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コルソス島奇譚 契約

 片目のハーフオークが援軍が来ると叫んで、味方の士気をあげている中、ただ一人、背中を這い上がってくる悪寒に囚われた少女がいた。
 
 何かが来る。だけど、それは決して味方ではない!

 自分でもわからぬ焦燥にかられ、ルイズは叫んだ。

『今すぐ逃げて!』

 その懸念はすぐさま現実となった。



 ぐちゃ、ボキボキボキと、哀れなハーフオークを踏み潰しながら現れたのは、白竜オージルシークスだった。自分が何を踏みつぶしたのが彼女はまったく理解していなかったし、理解する気もなかった。なんかバッチイのを踏んでしまったなという程度だった。

 それにつけても、ここは暑い。

 地球基準の24度という温度は彼女にとっては暑すぎた。

 自分は極めて不快である。

 その念を込めて彼女は大きく口をあけて咆哮した。

 彼女の姿を見た全ての者達は、誰もが畏れを抱き、その場から動けず、目をそらす事ができなかった。やがて、彼女が「ギャオオオオオオオオオオオ」と吼えるに至ってようやく、自分たちが呆気無く潰される哀れな虫けらだという事に気づき、恐慌状態に陥った。

 彼女の一番間近にいたのは、秘術火砲に取り付いていた者達だった。

 さしもの彼らといえど、竜という畏怖すべき存在の咆哮を間近で聞いしてしまい、心臓を素手で握られた様な恐怖を覚えた。大の男が、脇目も振らず、顔を恐怖で歪ませ、さもここに篭れば安全だと言わんばかりに、ソウジャーン号へと逃げ出した。

 この騒動で、緩やかとはいえ、登り坂にエレメンタル馬車を引き止めていた頚木がはずれ、馬車は下り坂をゆっくりと進み始めた。



 彼女が最初に標的を選んだのは、逃げ出した連中ではなく、背後で蠢動する者たち――ルイズの活躍で、敵の中衛と後衛はほぼ全滅し、残っているのは、ゾンビやグールといった外方の連中だった。

 自分を繋ぎとめるあの忌まわしきイリシッド!

 その犠牲者であろうと、彼女は許す気はなかった。くるりと振り返り、大きく息を吸い込む。

 白竜オージルシークスの怒りを思い知るがいい!


 ウルザが死人どもを相手に懸命に戦っていると、後方からルイズの叫び声が聞こえた。彼女が何を言っているのかわからなかった。護衛兼通訳の少年は何をしている? そう思った時に、後方から、ぐちゃっと水の入った革袋を落とした様な音が響き、風が吹いてきた。

 風? 結界の中で?

 嫌な予感に苛まれて、チラっと後ろを振り向くと、そこにはこちらに背を向ける白竜の姿があった。
 
 衝撃のあまり思わず、ヒュっと息を止めそうになったが、視界の端に映る、接近して来た敵に、すぐさま向き直り、そちらの対処を優先せざるを得なかった。

 これだ、ルイズが警告していたのは! 何が援軍だ馬鹿野郎!

 こちらの肉を食いつかんと手を伸ばすグールの足を切り飛ばし、ウルザは警告の声を放った。

 否、放とうとした――その矢先、オージルシークスが咆哮を上げた。

 その巨大な存在、声に誰もが息を飲む。

 静止したかのような時間の中で動けるのはウルザのみだった。  

 オージルシークスはゆっくりとこちらに、体ごと向き直り、息を吸い込み始めた途端、ウルザは嫌な予感にとらわれて叫んだ。

「に、逃げろ、急げェ!」

 竜が降って湧き、自分たちの背後を取られた瞬間に、今度こそもうダメだと村人やチュラーニ、タラシュクの弓兵隊の誰もが思ったが、まだ幾ばくかの幸運があった。ウルザの警告の声を聞いて、自分達がなすべきことを悟り、その行動に移れたのだった。

 すなわち――この場から逃げ出すことだった。
 
  
 オージルシークスは己が怒りを体現するブレスを、ゾンビやグール達に吐き出した。ゴォォォォォォォと物凄い轟音を立て、ブリザードを思わせるそのブレスは、赤道直下の温度結界内といえど、その恐るべき効果を発揮した。彼女の怒りのブレスは1度では終わらず、2度、3度と吐かれ、彼女の眼前には、もはや動くものは存在しなかった。押し寄せる猛烈な寒波に巻き込まれた死人たちは、誰であろうと、どんな存在であろうと逃げることかなわず、その場で氷像と化した。

