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コルソス島奇譚 西風の貴婦人号

 コルソス島から西へ450マイル行ったところに、三樽江島スリー・バレル・コーヴ

と呼ばれる島がある。
 島の中央に火山があるために、そこから流れでた溶岩が海水に冷まされて固り、島の東側は人の住むことのできない土地であるが、中央から西側は竜語のHのような形をしていて、様々な種族たちがそこに生を営んでいた。

 島の最西端側は、なだらかな砂浜が南北に一直線に伸びて長い海岸線を形成している。沿岸から沖合へ僅かに移動すれば、周辺海域の複雑な海流故に潮通りが良く、赤道に程近い故に強烈な紫外線を浴びた良質の造礁サンゴ達は、赤、緑、ピンク、青、紫とそれぞれに蛍光タンパク質を励起させ、見事な色揚がりを見せていた。

 そのサンゴを住処として、色とりどりの、南洋特有の多彩な色彩を持つ魚達が集まってもいる。もしも、観光客が来るのならば、最良のリゾート地となるだろう。最も、バカンスに赴いた所で、人間に敵対的なサファグンがいるので血みどろのバカンスとなるのであるが。

 島の北部は海辺に住むことを選んだコボルド達がたむろしていて、西側のサファグンや、火山の周りにいるファイアーメフィットと餌をめぐって三つ巴の縄張り争いをしている。

 島の南側は文明社会たる住人たちの領域だ。

 水深が深いために大きな船が入港できる天然の入江があり、ゼンドリックとコーヴェアのどちらへ行くにもほぼ等距離である。これが、三樽江島が海賊たちが自然と集まり、コーヴェアとゼンドリックを行き交う船乗りたちには通称、海賊島として恐れられている理由の一つであった。

 そして、恐れられている理由のもうひとつが、通称、ラッカム・トライアルと呼ばれる海賊養成所だった。

 養成所の所長は、豚っ鼻、つまり、オーク種族である男で、名をラッカムという。ラッカム・トライアルの名は彼から取られたものだった。

 彼はある意味公平な男であった。

 海賊になりたいのなら、どんな種族だろうと、男女の別なく受け入れる。が、それには試練を通らなければならない。しかも命がけである。六人一組でチームを組まされ、まずは基礎体力、罠の知識、それを解除する技術が問われ、それを突破して初めて半人前の訓練生として認められる。船に乗るのはそれからだ。

 無論、突破できなかった半端者は死体となってコボ達やサファグンの餌となった。

 最終戦争の後は、戦を求めて、流れこんできたウォーフォージド達が無数に集まり、疲れを知らず眠りを必要としない彼らは、誰からも――特に夜の見張りに――尊重された。

 ウォーフォージドという新たな住人を迎え、戦後の好景気も相まって、今、三樽江島の海賊たちは皆忙しい身の上であった。

 そんな矢先の事である。


 海賊たちは、船ごとに所属する組織が違う。

 まっとうなカタギの社会もそうであるように、仲の良い組織もあれば、互いに敵対しあっている者もいる。人がティーフリングのようにツノを突き合わされば、軋轢が生じるものだ。だがしかし、この島に寄港している間は、殺し合いはご法度である、という不文律は割りと初期の段階で出来上がっていたのだった。

 三樽江島の不文律はいくつかある。

 新参の海賊は、知り合った別の海賊に依頼して、それを先触れとし、いついつに寄港する――嵐で予定通りにいかないのも日常茶飯事なのであるが――と連絡をよこすものだった。

 その日、島の南側にある高台、俗に『カラスの巣』と呼ばれる見張り小屋から、所属不明の船が二隻こちらへに近づいているとの第一方があった。一隻はカラスの巣の真南から、もう一隻は西からとのことだった。寄港の予定にない所属不明の船は、どこかの海賊が船ごと分捕ったものか、はたまた、連絡を忘れた粗忽者か。いずれにせよ、よくある事だと誰もが油断していた。さらには、西風の貴婦人号がコーヴェアへ向けて訓練航海に出ていて不在だったことも災いした。

 カラスの巣の西、約300ヤード先にはブラックロッホ砦がある。

 砦の西側には海底洞窟の入り口があり、それはガレオン船が入れるような巨大なもので、そこからまっすぐ洞窟内を進めば、ブラックロッホ砦の直下へ直ぐ様侵入できる。

 この洞窟内へ入ることが許されるのは、ラッカムへアガリを持って行く時のみだった。
 
 南から接近してきた一隻はカラスの巣から半マイル近くまで来ると、突然、主檣と帆と思しき物を海に投げ捨て、血の様に紅いエレメンタルリングをひらめかして上昇し、西から来たもう一隻は、そのままブラックロッホ砦の海底洞窟へと突っこんできた。

