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コルソス島奇譚 反撃

 13の月達が煌々と輝き、夜に生きる者達も、ちょいと休憩しようかと言い出すような時刻だった。にもかかわらず、村はだいぶ騒がしい、ソウジャーン号の甲板にいるドラウの耳といえど、音を識別するには困難を極めた。
 
 村は戦の準備に追われている。村だけではなく、生き残った傭兵達、ソウジャーン号の船員、帰還した灰肌族のサファグン。生き残りをかけて、ありとあるゆる準備が行われていた。

 そうした準備の中、不貞腐れたドラウ娘ダスティは、命じられた見張りの任務をテキトーにこなしていた。首からぶら下げた警笛を弄びつつ、餌を山ほど詰め込んだリスのように頬をふくらませ、やってられるかと言わんばかりに眦はとんがっている。

 ルナイと互いの髪を引っ張りつつ殴り合うといった醜態を甲板で繰り広げ、サファグンの接近に気づかなかったことが、船長であるリナールにばれて大目玉をくらったのだった。それというのも、自分よりちょっと早く船長の元で働いたからといって先輩風を吹かすヴァレリアが悪いと、ダスティは責任転嫁していた。ヴァレリアの横槍が入らなければ、ルナイの顎に1発、サソリ神ヴァルクーアの尾のような一撃を喰らわすことができたのに!

 ルナイもヴァレリアも、あの何もない赤沼津レッド・フェンズに帰ればいいのに、と、口にこそ出さなかったが、心の中で延々と二人への呪詛をダスティは吐き続けた。 

 ダスティが異常を感知したのは、その時だった。

 背後で微かに泡の弾ける音が聞こえた!

 ダスティは、ストームリーチの街角で見かけるアクロバティック・ダンサーのような、美しい左側転で、飛んできた槍をかわした。

「ハ! こんなショボい得物でアタシを殺そうっての?」

 腰に吊るした小剣を抜いて、右手で低く構え、空いた左手は懐からシュリケンを3枚抜き取り、いつでも投擲できるようにしてある。

 ダステイはしょぼい槍と貶したが、甲鈑に突き立った槍を見れば、相手がどれほど恐ろしい膂力を有しているかは容易に窺い知れた。

「威勢のいいメスがいるナ」

 ざぶん、と波音をたてて、甲板に降り立ったのは、サファグンだった。

 自称、海大将のヴェッツ・スプラーだった。

「決めタ。お前の肉ハ俺が食ウ」
「やってみなさいよ!」

 ムシャクシャしていたダスティにとって、怒りのハケ口が、丁度向こうからやってきてくれた。こいつをぶち殺して、船長に褒めてもらおう!

 先手を取ったのはダスティだった。左手の人差し指と中指に携えた2枚のシュリケンを、10フィートは離れているヴェッツ・スプラーの足に投げつけた。ヴェッツ・スプラーは持っていた石槍の穂先で飛んでくるシュリケンを器用に弾き返す。

 彼女のシュリケンと小剣には、故郷の赤沼津レッド・フェンズに生息する巨大蜘蛛『闇の牙』ダーク・ファングの毒が塗られていた。足の長さだけで6フィートに達する巨大な蜘蛛である。こいつを食らえば、どんな奴でも動きは鈍る。

 ダスティは己の勝利を疑ってはいなかった。時間差をつけて、もう一枚シュリケンを投げつけ、サファグンに駆け寄る。右手の小剣をつき立てれば自分の勝ちだ!

 投げつけたシュリケンは狙い違わずヴェッツスプラーの顔へと飛んでいき、先ほどと同じく穂先でカキンと弾き返された。だが、その1瞬で、彼女は7フィートの距離を一瞬で詰めた。 
 
 それこそが、ダスティの狙いだった。

 ヴェッツ・スプラーは距離を詰められても慌てず、ダスティの足を止めるべく下方へ石槍を突き出し、ダスティはそれを足場に前方へと蜻蛉を切った。

 ヴエッツ・スプラーの背後を取ったことで、彼女は自分の勝利を確信した。

 殺った!