 彼女はそれだけでは飽きたらず、100体以上はあるであろう氷像に向かって腕を振るい、尻尾を叩きつけ、片っ端から叩き壊しはじめた。


「オレ、モンハンだとハンマー使ってたけど、弓に転向するわ……あんな化け物に近づく勇気なんてこれっぽっちもねえ……」
『アンタが何言ってるかさっぱりわからないけど、同意するわ。近づくなんて自殺行為よ……』

 彼女の破壊行為からからくも逃げ出すことに成功したルイズと才人は、波高亭の近くの倉庫からボソリと呟いた。
 
 
 オージルシークスは、全ての氷像を叩き壊すと、嘆ケ峰の方向をじっと見つめた。

(何をしている? 連れて来いと命じたはずだ!)

 脳内に忌まわしきイリシッド、ドラスティックス・アーシュテンドの声が聞こえてきたのだった。

(命じられたとおり、主だった者以外の動く者全てを殺している最中だ。邪魔をするな寄生虫!)
  
 その様に応えた時に、オージルシークスが突然、苦痛に喘ぎ、身をよじった。今までにない程強烈な痛みが全身を走った。

(言われたとおりにしろ雌蜥蜴、貴様が私の指示を守らぬ限り、この苦痛は1秒ごとに1段階強くなるぞ)

 ガアアアアアアアァァアアアアアアアアアと、オージルシークスは吠えた。

 彼女の目には苦痛と憎悪が宿り、目の前の物をただひたすらに破壊したいという衝動が強くなる。その衝動と苦痛に抗いながら、少しでも楽になりたいと、彼女は辺りに目を血走らせた。

 天候操作の呪文が効果を発揮しているのに、自分を不快にさせるこの温度は何処にあるのか、オージルシークスは瞑想し、ソレの在り処を探った。

 人間が作った粗末な小屋がすぐさま脳裏に浮かんだ。

 彼女はスっと羽ばたいて、一足飛びに100メートルは滑空すると、その小屋を問答無用で踏みつぶした。バキバキと小屋は彼女の体重で呆気なく潰れ、同時にルクセン達傭兵隊は逃げる間もなく、翼による風圧で吹き飛ばされ、中にいた人間は哀れなハーフオークの隊長と同様に踏み潰された。

 ルクセン達もこれにはまたらず、逃げ出した。

 元々半数をシグモンドとウルザの応援にまわしていたから、数は少なかったが、それでも、オージルシークスの突然の跳躍で少なからず被害は出た。

「くそ、逃げろ、逃げろ!」

 ルクセン隊が必死になって守っていた、温度結界の竜水晶もあっけなく、粉々に、踏み潰された。

 結界が切れた途端、コルソス村を寒風が襲った。

 空気が渦巻き、温かい空気は消え去り、伝い空気が流入してくる。突然の突風じみた寒風を浴び、オージルシークス以外の人型種族達は、吹き飛ばされまいと、姿勢を低くし、ある者は砂が顔に当たり痛みを感じたのか、顔を両手で覆った。

 あっという間に換気に成功したオージルシークスは気をよくした。

 もっと、もっと、住み心地の良い空間に変えるべきだ。

 再び、勢い良く息を吸い込みはじめ、それが終わると四方八方に氷のブレスを吐いて、周りの建物、巻き込まれた傭兵達の一部を氷のオブジェに変えると満足気に喉を鳴らした。

 この島を居心地の良い氷の島に変えて、卵を――と、思った瞬間、ハッと彼女は我に返った。

 自分は今、何を考えた?

 いつの間にやら自然と思考を誘導されていることに愕然とし、思わずよろめいた。その時、コツンと足に何かが当たり、彼女はソレを見た。

 震えながら、こちらに砲口を向けるオリエン氏族の男を。


 
 彼が目を覚ましたのはエレメンタル馬車の中だった。

 あの片目で豪腕のハーフオークにぶん殴られたせいでひどく顎が痛む。実に幸福な彼は、馬車の外で吹き荒れる地獄の様な狂騒を知らなかった。やたら外が騒がしいことに気づいて、痛む顎をさすりつつ、朦朧とする頭を振りながら、小部屋の外に出ると、目の前に白竜がいるという幸運に与った。

