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コルソス島奇譚 月輪

 オージルシークスの血にまみれた爪に、ルイズが契約コントラクト・サーヴァントの口づけを交わしたその瞬間、オージルシークスの脳裏には、忌まわしきマインドフレイヤーの苦痛に塗れた叫び声が聞こえてきた。
 
 ドラスティックス・アーシュテンドはオージルシークスの目を通して、事態の推移を見ていた。彼女の言うとおり、竜語に精通している人間というのは稀有である。

 この女の脳を啜りたいと、食欲と知識欲が湧き上がった。

 まさに――その時、ルイズとと名乗る女が何かの魔法を使ったのだった。そして、その魔法は、何故かオージルシークスを素通りして、こちらへ飛んできたのだった。

 ドラスティックス・アーシュテンドは、左手の甲に焼きゴテを当てられたかのような激痛を覚え、叫んだ。

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァィィィィァァァアアア!」

 苦痛に叫び声をあげながら、ドラスティックス・アーシュテンドは悟った。

 この未知の魔法は、自分に隷属を強いる魔法なのだと。

 竜種さえ下僕となす自分が、何者かに隷属を強いられるなど、屈辱以外の何物でもなかった。けれども、ルイズの下僕になるわけにもいかず、恥も外聞も投げ捨て、ドラスティックス・アーシュテンドが頼みとするアーティファクト魂砕き契約マインド・サンダーに縋り付いた。

 精神力を振り絞り、魂砕きの力を借りて、左手に顕現しようとしていたルーンを消し飛ばす。

 ドラスティックス・アーシュテンドは、全身に脂汗を流し、荒い息を吐いた。

 呼吸が苦しく、息切れを起し、めまいがする。休息が必要だった。

「あの女め、気絶せぬよう術を施してから脳を啜ってやる、四肢を切り落として、常に悲鳴を上げ続ける彫像にして飾ってやる、必ずだ!」

 欲望と復讐に目をぎらつかせながら、ドラスティックス・アーシュテンドは、まだ洞窟内に残る全ての手駒に防備をが固めるように指令を出すと、栄養を補給するために、自室にとらえてある哀れな犠牲者達の元へと、頼りなげな歩調でヨタヨタと歩み去っていった。



『娘、まさに痛快ぞ、コレほどの余興を見せてくれるとはな!』

 オージルシークスは快哉の笑い声を上げた。 

『え、あれ?』

 ルイズはいきなり褒められて混乱の極みに達した。 

 自分の唱えた契約コントラクト・サーヴァントの魔法は失敗したのだろうか?

『察するに、妾を隷属しようという魔法であったようだが、妾は今、忌まわしきイリシッドに半ば支配されておる故な、そなたの魔法は妾を素通りして、イリシッドの方にいってしまったようじゃ。あの下衆の極みが痛みを堪えて転げまわっておるわ。クハハ、愉快なことよ。さて、そなたに礼をせねばならぬな?』
『あ、ああ……』

 ルイズは強大な竜のひと睨みに、今更ながら畏怖を抱き、震えがとまらなくなった。  

『代価はそなたの命じゃ。疾く去るがいい。妾は妾を下僕にしよう等という輩は決して許さぬ。が、此度は例外じゃ。……此処から去ね!』



「ここまでだな……相棒、やれ」
 
 建物の間から事態をじっと見つめていたジーツは、怯えるルイズの様子を見て、遠く離れたタルブロンに合図を送った。

 タルブロンの位置からルイズは見えない。見えるのは、オージルシークスの尻と傍らに置かれたエレメンタル馬車だけだった。

 ジーツを信じて、タルブロンは、乾燥しきったコウモリの糞と、硫黄を混ぜ合わせた物質要素を握りこみ、呪文を唱えた。複雑に編み上げられる指印から炎が生まれ、玉となり、掌に収まる弾丸が形成される。

