ羽目になってしまうだろう。

 そんな事は、それこそ死んでもゴメンだ。

(ケティ、恐ろしい子……)
 
 内心の動揺を必死に隠して、表情筋を動かし、キュルケは優雅に微笑んだ。
 
 二人のメイジが行った決闘の、その高度な試合運びに度肝を抜かれた観客たちは、キュルケの微笑みに釣られるようにして、拍手の嵐と歓声の声を上げた。貴族として互いを尊重しあう事も彼ら、観客たちの琴線に触れたらしい。

「ケティ!?」
「ちょ、ツェルプストー!?」
 
 ただ二人、ギーシュとルイズは予想外の展開に戸惑っていた。

「という訳で、頑張ってねルイズ」
「頑張ってくださいギーシュ様」

 ケティはギーシュを応援するとモンモンランシーに捕まる前にそそくさと消えた。

「チッ、逃げ足の速い……まあいいわ。しばらくは大人しくしているでしよう」

 モンモランシーは吐き捨てるように言い捨て、ギーシュを睨んだ。

 二人の余りにも鮮やかな寝返りに唖然としていたギーシュとルイズだったが、モンモランシーの殺気を孕んだ視線を受けて、先に我に返ったのはギーシュだった。

「さて、ルイズ、僕達も決着をつけようか」
「まだやるの? 正直な話やる気ないんだけど……」
「ここまで盛り上がってるのに、場を盛り下げるわけにはいかないからね」

 ルイズはまだ座っていたが、ギーシュのギラついた目を見て立ち上がった。

「アンタ、貴族じゃなくて流しの芸人やればよかったのに。きっと売れっ子になったと思うわ」
「減らず口を!」

 ギーシュは薔薇を模した杖を手に取り「僕のワルキューレを見せてやる!」と叫んだ。

 すると、まるでギーシュを守るように土塊が人型へと隆起してゆく。やがて、それは青銅へと変化し、鎧を纏った乙女、その名の通り、戦乙女ワルキューレへと転じた。

 材質は青銅でありながら、鎧のデザインは関節の可動範囲まで考慮された精緻なもので、このゴーレム達から鎧を剥ぎ取り、本物の人間が着込んでも、実用に耐えうるであろう見事な物だ。それらを一瞬で7体も構築し、また動かしてみせる彼の制御力、或いはマルチタスクぶりは、この場にサイトがいたら「マルチコアCPUとしてはすげえな。バカだけど」と感想をもらした事だろう。

 ルイズはマントの杖嚢から杖を取りだしながら、自分の脳に刻まれている呪文を再確認した。

 跳躍ジャンプ健脚ロング・ストライダー魔法の矢マジック・ミサイルの3つである。あとは杖を使ったいつもの見るも無残な大失敗FUBARだ。

 こんな馬鹿げた騒ぎに巻き込まれなければ、あとで試そうと思っていた呪文だ。

「さあ、ルイズ、覚悟はいいか?」

 盾を持ったワルキューレ達を自分の左右に1体ずつ、武器を携えた5体を前方に配置したギーシュは、ルイズにそう問いかけた。

「こういう時に、親の話持ち出すのも何だけど、アンタ勇気あるわね。私の親が誰か知ってて、それでも決闘続けるなんて」

 ルイズは『交渉』で決闘を回避できるか試みた。馬鹿げた騒ぎを回避してさっさと秘術の研究をしたかった。その為なら親の権力でも何でも使おうと決心していた。幸い――と、言って良いのか――自分は宰相の娘であるし、何より、サイトの故郷じゃ『立ってる者は親でも使え』という格言があるらしい。

 子供の喧嘩に親の話を持ちだすのは、いかにも頭の足りないバカ貴族のしでかしそうな事であり、そういった行為をルイズは何より嫌っていたが、今形振り構っていられなかった。

