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ハルケギニアのウィザード見習い 秘術の力

  

  え? 何で? 何でこの娘がここにいるの?

 第2話 秘術の力


 

 余りにも予想外すぎる事態に、頭がうまく働かない。

「私は、彼女の監督役して指名された」
「え、ちょっと待」

 勝手なことを言い始めたタバサを止めようとしたルイズだったが、よくよく考えれば、ここで揉め事を起こすよりは彼女の作戦に乗ったほうがいいかもしれない。そう考えなおし、ルイズは口をつぐんだ。

「彼女は先日、ちょっとした騒ぎを起こしたのは、司書である貴方も知っているはず」
「……ええ、まあ」

 流石にきまり悪げに司書の女性は言い淀んだ。

 決まりが悪いのはこっちのほうよとルイズは言いたかったが、流石に口にすることはなかった。

「そこで、彼女が騒ぎを起こしてもすぐに止められるように、と、指示を受けた」
「……ま、いいでしょう。ですが、次は正式な書面を持ってきてくださいね。別に貴女でなくても、彼女が何か問題を起こせば、司書である私が止めるのが筋であり、職務ですから。ルイズ・フランソワーズ、ここでの騒ぎは許しません。いいですね?」

 嘘を言うな。お前サボリたかっただけだろ? という意味の視線を込めて、彼女はタバサを睨み、ついでルイズに視線を向けた。

「……はい」
「では杖にかけて宣言してもらいます」
「杖にかけて」

 しぶしぶとルイズは杖にかけて誓った。我慢、我慢だ。今はまだ――。

「杖にかけて。彼女が騒ぎを起こしたら一発ガツンといく」

 タバサは愛用の節榑だった杖を掲げた。

 こうして二人はフェニアの図書室に入室を許された。

 二人は司書の目と耳が届かない奥まで進み、本棚と本棚の合間で対峙した。

「で、なんでアンタが此処に来たワケ?」

 ルイズはこの留学生が何故ここにいるのか、分からなかった。まさか、シュヴルーズ先生に言われて来たわけではあるまい。彼女の本当の目的が知りたかった。

 この娘がキュルケと仲が良いのは知っている。だが、授業をサボってまでここに来る意味がわからない。

「……貴方に調べ物があるように、私も調べたいものがある。フェニア図書室に入室できる機会なんて、多分もうない。これを逃したらダメだと思った」

 タバサはじっとルイズを見つめた。声は平坦で感情がまるで篭ってない。にもかかわらず、彼女の視線は眼鏡越しでも熱く、この娘の『雪風』という二つ名は間違いではないのかという錯覚を起こしそうだった。

「調べ物……って何? 正直に答えて」

 ここで何かの虚偽を言うなら、この娘は信用できない。唯でさえ、家名を名乗ったことのない娘だ。彼女の蒼い髪を見れば、彼女がガリア王家に縁のある人物だとはわかる。おそらくはそれが原因で家名を名乗れないことも。

 で、あればこそ、ルイズは、彼女個人に心の底を打ち明けて欲しかった。彼女という人間を信じたかった。

「私の身内が……」

 そこまで言って、タバサはルイズを見て、何かに気づいたのか、言い淀み「母の病気について調べたい」と言い直した。

「貴方も病気について調べたいの!?」

 ルイズはうっかり、自分が本当に調べたかった事を喋ってしまっていた。

「貴方"も"?」

 タバサは不思議そうに尋ね返す。

 ルイズはうっかり喋ってしまった事に気づいて、おもわず自分の口元に手をやったが、後の祭りだった。

「……私の姉の事、知ってるかしら?」
「婚約破棄される事4回の強者なら聞いたことがある」
「いやそっちじゃなくて……そっちはピンピンしてるから。もうひとりの姉のほう。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。私が病を治したいと思っているのは、ちい姉様なの」
「ラ・フォンティーヌ?」
「ああ、それね。父様がちい姉様のために一代限りで領地を分けたのよ。静養できるようにってね」
「それで?」

 ……私が質問したはずなのに、なんで自分の事喋っているのか。

 使い魔につままれた様な気持ちでルイズは語った。でも、不思議と悪い気はしなかった。そしてルイズは、話し相手を見つけた独居老人の様に、のべつ幕無しにカトレアの事、自分の魔法の事等をしゃべり続けた。

