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コルソス島奇譚 アンダーグラウンド

 さて、腹は満たした。次はどうしよう?
 
 フレッドは、死臭に満たされた墓所でのんびりと思案を始めた。正直な告白をするならば「やっちまった……」という後悔が頭をよぎる。

 何も、ハーフリングの娘さんを食べなくてもよかったのではないか? 
 
 同じハーフリングなら死体として転がっているハンサム・ウィルムでもよかったのではないか?

 フレッドはちらりと、床に転がっている無残なウィルムの死体を見た。

 自分よりも先にゾンビが甘噛みでジャレついてばっちいし、それ以前におっさんである。どうせ食べるなら、生! やっぱり新鮮で生きの良い女の子の脳がいいの!

 フレッドは自己の行動を、そう、都合良く、ヤケクソ気味に肯定した。

 頭をカジられたハーフリングの娘さん、こと、ドルーセン・ド・ジョラスコは死んではいなかった。ただ、大脳の一部を齧られただけにすぎない――と、いうのもやや語弊がある。

 齧られ、啜られた間隙には、イリシッド以外の知的生物達が、マインドフレイヤーと恐れる所以の通り、どろりとした忌むべき暗緑色の粘液が充填されている。それはイリシッドの思念体サイオニック・パワーでできた代物で、充填された哀れな犠牲者の精神を乗っ取るものだった。

 乗っ取られた犠牲者は操り人形ヴォイド・マインドとして意のままに動かされてしまう。

 フレッドがこういった操り人形ヴォイド・マインドを作るのは初めてだった。

「……これ、ちゃんと動いてくれるのかな?」

 不安にかられながら、フレッドはドールセンを再起動させてみた。

 ドールセンは目を開けた。顔は恐怖にひきつったままだ。無論、フレッドが命令すればどんな表情でも出せるだろう。

 普通にしてて――そう言いかけて、突如としてフレッドの脳裏に過去の情景が浮かんだ。マインドフレイヤーに成る前の、この体の持ち主が体験した過去の情景が、ふとした拍子に浮かぶ事がある。この体の持ち主は、箱のような物の中で行われている演劇を、外から眺めるという奇妙な行動をしていた。

 その演劇の1シーンをフレッドはドールセンに再現するように命じた。

 ドールセンは、右手の拳を固め、何度も空へと突き出し、虚ろな表情を浮かべながら「イームホーテーップ、イームホーテーップ」とわけのわからない台詞を繰り返した。

(……とりあえず僕の意のままに動くようだな。でもどれくらい動かせるんだろう?)

 
 次にフレッドは操り人形ヴォイド・マインドがとれほどの身体能力をもつのか試験して見ることにした。

 ハンサム・ウィルムの死体を障害物に見立て、ドールセンに踏み台昇降運動をさせてみたり、あるいは、うさぎ跳びをせてみたりした。

そういった様々な試験の結果から、所詮は犠牲者の生前(ある意味で生前といってもいいはずだ)に所有していた能力以上を発揮することはできないという、極めて当たり前の結果だった。これがアンデッドモンスターなら別の結果になっただろうが。

(こんなものか)

 と、結果に納得したフレッドは、この島から脱出する算段を考えることにした。ドールセンの脳を啜ったことにより、彼女がどのようにコルソスへ来て、どこへ行こうとしているのかを理解していた。

(彼女が一度訪れた事のあるストームリーチのハウス・ジョスコの居留地か、あそこなら快適そうだな)

 脳裏に浮かんだ光景は、巨人たちの遺跡の上に築かれた都市の一区画で、ハウス・ジョラスコのハーフリング達が演出した、緑の多い空間だった。

 癒しのマークを持つのは伊達ではないらしく、目に痛くない色彩、豊富な清流の流れる噴水、この場所に訪れる全て者が、心を奪われ、同時に休めるには最適の癒し場――。

 だが、そこへ行くにはこの島を脱出せねばならない。

(彼女に普段通りにしててと、命令し自分は……)

 フレッドは口元の触手をうなだれさせ、げんなりとした表情を浮かべ、ひとりごちた。

「ハンサム・ウィルの服を着るしかないよねー」

 フレッドはハンサム・ウィルの服を脱がせるようにドールセンに命令した。命令されたドールセンはテキパキと素早く脱がし、ご丁寧にも、汚れが少しでも落ちるように、服をはたいた。服はゾンビに噛まれた痕があり、穴だらけ血だらけなのだが、フレッドは意に介さなかった。奇術プレスティディジテイションの呪文を使えば、ある程度キレイになるからだ。