 タルブロンは力いっぱいそれをオージルシークス――ではなく、その傍らに放置されたエレメンタル馬車に向けて投げた。

 飛ばされた火球ファイアーボールの魔法は、狙いからやや逸れて、オージルシークスと馬車の間に着弾し、大爆発を起こし、至近弾を浴びたエレメンタル馬車は燃え上がった。


 秘術の力を感知したオージルシークスが、振り向こうとした途端、それは爆発した。

 元々は寒冷地に棲まう白竜は、当然ながら暑さも、熱さにも弱い。鱗を強烈な炎に炙られて、オージルシークスは痛みに吠え、背後のいるであろうウィザードに体ごとに向きあった。

 間近でオージルシークスの咆哮を浴びたルイズは耳を抑えてうずくまってしまっていた、しかも振り返ったオージルシークスの体勢変換に巻き込まれ、踏み潰されようとしていた。

「ルイズ!」

 才人は臆することなく、オージルシークスの元で蹲るルイズの元へスライディングで滑り込み、オージルシークスの足元から脱した。

「おい、しっかりしろ」
『こ、腰が抜けて……』
「ああ、もうしょうがねえな、いくぞ」

 そして、才人は無理やりルイズを起こし、いわゆるお姫様抱っこでそのまま後ろを見ることなく、手近な建物へ走り抜けた。

 一方、至近弾を浴びて、燃え上がったエレメンタル馬車は、轟々と燃え続け、崩れ落ちた。

 それを見たウルビアンはうっすらと笑を浮かべ、一瞬で元のむっつり顔に戻った。彼のその顔を見た者はこの場には誰もいなかった。が、次の瞬間、彼のむっつり顔はしかめっ面に変わった。

 焼け落ちたエレメンタル馬車の中から捕縛されていた3種の精霊達が顕現しようとしていた。

 ――硬い岩石から成る土の精霊アース・エレメンタル

 ――滑らかな光沢と清浄な水の精霊ウォーター・エレメンタル

 ――常に猛り続ける火の精霊ファイアー・エレメンタル

 捕縛され、こき使われていた彼女たちは怒り狂っていて、己が細胞の一片にまで宿る怒りを叩きつける相手を探していた。

 そして、目があったのは、オージルシークスだった。

 土の精霊は、おもむろに地面に手を突き刺した。

 そして、10ヤードは離れているオージルシークスの尻尾の下から、土の精霊が手近の地面に突き刺したはずの手がニョッキリと現れると、オージルシークスの尻尾を「逃さぬ」と言わんばかりにギュッと握りしめた。

 これには、オージルシークスも驚きの声をあげ、振り払おうとしたが、逃げられず、かといって蜥蜴の様に切り離すわけにも行かず、結局は敵対する気のなかった土の精霊を滅ぼすことに決めたようだった。

 残る水の精霊は、頭の出来がやや残念なのか、効きもしない氷煙フリージング・スプレーをオージルシークスに向かって噴きかける以外、なにもしなかった。

 最も恐るべき火の精霊は、当然ながら、火球を作ると直ぐ様、尻尾の自由を取り戻すのに手間取っているオージルシークスに投げつけ、彼女に悲鳴をあげさせた。

 そして、オージルシークスが3種の精霊に襲われているのを見た残りの人型種族たちは、攻勢を決意した。

 タルブロンは、灼熱光線スコーチング・レイを撃ち、ジーツは、オージルシークスの顔へめがけて投げナイフを投げ、ラースも同じく小口径秘術砲とリピーティングクロスボウを彼女の顔に向けて牽制を続けた。

 シグモンド、ウルザ、アマルガム、ウルビアン、サッド、セリマス、フラワーは土の精霊が握りしめた尻尾に群がり、少しでもオージルシークスに痛打を与えるべく、銘々に、斧、剣、棍を振り下ろした。

 これには、オージルシークスも堪らず今まで以上の悲鳴を上げた。
 
 オージルシークスは、自分の周りをうろちょろする人間に、当初は手加減する気であった。が、自分を攻撃対象として歯向かってくるなら話は別である。

「そこまでして死にたいというなら、死なせてやろう!」   

 彼女は、そう宣言し、この2本足の毛虫共を叩き潰すことに決めた。

 オージルシークスはまず、自分の尻尾をぎゅっと掴んでいる不埒者を、さながらネコが虫を叩き潰すように、殴りつけた。たった1発のパンチで土の精霊はズタボロになり、尻尾を離してしまった。そして反撃として、オージルシークスに近づいて殴りかかろうとしたが、続く二撃目を浴びて、あえなく動かぬ土くれとなった。

 自由になったオーシルシークスは、バサっと羽を動かし、滞空すると、彼女はアイス・ブレスを吐くために、深く、深く息を吸い込み始めた。

 滞空するオージルシークスに、矢が、熱線が、火球が投げつけられるが、空の王者たるオージルシークスはひょいひょいと軽快に避けた。

 それを見た才人とルイズは顔面蒼白になった。

 この後には悲劇が待っている。それを回避しなくては!