「じゃあタバサ、私は魔法、貴方は病気に関する資料を共同で当たるということでいいわね?」
「恩に着る。必要なら対価も払う」
「いらないわ。正直に言うとね、ちょっと心細かったの。でも、そうね……」

 ――ルイズには友達と呼べる人間はいなかった。

 自分の性格に起因している事柄でもある。侯爵家の令嬢という家の地位の高さも関連している。それでも――助けて欲しい時に、助けてと願えば、手をとってくれる人がいるのではないか、と、彼女は思った。

 あの島で、ルイズを助けてくれた男の子の様に。

 私の事を心配だといったモンモランシーの様に。

 今なら、勇気をほんの少し出せば――


 ルイズはペロっと舌を出し「ごめん、やっぱり対価をもらうわ……私と友達になって」


 ――願いは叶うんじゃないだろうか?



 ……様々な事を経験してきたから、自分は、大抵の事には動じないと、タバサは思っていた。が、ルイズの言葉には流石に呆気に取られた。そして、去年のキュルケとのイザコザを思い出し――くすっと笑みを浮かべてしまった。

 こくん、とタバサは頷いた。 


 †


 最近、タバサの様子がおかしい。

 と、キュルケは感じていた。それと言うのも、3日前のシュヴルーズ先生の授業を「ポンポンが痛い」と抜けだしてからだった。何が原因かはわかっている。

 ――答えはフェニア図書室だ。

 本好きのタバサの事だ。ヴァリエールを上手く煙に巻いて、教官用の書庫に潜り込んだのだろう。

 そこまではいい、いや、よくないんだけど。

 あのタバサが、そしてヴァリエールが時折、「お互い、目と目で通じあってます」な視線を交わしているのはどういうことなのよ~?

「何があったのか気になるぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 サイレントの魔法をかけるのも忘れて、キュルケはベッドの上で枕を抱きながら、ゴロゴロと転がり叫んだ。

 隣室からドン、ドンと壁を叩かれても、彼女の正気は戻らなかった。




「うっさいわね、何盛ってのよあのバカ!」

 壁ドンの主はルイズであった。

 フェニア図書室に行ってから、すでに3日程立っていた。

 明日は待ちに待った虚無の曜日。自習の成果を、タルブロン師に見せなければならないのに、隣室のおっぱいオバケがやたらと騒がしかった。

 (おかげで集中できないじゃないの)

 ルイズはイライラしながら、卓上の巻物とポーチを見つめた。

 二つの月が天へと上り、食事もすませた今は貴重な勉強の時間だった。


 優秀なルイズの頭脳は、すでにエベロンで使われる共通語の文字をすでにマスターしていた。

 あとは、単語の書き取りと聞き取りである。単語の書き取りは問題ない。反復練習あるのみだ。聞き取りの方は――サイトの事を思い出し、顔が火照りそうになったが――彼のおかげで飛躍的に学習速度が進むだろう。一方、秘術で使用するルーンの書き取りも同時並行で進めねばならず、ルイズは、まさに寝る暇も惜しんで、精力的に勉強を続けていた。

 タルブロン師が言うには、ルイズのウィザードとしての基礎はすでに出来上がっているという。

 呪文を脳に焼き付け、物質要素を駆使しながら、正確な発音と指印を結び、脳、身体、腕、指と力を意識しつつ指定の場所へ開放する事。これは、細かい部分を除けば、実家で教わった事と変わりはない。差異といえば、自分の身体に流れる血の流れを感じ取り、そこから力を開放する事ぐらいだろうか。

 あとは、秘術の力が開放されるのが、脳、身体と物質要素、指と動作が二段階なのに対し、系統魔法は、血、杖、と、たったの一段階であり、呪文の完成速度は格段に違ってくる。平時ならば問題ないが、戦時ではどうだろう。ほんの一瞬が生死を分ける戦場では、この時間差は、不利にならないのだろうか?