 その確信が間違いだと悟ったのは、必殺の一撃を繰り出さんとした瞬間、背後から、石槍が突き刺されて自分の肺を貫いた時だった。

『あ、バカ! もったいねえ、殺すなよ!』 

 自分が殺すはずだったサファグンが、自分を刺したもう1匹にむかって、自分には理解できない言葉でわめいている……。

 ダスティの敗因は――敵が1匹だと誤解した事。

『仕方ねえ、生きの良いうちに食っとくか』

 床に倒れ伏し、自分の血で汚れてゆく甲板を見ながら、ダスティは首から下げた警笛を口元に持って行こうとした。

 力が抜けてゆく。

 目がよく見えない。

 それでも彼女は渾身のちからを振り絞って、どうにか警笛を口元まで持って行き、思い切りそれを吹いた。

『あ、こいつ!』

 再度、肺を貫かれ、自分の太ももが食いちぎられたのはわかった。

 でも、もう何も感じなかった。 
   
 

 その警笛を聞いた、末端の者達は困惑した。自分たちに伝達されていた情報では、作戦開始は『轟音』と聞いていた。ところが、聞こえたのはか細い警笛……。

 そもそも、準備が終わってもいなければ、攻撃予定時刻でもない。さっきの音はなんなんだ?



 ――初動が遅れたのにはこうした理由からだった。その初動の遅れと混乱が、被害の拡大を招いた。



 サファグンがソウジャーン号を襲撃した時、シグモンドは波高亭の外で、村の男衆相手に、作戦手順の説明をしているところだった。

「女子供は『波高亭』の地下洞窟へ隠せ!」

 周りにいた男衆に聞こえるように怒鳴りつけた。村人たちは慌てて散り、自分たちの家へと一目散に走っていった。

 ソウジャーン号を見やれば、後部鐘楼に押し入ろうとするサファグンと、入れさすまいとするエルフ、ハーフオーク、ハーフリングの4種族が死闘を繰り広げる、血みどろの戦場と化しているのが見えた。悲鳴と怒号、恐るべき死の使いである魔法と石槍が飛び交い、命が削り取られては、魂が秒単位で死の領域ドルラーへ)へ送り込まれてゆく。

(やすやすと敵サファグンの侵入を許すなんて……キンザザは俺達を裏切ったのだろうか、油断させる為に?)

 そんな、暗澹たる思いがシグモンドの心を塗りつぶしたかけた。

「門の防備を固めろ! サファグンと狂信者共が挟撃してくるかもしれねえ!」

 シグモンドは門につめているであろうウルサに聞こえるように、大声を出した。

「あなた、アイーダが!」

 大声で矢継ぎ早に指示を出すシグモンドに駆け寄ったのは、イングリッドだった。 
 
「まさか、いないのか!?」
「手洗いから出てこないの、タマと一緒じゃないと嫌だって!」

 イングリッドの悲鳴じみた訴えを聞いて、シグモンドは唸り声を上げた。

「こん畜生、こんな時に! イングリッド、扉を叩っ壊していいから引きずり出せ!」

 シグモンドは自分の腰に吊るしていた手斧をイングリッドに渡した。

「でも、あなた……」
「防衛の指揮をしなきゃならねえ、あの子を頼む」

 イングリッドを力いっぱい抱きしめ、さっと口づけをかわすと、シグモンドは「ルクセンはどこだ!」と声をあげながら、村の中央へと走りはじめた。

 夫が建物の陰に隠れて見えなくなると、彼女は知らずとあふれていた涙をぬぐって、波高亭に戻った。

 年季の入ったカウンターテーブルをイングリッドはそっと撫でた。

(私がここを守らなくちゃ)

そう決意をすると、渡された手斧を持って、アイーダの立てこもる手洗いへと向かった。


 一方、バウアーソン夫婦の愛娘アイーダは、彼女なりの考えをもって、村の為に戦っていた。

「おねがい、タマちゃんいっしょにきて。むらのひとをまもってよ!」

 アイーダの懸命な願いを理解できているのか、いないのか、タマは便器から付きだした触手を伸ばしたり、縮めたりするだけで、およそ、緊張感からはほど遠かった。

「タマちゃん!」

 と、アイーダが声を張り上げると、ガン! と木が裂ける強烈音が後方から聞こえた。音に驚いて扉を見ると、ドアノブの近くが裂け、金属の刃が顔をのぞかせていた。それが取り除かれると、彼女の母であるイングリッドの顔が見えた。

「アイーダ、いい加減に出てきなさい! さもないと、お母さん扉を叩き壊すからね。お父さんから許可もらってるんだから!」
「もう壊してるよ! まって、もうちょっとだけまって!」

 アイーダは焦った。怒った母は父よりも怖いのだ。おしりペンペンですめばいいほうだ。

 刃物を持たせた母は何をしでかすかわからない!