「うわああああああああああ!」

 即座に彼の精神は錯乱し、目についた秘術火砲の発射踏板を踏んだ。

 規定圧に達していたそれはすぐさま火を吹いた。秘術火砲の杖身は『火』にセットされていて、杖身内部を焼きながら、勢い良く炎の弾丸は飛び出した。

 飛び出した弾丸は――オージルシークスの首をヒョイっと傾ける行動により回避されたが、彼女の頬ぎりぎりまで接近した弾丸は、彼女の鱗を数枚焼き落とす事には成功した。

 哀れなオリエン氏族は「フハハ、この一撃をくらえ! どうだまいったか!」と大声でまくし立て、明らかに正気を失っていた。

 そんな彼にオージルシークスは、彼にだけ聞こえるように囁いた。

「人間よ。妾の目を覚ましてくれたこと例を言うぞ。返礼じゃ。受け取れ」

 と己の前肢を伸ばし――今、コルソスで最も幸運な男は、白竜オージルシークスからデコピンで首から上を吹き飛ばされるという名誉に与ったのだった。


 彼女の肝を一瞬でもヒヤリとさせた兵器に、オージルシークスは興味を見出した。エレメンタル馬車に無理やり接続したその兵器を彼女は見たことがなかった。自分の鱗を焼き落とした人間の兵器を彼女は学者としての目でじっと観察した。

 ……なるほどおもしろい仕組みである。精霊を捕縛して、その力を利用して自走させるだけでなく、そのエネルギーを兵器として射出するとは。

 オージルシークスは、人間たちの知恵を猿知恵とあなどっていたが、夫オージロスの言うとおり、面白い物なのは確かであった。

 オージルシークスは、規定値に達した精霊光を確認しては、ちょんと指先で押しては、火を吹く秘術火砲を気に入り、何度も何度も押し続けた。そのたびに、秘術火砲は火を吹き、飛び出した弾丸は、村の建物に着弾し、村人達は逃げまわり、シグモンドとルクセン、サッドは火消しに、ウルザ、フラワーは怪我人の救助に追われることになった。
 
「あいつ頭悪ぃな……」
『え? どういうこと?』

 飛んできた破片からルイズをかばい、二人同時に腹ばいになって、オージルシークスの様子を伺っていた才人の目には、オージルシークスの行動が『スイッチを押すとオモチャのネコの手が出てきてお金をかっさらう貯金箱』に執心する本物のネコのように写っていたのだった。

「ルイズ、あのバカ竜をぶっ殺すぞ」
『え? どうやって?』
「どうやって? ルイズの魔法であいつの頭を狙ってポンだよ。脳みそ吹き飛ばせばいくらなんでも死ぬだろ?」

 才人は固めた拳をポンっと開いて見せた。

『それで死ななかったら?』

 恐る恐るルイズが聞くと、才人は言った。

「ルイズがとっ捕まってた墓所に逃げよう。あそこなら、なんとかなりそうな気がする。で、隙を見て……」
「基本はそれでいいが戦力が足らんな」

 いつの間にかウルビアンが近寄っていた。ウルビアンの背後にはもう一人、やたら背の低い男がいる――

「戦力が欲しい? 優秀なローグにウィザード、クレリックもついてるぜ」

 ニコニコと笑みを浮かべたハーフリング、ジーツ・シミスだった。

「やあ、サイト君、無事で何よりだ」

 遅れてタルブロンが才人に挨拶を送った。傍らにはセリマスもいる。

「ついでに言えば、アーティフィサーもいるな。優秀な戦士もおまけだ」

 ダミ声をあげたのはラース・ヘイトンだった。彼を守るようにウォーフォージドのアマルガムとイングラムも立っていた。

「まずは全員集めよう。情報交換と行こうぜ」

 
 ……程なくして、波高亭の前に様々な人間が集まった。

 才人、ルイズ、ウルビアン、サッド、フラワー、シグモンド、ウルザ、ラース、ジーツ、タルブロン、セリマス、イングラム、アマルガム、ルクセンという顔ぶれだ。ルクセンは麾下の兵隊たちに、戻るまで隠れてろと指示を出して此方に来ていた。

 全員が片膝立ちで、姿勢を低くして、素早く情報交換を行った。

「じゃあ、取水口の所で別れたんだな?」
「ああ、村の様子がヤバイようなら手出さないといけないからな。予定を一部変更してこっちへ来たってわけだ。キンザザ達はカニスの水路を辿って、囚われた村人の救出に行った。コボ達は嘆ケ峰の洞窟に向かったよ。そこには魂砕きマインド・サンダーというアーティファクトをタコ野郎が使ってあの竜を暴れさせてるってコボ達が言ってたただろ? そいつさえ何とかぶっ壊せば正気に戻るだろ。俺たちがすべきは、村の被害を抑えるために、あの竜を攻撃してこちらに気を引かせつつ、嘆ケ峰の洞窟へ逃げこむことさ。マインドフレイヤーも自分のケツに火が付けばドラゴンを呼び戻すだろうよ」