「やべえ、ルイズ、口を狙ってくれ、威力はなくていいから、あいつの邪魔はするんだ」
『わかってるわよ!』

 ウル・カーノ! ウル・カーノ!

 と、オージルシークスの行動を阻害するべく、ルイズは魔法をすばやく放った。

 ルイズの爆発魔法は、彼女の視線と連動している。目のいい彼女にとって大きい目標であるオージルシークスは、外し様のない標的だった。

 バシ、バシ、バシっと連続して呪文は炸裂した。が、オージルシークスは止まらない。彼女の深い精神集中は、ルイズの放った牽制攻撃など、物ともしなかった。

 肺いっぱいに空気を吸い込んだオージルシークスは、自分の唾液を凍らせて、舌で転がし、紡錘型の砲弾を形作った。そして、吸い込んだ息と共に、口をすぼめて、吹き矢の様に解き放った。

 オージルシークスが吐き出した氷の散弾は、二本足の人型種族ではなく、彼女が心底鬱陶しいと感じた精霊達へと向けられた。吐き出された氷の散弾は、一つ一つが数百グラムに達する質量を持っていて、地上を二本足で闊歩する生物なら、まず1発で昏倒するエネルギーをもっていた。

 その氷の散弾を無数に受けて、火の精霊はついに形を保てなくなり、己の故郷である精霊界へと還っていった。

 オージルシークスは氷の散弾を放ったものの、ブレスのひと吹きで残弾全てを放ったわけではなかった。ましてや、口の中にある弾丸は質量を持った兵器である。いかな水の精霊といえど、打撃攻撃は効く。

 自分と同じ属性ともいえる水による攻撃で、いまだに氷煙による攻撃を繰り返す脳足りんに教育してやろう。

 オージルシークスはそう考えた。

 オージルシークスは口の中の散弾を、水の精霊に向かって全て吐き出した。

 ……水の精霊は自分に何が起きたのかも理解できなかったに違いない。
 
 無数に放たれた散弾が、水の肉体を突き破って背中を飛び出したところで停止した。それだけではなく、そこから休息に冷え始め、身体を侵食するように凍り始めた。

 水の精霊は逃げるように身をよじったが、侵食は止まらず、わずか数秒後には、水の精霊が氷の彫像へと変化していた。

 オージルシークスはそれに満足したのか、滞空をやめて自由落下し、数十トンあるでろう体重をかけ、氷の彫像をバリバリと踏みつぶした。

 さあ、次はお前たちだ。

 と、言わんばかりに、口元をニヤつかせて嘲笑った。


『イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!』

 その笑みを見たルイズは、ついに大技を仕掛けた。

 ルイズに背を向けているオージルシークスの後頭部が大爆発を起こし、オージルシークスの鱗が数枚、剥がれ落ちる。

 後頭部に痛打を浴びたオージルシークスは怒りの声をあげた。

『小娘ぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 オージルシークスは首だけを翻し、アイス・ブレスを浴びせたが、それより早く呪文を完成させたセリマスが耐氷レジスト・エナジー・コールドと、才人がルイズを押し倒したせいで、ぎりぎりに避けることができた。

「うわあああ!」
『サイト!』

 ギリギリとはいえ、絶対零度に近い吐息を浴びて、才人は倒れ伏した。

「サイト!」

 フラワーにが駆け寄って才人を癒す。それにサッドが手を貸して、建物の影へ4人は駆け込んだ。だが、オージルシークスは彼らを逃す気はないらしく、踏み潰すべく、再び滞空する。