 正体不明の所属船は、カラスの巣が警告を発する前にブラックロッホ砦の直上に達し、制空権を確保した。

 カラスの巣の見張り達は仰天した。

 この島の元締めであるラッカムをのぞいて、飛空艇を持つ海賊などついぞ聞いた事がなかったからだ。

 最終戦争のドサクサに紛れてかっぱらった、或いは戦線から逃げ出した兵隊くずれの噂はいくつかあるものの、嵐と怪物だらけのサンダー海の空域を三樽江島までもってこれたのも、海賊の中ではラッカムとそのクルーのみだったのだ。

 その船は、決して帆船なんかではなかった。

 今やその偽装を捨て去り、見せつけるように堂々と姿を表している。

 デンスウッドで出来ているかのような漆黒の船体、船尾後部鐘楼を船底から上下に貫く一対の牙、それは、船を横から見れば三日月の様に見えただろう。牙自体は船体と同じく木製で、牙と牙の先端は、紅いエレメンタルリングでつながっている。船尾は魚の尾びれのような派手な飾りがついていて、エレメンタルリングと同じ紅のカラーリングであった。

 この船こそが、この数ヶ月サンダー海を荒らしている海賊、血潮団ブラッド・タイド・パイレーツの旗艦、紅月号クリムゾン・ムーンであった。

 荒稼ぎをしている癖にろくに挨拶にも来ない新参のふてぇ野郎――サンダー海の海賊なら、誰もが眉をひそめる噂話――は、ブラックロッホ砦の直上に達すると、船底側面にある機雷発射孔を8口も開き、空爆を開始した。

 機雷発射孔から導火に火の着いた樽が片面4口から3樽ずつ、計12発が投下された。導火線のついた火薬樽は、砦の天井を構成する煉瓦に接地する瞬間に弾け、閃光と轟音が辺りに響いた。

  ブラックロッホ砦は、海底洞窟の上にある砦だが、これは海賊たちが砦といってるだけで、コーヴェア大陸の各国が最終戦争時に築いた軍の本格的な物とは比べるべくもないお粗末なものだった。ブラックロッホ砦の天井は爆圧にあっさりと負け、簡単に吹き飛んでしまった。

 一方、洞窟に突入したもう一隻は、洞窟内の監視所を見つけると、搭載してある秘術火砲を向け、雷撃をお見舞いし、騒ぎを聞きつけた海賊たちが集まってくれば、氷撃、或いは、石の散弾という挨拶状を送付した。

 ……こうして、海賊達がろくに組織だった抵抗をさせる間もなく、ブラックロッホ砦は陥落した。

 そして、洞窟に突入させた船をそのままに、紅月号はゆうゆうとエレメンタルリングをひけらかし、彼方へと消えたのである。

 翌日、騒ぎを聞きつけたラッカム率いる西風の貴婦人号は、艦首を返して帰ってきた。

 彼は即座に陸戦隊を1個中隊編成し、ブラックロッホ砦に送り出した。

 とはいえ、すでに砦は崩れ落ち、中に入れない状態である。陸戦隊のほとんどは、瓦礫の撤去からすることになり、一部のウォーフォージドからなる分隊は海底洞窟を泳いで進んだ。

 ウォーフォージドは水の中に放り込まれても30分は平気である。それが選ばれた理由だった。

 そして、偵察を終えた彼らがもたらした情報は、奇妙な物だった。

 血潮団を構成する連中は、ドラウにホブゴブリンにコボルドが大半だったはずである。そこに新たな一団が加わったというものだった。

しかもそいつらは、知性があり、喋るゾンビだったというのである。

 この報告にラッカムは黙り込んだ。

 喋る死人といえば、最終戦争でカルナス国と『ヴォルの血』と呼ばれる新宗教の連中がつるんで、翡翠爪騎士団オーダー・オブ・エメラルドクロウという特殊部隊を作っていたはずである。

 『死を克服するには不死になるしかない』という教えの元に、次々と知性ある死人を作っていったが、戦後は、国教として迎えられたはずの『ヴォルの血』は引きずり降ろされ、翡翠爪騎士団も国外追放になったと聞く。