 時間差といえば、どうもエベロンとこちらでは時間の流れが違うようだった。

 むこうで1週間を過ごしたはずなのに、何故かこちらでは3日しかすぎていなかった――。

 そういった事も含めて、聞きたい事が山程あり、虚無の曜日が待ち遠しいのだった。 
 
 ルイズは心を落ち着けて、目の前の巻物を読み込んだ。跳躍ジャンプの呪文だった。

「普通は、魔法の感知ディテクト・マジックあたりから始めるんだが」とタルブロン師は言った。だが、冒険者になるなら必須だという。覚えていないと言おうものなら「神殿か酒場に行ってこい」と仲間から総スカンを食らうのだと、タルブロン師はシミジミと語った。

 神殿はともかく、なぜ酒場なのかルイズには理解が及ばなかったが。

 実際の所、呪文を込めた巻物スクロールさえ手元にあればなんとかなるらしいが、買えば高いし、自前で作るとなると、事前の用意の手間暇とお金が……となるらしい。だからできるだけ脳に呪文を刻んでおくのだという。

 ルイズは、心を落ち着けて、今、自分が覚えている呪文と、目の前の巻物に書かれている内容が同じかどうかを確かめた。そして間違ってはいない事を確認すると、自分が愛用している杖を用いて、呪文を唱えてみる。

 すると、バチンと音を立てて杖の先がはじけた。

 ……いつもの失敗だった。

 どうして杖を使うと呪文が失敗するのか、ルイズには見当が付かなかった。そして、ため息をついて、杖をマントの内側にある杖嚢に収めた。杖での魔法行使は今のところ、失敗続きだった。やはり、タルブロン師の言うとおり、正攻法でやるしかない。

 だが、しかし……チラリと卓上の小さなポーチに目をやった。

 ……いい加減、覚悟を決めよう。

 とは言うものの、できることなら使いたくないというのが本音である。苦虫を噛み潰した表情を浮かべてルイズはポーチを開けた。そこには、タルブロン師匠から貰った物質要素マテリアル・コンポーネントが詰まっている。

 恐る恐る手を突っ込むと、指の腹を触る硬い感触にヒィッと、悲鳴を上げそうになった。どうにか一本だけ引き出して、机の上にソレを置いた。

 どこからどう見てもバッタの後ろ足だった。

 ポーチの中には「練習しなさい」と、師匠の愛が、文字通り山ほど詰め込まれている。
 
 半泣きになりながら、ルイズは利き手にソレを握りこんだ。

 ……さあ、覚悟を決めよう。

 右手にバッタの後ろ足をギュっと握りこみながら、ルイズは呪文を唱え始めた。両手と指で複雑に印を結びながら、正しい発声、正しい抑揚、脳に刻まれた呪文とバッタの後ろ足を意識しつつ、終いまで唱えきる。

 脳から、身体へと力が流れ、精神力が失われてゆくのがわかる。杖を使って魔法を行使する時と違い、約半分程の量だった。そして、握りこまれたバッタの足へ力が流れ、バッタの足は粉々に砕け散った。

 指定する先は己の身体、意識を再び自分の身体へと戻す。

 ルイズは、己の身体を何かの力が包み込んでいるのを感じた。跳躍の呪文だから、ピョンと飛んだら、天井付近まで手が届くようになるのだろう。

 ルイズは気持ち抑え目に、ピョンと跳ねてみた。

 即座に天井とキスするはめになった。

 乙女にあるまじき「グヘァ!」というカエルを踏みつぶした様な声をあげ、そのまま床にまでドスっと落ち、再度「グェッ」と声を上げた。

 しかし、ルイズの顔は笑っていた。鼻血をダラダラと出しながらの泣き笑いだった。

「いやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ルイズの叫び声に隣室からドンドンと抗議の音が鳴らされた。 




「うるさいわねー、何サカってるのあの子?」

 サイレントの呪文使いなさいよ、と、自分の事は棚にあげるキュルケであった。そして「あ、あの子サイレント使えないんだった」と思い直した。

(ふむ。なんか一人で盛り上がっているようだけど、ひよっとして『良い相手』から手紙でもきたのかしら? だったら、ちょっとからかってあげなきゃ~♪)