「相棒、透明化インヴィジビリティの呪文をくれ!」

 タルブロンのそばにはいつの間にかジーツが近づいていた。

 タルブロンは言われたとおり、ジーツに呪文の加護を与え、自分は、滞空するオージルシークスに向けて、魔法の矢マジック・ミサイルを放った。

 才人の治療がすむまでは、なんとしててでも、滞空してもらわねばならない。

 タルブロンが放った5本の魔法の矢は、彼の視線誘導によって滞空するオージルシークスの皮膜を付き破った。

 村には、オージルシークスの5度目の悲鳴――耳に耐えない咆哮が響き渡った。


 タルブロンに呪文をかけられたジーツは、自分の懐にある特殊な巾着袋インベントリを開いた。そこには、ジーツの奥の手が20種類並べられてある。そこに手を突っ込み、大型の炎熱地雷を5個取り出した。これは菱型の金属製外格に覆われていて、中央は大きな紅く輝く宝石が埋められている。だが、その内部は火の精霊を閉じ込めた75個の部品、25個の歯車装置、100個のシベイ・ドラゴンシャードの破片、12個の雑多な部品で構成されていて、時限式と接触式を選択できた。

 ジーツは迷うことなく接触式に設定し、再度特殊な巾着袋インベントリに戻して、地面に叩きつけられたオージルシークスへと走った。

 皮膜の一部を破られ、バランスを崩した結果、地に落ちたオージルシークスは体勢をととのえるのに必死であった。魔法の盾シールドを唱え、魔法の矢の対策をし、アリのように自分の身体にたかろうとする連中を寄せ付けまいと足と手、そして羽までもばたつかせた。それでも連中はやって来て、自分の美しい鱗を1枚、また1枚とこそぎ落としていった。

 オージルシークスは心底怒りに燃え、四方八方にアイス・ブレスを吐き散らかした。

 
 ジーツはオージルシークスのアイス・ブレスを右に左にと蜻蛉を切りながら、彼女の周囲に地雷を設置していったが、彼女は自分の周囲にあるき妙な空気の動きに気づいたようで、襲い来る人型種族の相手をしながら、真実の目トゥルー・シーイングの呪文を唱え、ついにジーツを見据えた。

「こそ泥め、妾の命を盗みにでも来たつもりか!」

 オージルシークスはその細く美しい腕を――本人はそのつもりだが、他の種族にとっては丸太の様に太い――を水平に薙ぎ払った。

 流石のジーツもこれはよけきれず、モロに殴り飛ばされ、長年の潮風を浴びた古い小屋に頭から突っ込んだ。同時にオージルシークスはジーツの設置した地雷を踏み、足元から下腹部にかけ、爆風を浴びることになった。地雷の連鎖は三度続き、ジーツの――最後に設置しようとしていた一つをのぞき――地雷はその全てがオージルシークスの足元で炸裂した。

 苦痛と怒りを帯びた6度目の咆哮が轟く。

 彼女の怒りは轟々と燃え上がり、手当たり次第に尻尾を振りまわし、四方八方にアイス・ブレスを叩きつけはじめた。


「ちくしょう、ジーツの野郎先に言えってんだ。おかげで手が付けられねえ! くそ、ルクセンはまだか!」

 爆発の余波を浴びて、一時的に聴力を失ったシグモンドは愚痴混じりの唸りを上げた。

 そもそもが、ルクセン達傭兵隊が、洞窟にたどり着くまでの時間稼ぎであった。この村を戦場にするのはシグモンドの本意ではなかった。だが、オージルシークスが大暴れすることで彼が愛した村は灰燼に帰そうとしている。

 辺りを見渡しても、もはや全員が満身創痍で、傷のない者等いない。

 ここいらで、墓所に潜り込むか、まだ戦うべきか、シグモンドは判断を下せないでいた。

 治療が終わったのか、しかめっつせを浮かべながら、才人とルイズ、フラワーとサッドが隠れていた小屋から出てきた。彼らの顔を見れば、もう一戦やるかと戦意にあふれている。