 こいつは臭いな……と、彼の良く効く豚っ鼻はヒクヒクと動いた。

 ブレランド王室情報部ダーク・ランタンに報告しなくては。

 こいつは自分の手に余るかもしれないと、ラッカムは考えた。

 ……博打で儲けを出すには自分が胴元に成ることだ、と後ろ暗い連中は嘯く。

 同感だと考えた人間がコーヴェアにいて、彼をこの地へ送りこんだのだった。つまり、ラッカムは海賊達の親分格でありながら、その実態は、ブレランド王室情報部ダーク・ランタンに籍を置き、サンダー海を担当とする私掠船の船長兼スパイマスターだったのである。
 
 情報を海賊達にそれとなく流し、ブレランド王国に被害が及ばないようにしたりもする。無論、気づかれないように、ある程度は調整し、ブレランドの船を襲わせることもある。その多くがブレランド国内でカタギと言いがたい犯罪組織だったりするのだが。そして、襲った

船が三樽江島に寄港すれば、寄港料を徴収し、被害を少しでも補填するようにしていた。

 そうやって彼は、淡々と任務を励んできたのであった。

 結果から言えば彼の鼻は正しかった。
 
 送り込んだ1個中隊は、敵の強力な魔法使い達に敗退した。

 旗色が悪いなら、無理せず撤退しろと厳命してあったため、損害は1個小隊程度ですんだものの、自分たちの愛しきあばら屋に余所者が勝手に住み込むのも具合が悪い。

 結局、彼はストームリーチに住んでいる冒険者に依頼を丸投げし――後から聞いた話であるが、ストームリーチから来た某という黒目黒髪の冒険者が派手に暴れて帰っていったらしい――次の問題に手を出すことにした。

 コルソス島のシグモンドから来た救援依頼である。

 竜と戦えってか? できるかボケ。

 シヴィス氏族の伝達を聞いたとき、ラッカムは正直な感想を抱いた。しかし、彼程の地位ともなると、関係各所への義理張りもまた仕事の内である。義理と人情の板挟みとなり、彼は悩んだ。

 どーすっかなーと、パイプを加えて人より大きな鼻から紫煙をぷかりと浮かべて思案しているうちに、別の報告が入った。

 ウルビアンがコルソス付近で難破したというものだった。

 ラッカムは頭を抱える暇もなく、救援体勢を整えざるを得なかった。

 ウルビアンは王室が最も信頼する腕利きの調査官である。見捨てたなんて言われたら自分の首が危ない。

 『西風の貴婦人』号の艦長、イルマリン・タイケンに命令し、配下のウーズ・マスター、ウォーフォージド達を呼び寄せ、ありったけの火薬樽を集め、即日に積み込みを済ませると、慌てて出港したのだった。



「コルソス島上空まで10分」

 全長50ヤードに達するファルコン級の船である『西風の貴婦人』号は、その級に恥じぬ速度、450マイルを一昼夜で飛んだ。その間、嵐や怪物共に出会わなかったのは奇跡に近かった。
 
 ラッカムは艦長のイルマリンに命令を下した。

「下部デッキのウーズマスターとコボ達に連絡、棺桶及び、爆雷投下準備 復唱」
「復唱します。下部デッキのウーズマスターとコボ達に連絡、棺桶及び、爆雷投下準備」

 スピーキングストーンを介した連絡が行き交う。

「所長、コルソスは生きてる人間いますかねぇ?」

 イルマリンのバリトンの声がラッカムの耳朶を叩いた。

 この人間の男は、非番の日になると、三樽江島唯一の酒場、海のあばずれ亭ソルティ・ウェンチ・タバーンでマンダリンを弾きながら自慢の美声を聞かせるという、少々変わった男だった。

「わからん、爆雷を投下して、敵の地上戦力を砕き、しかる後、棺桶を投下して情報を収集すれば最低限の義理を果たした事になる。こっちにかまけて本業を疎かにするわけにはいかねえからな」

 フンっと鼻息を荒くしてラッカムは応えた。

 そこへスピーキングストーンから声が聞こえてきた。

「艦長、リシアの奴がタダをこねてまして……」

 やっぱりかとラッカムは顔をしかめた。

「俺が行く」

 ラッカムは艦橋を出ると、後部鐘楼に入り、下部デッキへと続くスロープを降りた。

 下部デッキに近づくにつれて、女の泣き喚く声が聞こえてきた。

「いやよ、私のウーズちゃんが!」
「何をガタガタ騒いでやがる!」 

 下部デッキに乗り込むと、そこは、狂乱の渦となっていた。

 右舷も左舷も、側面ハッチの前に火薬樽がつまれ、船の傾きで転がらないようにキチンと頚木で固定されている。そして、火薬樽の前には、棺桶が山ほど並べられ、その前には壺も置いてあった。