 語尾に音符が付きそうな程の脳天気な思考でキュルケはすばやく身なりを整えた。部屋にある三面鏡を使い、細かい所までチェックする。

「良し!」

 さーて、どんなふうにヴァリエールをからかおうかしら~と、キュルケは隣室に向かった。コンコンとドアを叩いて「ヴァリエール~? 入るわよ~?」と声をかける。 

 だが、返事がない。ノブを回せば、鍵がかかっていた。

 キュルケはさっと杖を抜き、アンロックの呪文をかけ、ドアを開けた途端、ルイズの、えへらえへら、といった塩梅の怪しい笑い声が部屋の中から聞こえてきた。

 その声を聞いたキュルケは流石にルイズの事が心配になった。

「……ヴァリエール?」

 僅かに開いた扉からそっと中を覗く。

 そこには――。

 奇声をあげ、涙と鼻血を出しながら、さながら恋人にするような熱烈なキスを何度もバッタの足にしているルイズ・フランソワーズの姿があった。

 キュルケはそっと扉を閉じ、そのままコツン、と、額をくっつけて呟いた。

 (アカン)

 衝撃のあまり、キュルケは、ゲルマニア帝国の帝都ヴィンドボナで使われる標準語ではなく、生まれ育った故郷のツェルプストー辺境伯領の訛りが思わず、出てしまっていた。

(あの娘、絶対何かヤバイ薬やってる。いくらなんでもそれは止めなくては)

「ちょっとヴァリエール!? アンタ何やってるのよ!」

 一歩だけ、部屋に入り、扉をゴンゴンと裏拳で叩いて、ルイズの注意を惹きつけようとするが、彼女はバッタの足を拝み倒して、キュルケにはまったく気づいていなかった。

 入室するのをためらったキュルケだったが、今はルイズを何とかするのが先決だった。

「何をやってるの!」と彼女はルイズに近寄り、バッタの足を彼女から引き剥がした。

 これには流石にルイズも気づき「ちょっと! アンタ何勝手に入ってきてんのよ!」と抗議した。

「何回ノックしても返事をしないし、声をかけても気づかなかったじゃないの」
「それは悪かったけど、だからって、勝手に鍵を外して部屋に入るなんて失礼でしょ。ゲルマニアの田舎だったら鍵かける必要もないんでしょうけどね。ここはトリステインなの。アンタの家みたいな田舎と一緒にしないで。さあ出て行って!」
「田舎ってアンタの実家その隣じゃないの。田舎者はアンタも同じでしょうに」
「うるさい! うるさい! いいから出て行け!」
「アンタがヤバイ薬やめたら出て行ってあげるわよ」

 キュルケの真面目な顔にルイズは面くらい、頭のなかで疑問符達がタニアリージュ・ロワイヤル座で踊り出した。

「薬?」
「とぼけたってムダよ。どんなヤバイ薬やれば、バッタの足にキスできるのよ気色悪い。あと鼻血拭きなさいよ」
「ちょ、アンタ見てたのね!」
 
 ルイズの顔が、かぁっー、と、一瞬にして火照った。

「えー、えー、この目でしっかり見てました。さあ出しなさい」
「そんな物はないし、あってもアンタには渡さないわよ!」
「そう、ならば実力行使に出るわ。薬の入れ物はこれでしょ」

 キュルケはさっと机に近寄ると、卓上のポーチをむんずと掴んで、パカッっと開けて中を――しっかり見てしまった。

 みっしりと隙間なく詰まった大量のバッタの足を。

「いいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああ!」

 ソレを認識してしまったキュルケは窓に向かって思いっきりぶん投げた。不運なことにポーチの金属部分が窓にあたって窓ガラスは砕け散り、ガッシャーンと音を立てて割れた。

「あああ、私のマテコンがあああああああ!」
「何であんなにいっぱいあるのよ! バカじゃないの!? 馬鹿じゃないの!!」

 二人が言い争う間もなく、割れた窓ガラスの階下から、男女の悲鳴が聞こえてきた。

 女子寮は男子禁制なので、寮の外で逢引する生徒は多い。二つの月が登っている今、月夜のお茶会と洒落こんでいる者達がいてもおかしくはなかった。

 キュルケとルイズが、そーっと窓から階下を覗くと、ギーシュ・ド・グラモンと名前の分からない下級生がいた。ふたりとも、椅子から転げ落ち、尻餅を付いている。庭に用意されたテーブルの白いシーツは月明かりを浴びて白く輝き、大量に散らばったバッタの足が禍々しい華を添えていた。

「あ」
「あ」
「ああ!?」

 ギーシュの怒りに燃える瞳がキュルケとルイズの顔を捉えた。

「これをやったのは君たちか……降りてこい、決闘だ!」

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