 ラースがオージルシークスをちらっと見やったせいで、全員がそちらを見た。今や砲撃は止まっていた。オージルシークスが何をしているかといえば、エレメンタル馬車を両手で持ち上げて、ためつすがめつ、あらゆる方向から眺めて、観察していた。

「じゃあやるか、何か用意するものあるか?」

 ウルビアンが手を上げた。

「ちょっと待て。耐冷の呪文と健脚ロング・ストライダーか加速はあるか?」
「ある。私は加速なら拡張を入れて約2分だな」
 
 タルブロンが応えた。

「2分でどこまでいける? 敵の攻撃をやり過ごしながらだぞ? しかも道はほぼ一直線だ。洞窟に逃げ込むなんて現実的じゃない」
「ヤバくなったら海に飛び込むというのは? 取水口から俺たちは来たんだぜ」

 ジーツが口を開いた。

「それもいいだろうが、空はあの竜が抑えている。その取水口とやらから再出発するのは今以上に困難じゃないのか? サファグンの勢力圏内だろう?」
「じゃあどうするんだ?」  
「ここでやるしかないだろう。ここならまだ遮蔽物がある。いざとなったら山を繰り抜いて掘ったヘイトン一族の墓所もあるんだ。さっきルイズが大暴れしたから、崖側に穴も開いてる。あいつがブレスを墓所内に吹きつけても、外へ冷気を流せるし、まだ安全だぞ」

 ウルビアンのその案に、シグモンドとウルザが噛み付いた。

「だめだ。それじゃ村は無茶苦茶じゃないか!」
「そんな事許容できるか。墓所の前は俺の家だぞ。地下には村の女子供を避難させてるんだ」
 
 ウルビアンは激高する二人を手で制した。

「もう事態はそれどころじゃない。殺るか殺られるかだ」  
「しかし!」
「俺たちはルイズを守りつつ、敵に攻撃を加えて奴を殺すしか方法がないと思うね」

 一同は黙り込んだ。

「ルイズ、あのスゲえ魔法どれくらい撃てる?」

 才人がルイズに尋ねた。

『大きいのなら、5発、小さいのならまだしばらくは……』
「と言うことは、チャンスは5回までってことだよな」

 才人の確認に、ルイズは頷いた。

 才人はちょっと考えて、提案した。

「なあ、こういうのはどうだろう? ルイズは言葉の通じないコボルドとかと話せるんだろ? あの白竜と話して時間稼ぎできないか?」
『時間稼ぎ?』
「竜とルイズが話している間に、洞窟に向かって一定の戦力をわーっと走らせる」
「時間稼ぎにと失敗したら?」
「その時はもうここでやるしかないじゃん。みんなで墓所に逃げ込むっつーのもありだと思うけど。どっちにしろその案でもジリ貧だよな」

 どうする?

 と、才人は皆を見た。

「魂砕きとはどんな形をしているんだ?」

 ルクセンが質問をし、ラースがそれに応えた。

「なんでも大きくて緑色の石らしい」
「マインドフレイヤーとは戦わずにそいつをぶっ壊せばいいんだな?」
「行くか?」
「ああ、この戦いを俺と部下で終わらせることができれば誉そのものだ」

 ルクセンはにやっと笑った。

「よし、じゃあ確認するぞ。ルイズが時間稼ぎをして、その間にルクセン達が傭兵隊を洞窟へ突っ込ませる。んで、時間稼ぎが失敗したら闘いつつ、墓所に逃げる。これでいいか?」

 シグモンドが、ぼそっと呟いた。

「どっちにしろ村は無茶苦茶になるんだな……」

 ラースは彼の呟きを拾った。

「シグモンドよ、すでに3ケ月前にこの村はめちゃくちゃにされたんだ。その時に、オレもお前もすでに死んじまっていたのさ。だけど、何の因果かこっちへ舞い戻ってきちまった。今日、ドルラーへ還る日が来た。ただそれだけのことなんだよ」