 アイーダは再び便器の中でニョロニョロ動いている不潔なウーズに向きあった。
 
「タマちゃん、おねがい。わたしをまもってよ!」

 アイーダは焦りからか、涙を浮かべて懇願したが、タマは「テケリ・リ」と鳴くと、姿を消した。

「タマちゃん!」

 アイーダが便器に寄った途端、イングリッドは破壊行為を再開した。

 ガツン、ガツンと手斧が打ち付けられ、裂け目が大きくなり、ついに内部のノブに手をいれる事が可能な大きさになった。

「タマちゃん!」

 アイーダはポロポロと涙を落としながら、便器にすがって何度もタマの名を呼んだが、ついに彼女の呼びかけに応えることはなかった。


 

「野郎ども、気合いれろ、押し返せ!」

 ルクセンの号令に傭兵達は雄叫びで応えた。

 村を守るハウス・カニスの作り上げた結界用の竜水晶を彼らは守っている。この小屋にサファグンが入ってしまえば、村は終わりだ。ルクセン達傭兵組はソウジャーン号の連中と同じく小屋の前で死闘を繰り広げていた。地上で振るう暴力に長けた傭兵達でありなから、状況が不利なのは否めなかった。水中戦でもないのになぜ状況が不利なのか?

 生意気にもサファグン達が集団戦を挑んできたからだった。傭兵たちの装備は個人の装備で、得物はそれぞれバラバラである。ところが、サファグン達は石槍だ。難破船の端材と石を組み合わせただけの粗末な得物――の、はずだった。

 サファグンの攻勢が単なる力押しなら、技巧に優れる傭兵たちが負ける道理はない。サファグンの石槍なぞ柄を切り落とせば済む話だ。
 
 だが、切れない。

 どういった理由なのかはわからないが、サファグンにも目利きがいたのだろう。彼らの石槍の柄はエアレナル諸島で産出されるダークウッドだったのだ。この木は鉄と同じ硬さでありながら、重さは木のそれだった。
 
 翻って、傭兵たちの得物を見れば、長剣や打撃武器など、近接武器が主体であり、長柄の武器を持っているものは僅かにしかいなかった。

 荒波が生んだ豪腕から繰り出される振り下ろし攻撃――それも長柄の武器による攻撃は、集団戦では効果的だった。サファグンはひたすらに打ち下ろし、傭兵たちは盾で防戦に追われる、上から殴られのを防ぐ為に盾をかざせば、脛をえぐられ、足元を守るために盾をおろせば、脳天を殴られる。

 力でゴリ押しするのが関の山と思っていたただけに、傭兵たちは手間取った。

「何をやっている! ちょいと知恵がついただけの魚だぞ! さっさと三枚におろせ!」
「そうは言いますけど、ちょいと大変ですぜ?」

 口から顎へ派手な刀傷のある男がルクセンを振り返りつつ言った。

「ふざけんな! テメエらこれでメシを食ってきたんだろうが、さっさとやれ! さもなきゃオレがテメエらをぶち殺すぞ!」

 ルクセンは男に怒鳴り返し、改めて号令をかけようとした。

 その時、背後から、シグモンドの大音声が聞こえてきた。

「ルクセン!」

 ルクセンが素早く後方を確認すると、波高亭へ続く坂道の中腹に、奇妙なリピーティング・クロスボウを携えた1隊が、こちらへ鏃を向けているのが見えた。

「野郎ども、盾構えて堪えろ!」

 ルクセンは言うが早いか、ハウス・デニスの紋章――山羊、竜、獅子の首を持つキマイラが刻み込まれた盾を掲げた。後方からバン、バン、バンと弦が矢弾く鈍い音が聞こえてくる。

 距離は80ヤード弱だが、なだらかとはいえ、坂の上からの撃ち下ろしだ。しかも的は、人間とくらべて縦にも横にも大きいサファグンである。しかも――ルクセンは知らなかったが――特殊な水晶球が搭載されたリピーティング・クロスボウだ。

 外れる道理はなかった。

 耳元を通り過ぎるヒュッという風切り音に、肝を冷やした後に待っていたのは、眼前の敵の断末魔と痛みに喘ぐ怒号だった。

 これだ、俺はこれを待っていたんだ!