(ハンサム・ウィルの死体を残すのはまずいよなあ)

 イリシッドとハンサム・ウィルが入れ替わっているのがバレたら、大変なことになる。自分の命に直結する一大事だった。

 素っ裸になった哀れなハンサム・ウィルム、そしてこの場でゾンビとなった者達は、フレッドとドールセンの手によって手厚く葬られる事になった。即ち――火葬である。

 死体を山積みにし、墓所内にある油をかけ、死体を燃やした。ただでさえ、腐りかけの肉という悪臭が漂うというのに、そこに焼ける匂いまで加わり、フレッドだけでなく、操り人形ヴォイド・マインドたるドールセンも顔をしかめ、袖口で鼻と口元を覆っていた。

 いつまでも、この胸糞悪い焼肉パーティーを楽しむわけにはいかない。

 フレッドは変身オルター・セルフの呪文をかけた。フレッドの位階ならば、15分は持たせられるはずである。それだけあれば、村の近くまではいけるだろう。そこで改めて呪文をかけなおし、ソウジャーン号に乗り込むことが出来れば、あとはどうとでもなるはずだ。ドールセンに命じて、自分の部屋には許可無く立ち入らぬように、と、言付けるだけである。

 さあ、茶番劇をはじめよう。




「お嬢様、お嬢様!」

 ドールセンは何者かにゆすられているのを自覚した。 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 自分に語りかける男、ハンサム・ウィルムを見て、彼女は悲鳴をあげた。

「お嬢様、もう大丈夫です。あいつらはいません」

 ドールセンがあたりを見やると、死体に火がかけられ、胸の悪くなる匂いが充満していた。

「匂いがひどい。ここから早くでましょう、恐ろしいマインドフレイヤーが戻ってくる前に」
「え、ええ、そうね……」
   
 私は何か変な夢を見たのだろうか。

 ドールセンは何か納得が行かない心持ちだったが、それが何なのか、ついぞ思い出すことができなかった。

 こうして、ドールセンは、マインドフレイヤーのフレッドに手を惹かれ、地上への帰還を果たした。 


 †


 ラースの眼前にある檻の奥には、巨大な正方体がときおり、ぶるんと身を震わしながら鎮座しているのが見えた。体表面にはうっすらと霜が張り付き、暗緑色と霜の白が交じり合い、アンデールのケーキ職人が創りだすようなマーブルケーキのようだった。この場にそのケーキ職人がいたら手を伸ばして味見をしていたかもしれない。最もその瞬間、その手は溶けてなくなっていただろうが。

 巨大なケーキと見紛うウーズ――ゼラチナス・キューブの内部は、見る者によってはおぞましいと呼び、ある者が見れば当然の報いと吐き捨てる事態が起きていた。竜水晶を使った冷却封印装置によって、安らかで緩慢な死の眠りにつくはずだった巨大な海トロール、シーデビルは、無残にも頭部が生きながら溶かされていた。にもかかわらず、身の丈数十ヤードのそびえ立つ塔の如き怪物は、再生を続け、いまだに生にしがみついている。

「……くたばれば楽になれるのに、再生能力を持つというのも難儀なものだよな」

 ラースはゼラチナス・キューブに食われた端から再生する頭部を見つめながら、ひとりごちた。

「ねえ、このゼチラナス・キューブ少し変じゃない?」

 セリマスはラースにそう語りかけた。

「一本だけ、天井に向かって垂直に伸びてる体組織があるわ。あんなもの見たことないもの」

 セリマスの指摘に、その場にいる者たちは、ゼラチナス・キューブをよく観察しようと目を凝らした。なるほど、確かに一本の細い触手が天井へと伸ばされていた。ヲタの両親に毒されかかっている才人なら「アホ毛」と表現したかもしれない。