 ラースの言ってることは無茶苦茶だったが、その言葉は、不思議とシグモンドの胸にすとんと落ちた。

「そうだな、そうかもしれないな」

 

『ああ、美しい竜様、どうか我が呼びかけに答えていただけないでしょうか?』

 ルイズは膝を折り、スカートの裾を両手で握って頭を下げるというハルケギニアの礼儀作法に則った美しい型で、オージルシークスに呼びかけた。

 もし、万が一、ルイズに危害が加えられそうになったら、ここにいる面々が銘々にオージルシークスを攻撃することになっていた。

 ルイズとオージルシークスの一挙手一投足に視線が突き刺さる。



 オージルシークスは、か細い声ながらも、久々に聞く、発音の美しい竜語に驚き、ルイズを見た。

『ほう、そなた人間でありながら、我らと同じく竜語を操るか。下等生物でありながら、中々に関心なことよ。許す、名乗るが良い』  
『矮小なる私めは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。気高く、新雪の如き美しさを誇る鱗を纏う貴方様のお名前を、どうかこの私めにお教えいただけないでしょうか?』
『妾の名はオージルシークス、そなた達の言葉で云えば"白い剣"という意味じゃ。しかと覚え、子々孫々忘れぬが良いぞ』
『……御身の貴名、しかとこの身に刻みました』


 そうやってルイズがオージルシークスと語らっている最中に、ルクセンは麾下の傭兵達を、密かに呼び寄せた。竜が来たせいで、逃げ散り、死亡し、わずかに20名を超える程度しかいない。彼らは物陰に隠れながらも、ルクセンを注視していて、彼が招集をかけるのをじっと待っていた。

「嘆ケ峰に攻めこむぞ。緑色の巨大な宝石を見つけたら叩き壊せ。マインドフレイヤーがてできた場合、一端引く」

 ルクセンは囁くよう、だが力強く言った。

「あそこで彼女が竜語で話しかけて時間を稼いでいる間に、俺たちは洞窟へ向かう。走れ!」

 ルクセン達は門へ向けて走りだした。


 鉄の匂いを隠さない男たちがそこら中に隠れ、鼠のように走り抜けるのをオージルシークスは鷹揚にも見逃した。そのことで自分に強烈な痛みがくるのもわかっていたが、彼女は、久方ぶりの竜語での会話を楽しむために、痛みを我慢していた。

 一方、ルイズは内心てダラダラと汗を流す思いだった。

 眼の前にいるのは、魔法を使い、言語を操る韻竜である。ハルケギニアではとうの昔に滅びたとされる韻竜が、自分と語らっているのだ。使っているのは何故かアルビオン語であったが……。

 彼女――オージルシークスの名前の意味を聞いた時、ルイズはふと思ってしまった。

 彼女の様に美しく強大な生物を使い魔にできたらいいのに、と。

 ハッとして、ルイズはその優秀な頭脳を回転させはじめた。


 1. この竜は何者かに操られかけている。
 2. ルイズ・フランソワーズはエロ騎士、サイト・ヒラガを故郷に還さねならない。
 3. 彼を故郷に返すと、自分が進級できない。

 では、この白竜を使い魔にできないか――?


 ごくり、と、知らず知らずのうちに、ルイズは自分の唾液を飲み込んだ。

 てぎるのか? 魔法を使えず、セロのルイズと蔑まれ続けた自分が、契約コントラクト・サーヴァントの魔法を使うことができるのか?

 少なくとも、サモン・サーヴァントの魔法で門を開く事ができたのだ。可能性は残っている。だけど――、

 それは、サイト・ヒラガに二度と合うことはできない事を意味していた。それでも――

 ルイズは決意した。

『オージルシークス様』

 ルイズは彼女に呼びかけた。

『貴女様の美しい威容、類まれなる知性、御身の気高き有り様に、私めは圧倒されました。貴方様のことを子々孫々、津々浦々に広めるための誓いを、誓いの口づけを、白い剣の御名の如きその爪に、どうかお許しくださいますよう』

 ルイズは深々と頭を下げた。同時に、杖嚢から気づかれないように杖を取り出し、そっと逆手に握った。

 オージルシークスは、ルイズの動きを、浅知恵と断じ――この娘が何かしかけて来ても、即座に踏み潰せると判断し――許す、と、面白がるように許可した。

 ルイズはオージルシークスに聞こえないよう、ボソボソと呪文を唱えた。

 ――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ――
 
 ルイズは、オージルシークスの血にまみれた爪に口付けた。






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