 ルクセンは、嗜虐的な笑みを抑える事なく、心の底から咆哮し、己の血脈に宿る竜の力の一端、信仰の盾シールド・オブ・フェイスを発動した。

 彼の竜紋ドラゴンマークは顎という見えない部分にあり、トーン記号と竜語のwを筆記体にしたような複雑な紋になっている。それが青白く発光し、半可視の盾が顕現する。

「野郎ども、突っ込めぇ!」

 言うが早いか、ルクセンは構えた盾ごと眼前の敵に体当たりをかました。半可視の盾と物理の二段構えによる突撃は、彼自身の重量と相まって、サファグンに勝るとも劣らない突進力を生んだ。

 矢を突き立てられ、鏃によるストッピングパワーで仰け反り、体勢を崩しかけているサファグンに、彼と彼の麾下にいる者達を止められるはずがなかった。されど、敵も然る者、片目を潰されながら、ルクセンを刺し殺さんと石槍を突き出す剛の者がいた。

 が、それは叶わなかった。

 ルクセンの血脈に宿った半可視の盾が、槍の穂先をまったくの明後日へと逸らしてしまった。

 こうして、水晶小屋を半ば包囲していたサファグン達は、戦斧で頭を割られ、長剣で胸を貫かれ、戦混で骨を折られ、飛んでくる矢で、文字通りの目刺しと成り果てた。

「よし、勝鬨を上げろ!」

 その声に、おおおおおおお――と、傭兵たちは、村中に聞こえるように勝鬨を上げた。

 その声に感化された様に、ソウジャーン号の戦士たちもまた声をあげ、少しずつサファグンを押し返し始めた。



 苦戦していたルクセン達が勝利を収めるのを見たシグモンドは、ほっと一息つくと、別の地獄を見やった。村の門である。

 敵が門の格子ごしに繰り出さす槍の柄を、ウルザと村人達は叩き折ったり、熱湯を浴びせたりして必死の防戦を繰り広げていた。その内、門をぶち破るための大きい丸太なり、石なりを繰り出してくるだろう。そうなれば村は終わりだ。なんとしても早急に目の前の敵を減らさねばならない。

「隊長さんよ、助かったぜ。結界を抜けられたら終わりだからな」

 シグモンドは片目のハーフオークに頭を下げた。

 この男の持っているリピーティング・クロスボウはシグモンドの見たことない変わった弓だった。だが、この弓と男の実力は本物だ。この男はすでに鏃が設置されている連弩を地面へ向け、万が一暴発しても味方へ害のないようにしている。無論、この男ばかりではない。ハウス・チュラーニとハウス・タラシュクの連合弓兵隊は、誰もがこのような――鏃先管理ができる練度を維持していた。

 それだけに油断はならないが、その実力は信頼できる。

(やれやれ、ブレランドがウルビアンを派遣するはずだぜ)

 シグモンドは内心、舌を巻いた。

「気にすんな。こちらも試し撃ちしたかったんでな」

 ゲヘヘと、その男はシグモンドの感謝に、厭らしい含み笑いで応えた。言外に、ハウス・デニスの小僧に当たってもよかったと言っている様なものだ。シグモンドはあえて、その意味に気づかなかった振りをして、話題を変えた。

「船へ戻らなくて大丈夫なのか」
「まあ、あの様子なら大丈夫だろ。俺たちが全員がここに出張っているわけではないからな、お、おいでなすった!」

 隊長と呼ばれたハーフオークは、地面を向けていた連弩の鏃口をすっと上げ、目の前の水晶を覗きこむ。水晶球には、村の外すぐ側の崖を弓を携えた人間が、天辺に登ろうとしているのが写っていた。月明かりを浴びているせいで忍んでいてもまるわかりだった。