 事がすんだら、ベッドの中で自己嫌悪にのたうち回ろうと覚悟も決めた。

「僕の好きな本にこう書いてある『男だろうが、女だろうが引くに引けない戦があるものだ』まさに今が僕にとってのその時なのさ」

 ギーシュは杖を改めて掲げると「行け! ワルキューレ!」と号令を発した。

 命令を受けた5体のワルキューレは、それぞれに得物を持ち、ルイズを叩きのめさんと走りだした。

 事ここに至っては仕方ないと、ルイズは秘術の効果を実戦じみたこの決闘で色々と試すことに決めた。負けそうになったら、母との訓練で会得した『呪文威力強化』と『呪文威力最大化』を駆使してギーシュを月まで飛ばそう。

 ルイズは臆することなく、即座に「錬金」と唱え、爆発の指定先をほんの数メイル先に選定して現象をおこした。地面がエグレ、土煙で辺りが見えなくなると、目標を失ったワルキューレ達は一端動きを停止した。彼らの頭脳であるギーシュがルイズを目視で捉えることができない以上、自然と動きは止まるざるを得なかった。

 一方、ルイズにとってこの行動は賭けに等しいものだった。

 ギーシュが、土煙にかまわず、ゴーレムを突っ込ませていたら、あっという間にルイズは負けていたただろう。

 ルイズは右手に持っていた杖を左手に変え、健脚ロング・ストライダーを唱えた。

 この魔法は動作と呪文だけで発動し、物質要素はいらない変成術のひとつだ。効果時間は約1分、自分のウィザードとしての実力が伸びるか、呪文時間延長エクステンドの修正をすれば、効果時間は伸びる。そして、この呪文は移動速度の増速――タルブロン師によれば、二割五分ほど増速される――だ。

 ルイズは呪文を完成させると、土煙が晴れる前にギーシュに接近するべく、自ら右側面へと走りだした。

 ――速い!

 ギーシュは、ルイズの速度に驚愕し、僅かに反応が遅れた。だが、彼の左右には盾持ちのワルキューレがいる。ルイズの爆発魔法といえど、一撃なら防いで見せる。よしんば、吹き飛ばされても、辺りは土だらけの地面。土のライン・メイジであるギーシュにとって負けようのない戦場だった。

 ギーシュは焦らず、武器持ちのワルキューレ5体にルイズを追撃するよう命じた。

 走りながら、ルイズは魔法を唱えた。そして、ギーシュの周りを円運動しながら、隙を探し続けた。しかし、大闊歩ロング・ストライダーの呪文効果は僅かに1分。やがて、ルイズは焦燥感に包まれることになった。

 ルイズは右手に杖を持ち替え、呪文を唱えた。

「錬金!」

 盾持ちが吹き飛ぶ、が、吹き飛んだ端から、地面から新しいワルキューレが雑草さながらに生えてきて、ギーシュを守リ続けた。

(ホント、土メイジってねちっこくて嫌らしい。エレ姉様みたいにしつこいったら!)

「錬金!」

 精神力でゴリ押しすれば勝てはするだろうが、貴重な時間をすり潰す事になる。できうる限り、速く勝たねばならない。

 ルイズは三度、錬金の呪文を唱え、土煙を作り、ギーシュの視線を遮ったが、代々軍人の家系であり、グラモン元帥の四男であるギーシュに同じ手は通用しなかった。

 ギーシュは躊躇う事なく、土煙にワルキューレを突っ込ませたのだ。しかし、ルイズもまた、この手が通用するとは思っていなかった。

 土煙を作っても止まることなく距離を取ることに専念した。土塊で作った人間大のゴーレムは、人間並に動くことはてきても、人間以上の速度を出すには、それ相応の精神力が要求される。

 ギーシュは7体のゴーレムを出している。数の暴力に頼るのは正しい。だが、この決闘に限っては、1体のゴーレムを運用するべきだった。そうすれば、ルイズの速度に追いつけたはずなのだ。

 ルイズはまるで脱兎のように遠くへ距離を取った。逃げ出したといわれても否定できない程の距離である。事実、観客たちは「逃げんな」とヤジを飛ばしだした。

 観客の多くがヤジを飛ばす中、決闘を冷静に見ている者達もいた。

「……ヴァリエールって足速いのね」
「たぶん、あれは魔法」

 いつの間にかやって来たタバサの言葉に、キュルケもモンモランシーも目をむいた。

「え、じゃあルイズってやっと風の力に目覚めたって事?」
「確かに風魔法の使い手は皆、逃げ足は速いわね……バッタの足食べたら風魔法に目覚めるのかしら?」

(風じゃない……それだけは確か。でも、だとしたらどんな力を使っている?)