 ならば自分もと、気合をいれた矢先にオージルシークスが再度滞空した。


 後頭部に受けた痛撃だけでなく、足と下腹に負った傷は無視できないものだった。

 オージルシークスは地雷は避けるべく、こんなとこには設置してまいと踏んだ建物に、数十トンの圧力をかけ、降り立った。

 その場所は波高亭だった。

 
 オージルシークスが降り立とうとした場所を見て、シグモンドは総毛立ち、心の底から絶叫した。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ――ワインカーヴの奥底には、村の女子共、年寄り達が何十人と集っていた。

 そんな場所でも外の恐ろしげな戦いの音は聞こえてくる。

 誰もが不安を少しでも和らげようと、抱き合う中で、頭上からバリバリバリと大音声の破壊音と強烈に反復される振動で洞窟が揺さぶられたことで、皆が皆、叫び声をあげた。

「おかあさん、おかあさん! 怖いよ!」
「アイーダ、しっかりつかまりなさい!」

 アイーダは、涙を浮かべて叫んだ。

「助けて、タマちゃん!」

 

 オージルシークスは、唐突に足の裏に痛みを覚えた。

 潰れた家屋の中から、ずるりとウーズが現れ、見る見る間に巨大なゼラチナスキューブを形成して自分を溶かそうと引きずり込み始めたのを見て仰天し、この寒天を凍らせてやるとアイス・ブレスを吹きつけた。

 ソレを見て、シグモンドはいても立ってもいられなくなり、こちらに背を向けるオージルシークスに向けて雄叫びを上げながら突撃した。

「おっさん無茶すんな!」という才人の叫びも無視した。

 というよりも、目にもはいらず、聞こえもしなかった。

 オージルシークスの尻尾にとりつこうとして、思いっきりその尻尾に横殴りに殴られ、10ヤードは吹き飛ばされた。



 ……もう、ダメなのか。

 何度、この思いが胸をよぎった事だろう。

 だが、今度こそ、シグモンドは心の底から打ちのめされた。

 浪高亭は潰えた。

 誰もが傷つき倒れてる。

 先程吹き飛ばされたジーツはあれ以来見えない。

 タルブロンは必死で魔法を撃ってはいるが、先ほどのような効果的な魔法は同じく魔法の盾に吸収されていた。

 セリマスと、フラワーは、自分の用に殴られて倒れている連中を癒しては、戦線復帰をさせてはいるが、ジリ貧だ、いずれ、魔法を使うほどの精神力がなくなれば、彼らが前線に立たなければならない。それが終わりの始まりだとわかっていても。

 ルイズは魔法を打ちまくっているが、もはや大魔法は撃ち尽くしたのか、小さく弾ける魔法しか放っていない。彼女を守るように立っているウルビアンと才人は、いつ洞窟に駆け込むかタイミングを図っているように見えた。

 アマルカムとイングラム、ウルザとラースは、オージルシークスに踏み潰されないように注意しながら、尻尾を切り落とそうと躍起になっているように見える。

 が、やがて、自分と同じように薙ぎ払われて、吹き飛ばされていた。彼らを救助しようと近づいたセリマスとフラワーまで、返す刀の第二撃で吹き飛ばされた。

 今や、動いているのはマインドフレイヤーに操られた白竜だけだった。白竜は声高らかに嘲笑し「さて、貴様らを忌まわしきイリシッドの巣へ招待してやろうと」と、倒れ伏す人間達の頭上で宣言している。

 シグモンドは目を閉じた。

 もう、疲れた、何もかも、終わらせてくれ……。

 願わくば、死者の領域ドルラーで目が覚めた時、すべての者達と再会できますように。或いは、これがただの悪夢だったと「ひでえ夢を見ちまった」と、目覚めにイングリットに愚痴をこぼしながら、いつもの日常が始まりますように……。

 シグモンドは至上の主人達ソヴェリン・ホストに祈りを捧げ、目を閉じようとした。

 最後に、せめて――潰えた浪高亭を見ようとして、ソレを見た。

 ザランディルやオラルーンといった、エベロンを取り巻く13の月ではない、もうひとつの月輪を。

 ――それは。

 蒼いエレメンタルリングを引っさげてこちらへ向かってくる飛空艇――『西風の貴婦人号』だった。








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