 棺桶の中にはおどろくべきことに、武器を抱きかかえたウォーフォージドが、やや窮屈そうに入っいて、壺の方にはウーズが、これまた大人しく入っていた。

「だってぇぇ、しょちょう~」
「リシア、お前よう、こういうことがあるって解ってて志願したんだろうが。いい加減慣れろよ」

 新緑のローブを身にまとい、茶髪でふんわりとマッシュレイヤーロングの髪型をした――正直な話、似合っておらず、あまり可愛くはない――リシアと呼ばれたハーフオークの少女は涙目で壺を抱きかかえていた。

「わかってたけど、わかってたけど、やっぱり私のウーズちゃん達が死ぬのはヤダ……」
「こいつらは衝撃緩衝材としては最高なんだって自慢してのお前だろう。自分が愛して手ずから育ててやったこいつらをもっと信用しな」

 ラッカムは壺の中へ無造作に手を突っ込みウーズを手にとった。

 リシアの調教が行き届いた彼らはリシアの指示なくては決して人を襲わない。棺桶に寝ているウォーフォージドごと、このウーズで包みこみ、戦地に投下するというのがラッカムの作戦案であった。

 フェザー・フォールの呪文話使える秘術師を雇うよりも費用が安く済むというのが利点で、平時はウーズ・マスターである彼女がウーズを培養する。培養は簡単だ。生活ゴミを与えだけでいい。

「わかってます! わかってますけどぉぉぉ~」

 リシアは余計にわんわんと泣きわめいた。

「あー、くそ、わかった。こいつらの培養壺を申請通り、あと100増やしてやる。それでいいか?」
「まいどあり!」

 リシアは彼女の牙の様に輝く笑顔を見せた。

 さっきまで泣きわめいていたのはなんだったのか……ラッカムは頭を抱えた。

 くそ、いつかアティアグの巣穴に素っ裸で放りこんでやる。

 後ろ暗い復讐の妄想を抱きながら、ラッカムは下部デッキを後にした。


「リシアはどうでした?」

 イルマリンの美声で浴びせられた質問に内心イラッとしながらも、ラッカムは応えた。

「あのクソアマ、予算をふやすことばかりいいやがって……」
 
 ドカっと音を立ててウィンターウルフの毛皮で誂えた椅子に深々と座り込んだ。

 ウィンターウルフの毛皮は赤道に近いサンダー海では無用の長物だが、風通りの良すぎる空の上で尻を温めるには丁度いい。

「……でも承認なさったのは所長では?」
「……」

 ラッカムは不機嫌さを隠さず黙り込んだ。クソアマと罵りつつも、その有能さは認めている。

「コルソス村上空まであと5分」

 風に負けまいとする航海士の怒鳴り声が艦橋内に響いた。航海士の報告を確認して彼は命令を発した。

「降下開始、雲の下にでろ。コルソス島上空を通過しつつ空爆、後、棺桶投下、必要なら援護射撃」
「復唱、降下開始、雲に下に出る。コルソス島上空を通過しつつ空爆、後、棺桶投下、必要なら援護射撃」

 腕利きの術者がいれば、念視の呪文で精密爆撃ができるのに……とラッカムはボヤいた。船を動かすには、ただでさえ金がかかるというのに、盲撃ちともなれば金貨をばらまくようなものだ。

 イルマリンが復唱し、航海士がスピーキングストーンを通して、機関室に命令をがなりたてる。

「機関室、出力7割5分に下げ」

 続けて航海士は命令を別の部署に届けた。

「横舵室、下げ30度」

 命令に従い艦首が下がり、船は厚い雲を突き進んだ。

 ガタガタと船体を軋ませ、雲を突き抜けると、赤道直下の地域にはありえない光景が広がっていた。雪が、甲板を叩き、荒れ狂う風が悲鳴のように再度、船を軋ませる。

「横舵室、艦を水平に戻せ」

 艦橋からは、万年雪を頂く嘆ケ峰が遠目に見えた。そして、村の惨状も。

 ラッカムは鼻をヒクつかせながら、ボヤいた

「ちくしょう、大赤字だ」

遠目からでも、村のど真ん中に鎮座する白竜オージルシークスの巨体が見えていた。





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