 キュルケのバッタうんぬんの話はタバサには分からなかったが、ルイズが何かの力に目覚めた事だけはタバサにはわかった。もし、それが、強い力なら、是が非でも手に入れたい――

 と、タバサはココロの底から願ってしまった。


 遠くまで離れたルイズは、まず、息を整えるべく行動した。肺が爆発しそうな程苦しい。タルブロン師匠の様な、決して疲れぬ金属の身体が恨めしい。

 何度も深呼吸して息を整えると、ルイズは再び杖を左手に持ち替えた。

 観客の居ない所ならともかく、これだけ多くの観客がいるのなら、系統魔法のように偽装する必要があった。

 ルイズは、呪文を唱えてマジックミサイルを発動した。

 精神力と動作のみで発動した秘術の矢は紫光を纏いながら、ルイズの視線誘導に従って、ギーシュの持つ杖へと飛びこんだ。

 が、既の所で盾持ちのワルキューレに邪魔をされた。

 ルイズが魔法に成功したという驚きの声で辺りがどよめいた。

 中でもいちばん驚いたのはギーシュだったろう。予期せぬ魔法に「危なかった」と言わんばかりに脂汗をかいている。


 その様子を見たルイズは「惜しい、ならば」と、次の呪文を繰り出した。杖嚢に入っていた予備のバッタの足を使って跳躍ジャンプを唱え、健脚ロング・ストライダー、と秘術を行使し、ルイズを叩き潰さんと、こちらへ走りこんできた5体のワルキューレをピョンと3.5メイル程も跳躍して躱した。

 勢い良く跳んだことで、バランスを失い、一瞬テンパッてしまったルイズだったが、着地の衝撃をなんとかこらえると、ギーシュを見据え、それこそ、矢の様に一直線に走りだした。

 一方、ギーシュは恐慌状態に陥っていた。

 貴族の癖に魔法も使えぬ女、親の七光で、お情けで学院に入れてもらっている女と、バカにしきっていた彼女を自分のワルキューレで瞬殺できると踏んでいたのだ。これは単なる憂さ晴らし。宰相の娘だろうが、知ったことかと。

 それがどうだ。瞬殺どころか、自分を倒そうと虎視眈々と勝機を狙っているではないか。
 
「わ、ワルキューレぇぇぇぇぇぇぇ!」

 精神力を使い果たしてもいい、ここで彼女を潰そう。

 ギーシュはそう決心して、自分の周りをさらに追加で2体のゴーレムを創造し、脳が焼け付きそうな熱さを発する中、どうにか踏みとどまった。

 ギーシュが追加でゴーレムを呼び出してのを見て、もう吹き飛ばしてもいいかなという思いがルイズの脳をよぎった。だが、どうせなら実力で勝ちたい、この手に入れた秘術の力で!

 ルイズは杖を右手に持ち替え、ギーシュの視界を「錬金」で遮り、跳んだ。


 至近で炸裂したルイズの魔法は、爆風を産み、ギーシュは吹き飛ばされそうになった。両手で顔と杖をかろうじて守ったものの、ルイズから視線を外してしまうという失態を演じてしまった。

 それがギーシュの敗因だった。

 目の前にいるはずのルイズがいない、それに、月夜で明るいはずなのにどうしてこんなに暗いんだ?

 疑問を抱いたギーシュが、はっと気づいて顔を上げた時には、勢い良く走り込み、そして高く飛び上がったルイズの両足がギーシュ顔面に突き刺さった後だった。

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