 距離は50ヤード弱といったところか、隊長は水晶球の中央にある小さい緑の光点を、今や崖を登りきった人物の頭に合わせ、引き金を引いた。

 バンッと弦が弾く音と共に、重量600グレインのボルトが緩やかに回転しながら、飛んでいき、重力に惹かれて、僅かに落下、狙点からやや下の首筋に見事に突き刺さり、向こう側まで突き抜けた。

 ひぃあーと、マヌケな断末魔が聞こえ、間をおかず、ぐちゃっと鈍く、水っぽい音が聞こえてきた。それでも、登るものは絶えない。

「おい、上とられると面倒だ、見つけ次第片っ端から撃ち落せ」

 隊長が一声命令し、黙って頷いた彼の部下たちはその命令に即座に従い、バン、バンと人間の命が弾かれる音だけが響いた。

「んー、命中精度はいいんだが、光源の位置には要注意だな」

 水晶球が目立ちすぎる。と、観戦していた隊長は不機嫌そうに不満を述べ、眉を寄せた。

 敵の狂信者達は、必死に門前の崖に登ろうとしていたが、15人も撃ち落とされた時点で諦めたようだった。と、なれば、次に押し寄せるのは門の正面ということになる。

「まだ秘術火砲メイジ・ファイア・キャノンの準備はできないのか?」
「もうそろそろ組み上がるはずなんだが、オイ、どうなんだ?」

 隊長が傍らのエレメンタル馬車にいる同族の技術者に声をかけた。

「すみません。あともう少し!」
「急げ!」

 苛立ちを隠せず、隊長は技術者を怒鳴った。

「シグモンド!」

 村の守護を預かるウルザが、長剣についた血脂をぶんっと振り落としながら、秘術火砲の側までやって来た。 
 
「今まで何度も敵の攻撃を受けてるからあの門は相当ガタが来ている。あと半刻持つかどうか」
「わかってる。だから敵を突破させる」
「なんだって? 気でも狂ったか!?」

 ウルザはシグモンドにおもわず掴みかかった。だがシグモンドは意に介さず冷静にウルザを諭した。

「こいつがあれば可能だろう」

 と、秘術火砲をポンと叩いた。

「間に合うのか?」
「合わせる。合図と共に門を開け放て」
「一度開け放てば雪崩れ込んでくるぞ。終わりの始まりだ」

 ウルザは頭を振って賛成できないとシグモンドの意見を否定した。

「ウルザ、他に良い案があるか? 突破されるのは時間の問題だ。せめて攻撃の口火は此方から切りたい」
「……納得いかんが、私には対案が出せない。覚悟を決めるか……」

 ウルザが唸りを上げた時「終わりました」とハーフオークの技術者が、馬車の上に砲塔から声をかけた。その傍らには「なんでオレがこんな目に」と言わんばかりの表情を浮かべた人間がいた。どうも、このエレメンタル馬車の御者であるらしい。彼がこの馬車を動かすというのであれば、オリエン氏族ハウス・オリエン竜紋ドラゴンマーク持ちという事になる。

「よし、馬車を動かしてくれ。門の正面へ」

 ヤドカリのようなエレメンタル馬車の前肢は、虫嫌いの人間がいたら怖気が振るうだろう動きを見せて方向転換をし、後部車輪がそれに付随する。エレメンタル馬車は丁度、門に尻を向けるようにして停止し、砲を向けた。未完成の秘術火砲故に、砲撃を行うには、車体ごと動かさねばならなかった。

「目標、正面、仰角良し」
「杖身確認、火」
「捕縛精霊内圧良し」
「発射踏板の精霊光確認、いつでも撃てます」

 今まで何度も、発射手順を繰り返し訓練を受けたであろう技術者達は実に手際が良かった。あとは、命令を受け、秘術火砲の床にある発射踏板を踏むだけで発射される。

「防衛隊は下がれ!」

 シグモンドが声を張り上げ、命令した。

 ウルザの指揮の元、防戦に専念していた村人たちは、秘術火砲の杖身が赤く加熱してゆくのを見て、慌てて門から遠ざかった。

「待て、まだ門を!」
「かまわねえ、こいつで門ごとぶち壊す!」

 気違い沙汰にも程あるとウルザは叫びながら慌ててエレメンタル馬車から離れた。

 シグモンドとタラシュクの隊長が互いに視線をあわせ、号令を出した。

「撃てぇ!」








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