「お? わかるか、さすがだな」

 セリマスの鋭い観察眼にラースは破顔した。

「まだ何か仕掛けがあるのか?」

 ジーツがラースに問いかけると、いやいやと、手をふってラースは答えた。

「ぶっちゃけて言えば、ここは波高亭の真下に位置するのさ。あの垂直に伸びた触手が、今や有名ネームド・モンスターになっちまったタマ公だよ」

 イッヒッヒと酒に焼けたダミ声で爆笑した。

 ラースの告白に、その場にいた一同は唖然とした。

 確か、タマというのは、アイーダが名付けたとかいうウーズの名前ではなかったか――

「……それで、このシーデビルをタマちゃんごと貴方は氷漬けにするってわけ?」
 
 幼い娘を泣かすのか、と、眦をあげて、セリマスはラースに答えを促した。

「やりたいのは山々だがよ。アイーダ泣かせたらシグモンドに酒を売ってもらえなくなっちまうからなあ……まあいずれにせよ、完全に氷漬けになるまでに時間がかかる。それまでにアイーダの口からタマ公に体組織を分離するよう『お願い』してもらうほかねえな。それができりゃあ、あの娘もウーズ・マスターへの道を1歩踏み出すことができて万々歳だろ。モノになりゃ、ハウス・カニスからストームリーチにあるデニス居留地のごみ処理施設ピットに就職を斡旋してやってもいい」

 酒浸りのおっさんだが、これでも一応考えて行動してるんだぜ? と、余計な一言を付け加えて、ラースは話を締めた。


 封印施設の奪回は半ば終わった。

休息が終われば、タイル状の魔力操作盤をいじって封印も正常な状態に戻す。あとは上へ上へと攻め上り、自分の背後から攻撃されるとは微塵も考えてないボンクラ共の頭をカチ割るだけ――なんて、お気楽に考えている者は、この場には一人もいなかった。むしろ全員が、今からが本番だと考えていた。

 特にコボルド達とキンザザ達サファグン達は。

 セリマスやラース達は無駄ないがみ合いを回避すべく、合流を果たしたキンザザ達とコボルド達の間に入った位置取りで休憩をとることにした。

 ジーツ達は熟練の冒険者達といえど、この海中の探索行は堪えたらしく、すぐに寝息が聞こえてきた。起きているのは、ウォーフォージド達だけだった。

 タルブロンは次の行動に備えて、呪文書をめくっている。

 イングラムとアマルガムは、コボルドとサファグンがバカな事をしでかさないように両者を見張っていた。コボとサファグン達は人間達のように体を横たえてはいたが、その実、目はらんらんと相手にガンを飛ばし合っていたのだった。

「鱗を持つ者達よ。聞いて欲しい」

 アマルガムは主人を起こさぬように、しかし、確実に聞こえる様な声音で卵生生物達に語りかけた。

「どうか、今だけは啀み合わず体を休めてくれ。戦いはまだ続くのだ。君たちが殺気を飛ばし合えば、戦に慣れた主人たちは、深く眠れず身体を休ませることができないだろう」

 アマルガムは敬愛するラース達を見た。

 彼らの顔には疲労の影濃ゆく、疲れというものを知らないウォーフォージド達でも、完調とは言いがたい事が見て取れた。ジーツにいたっては悪い夢を見ているのか、顔を顰め、ぶるぶると空中に手をつきだして震わせ「おっぱいが7で地面が3……」と魘されていた。

 アマルガムの語りかけに、彼らは一言も言葉を発することなく、やがて自然と寝息の数だけが増えていった……。



「それじゃ起動するぞ」

 ラースは秘術タイルを回転させ、冷却装置を間欠運転にするように設定した。こうすれば、今までよりも時間はかかるが、氷漬けとなって、シー・デヴィルが封印されることになる。

「起動音がものすげえからよ。耳抑えて、口を開けてアーと言え。いくぞ」

 ラースは懐から耳栓を取り出し、装置を再起動させた。

 地球の海を行く、船の汽笛の様な、低く、腹に轟く音が鳴り響いた。その場にいる者たちは、風が自分たちの所から、上へ上へと抜けていくのがわかった。

 轟音は一度止み、それから海水が噴霧となって轟音を立てながらシーデヴィルへ吹きつけられるのを見届けた一行は、思い思いに戦支度をはじめた。それが終わると、一行は梯子を降り、氷の天板のある広間へと戻ってきた。

 地下からの空気は、氷の天板を抜けることなく、別の空気口から抜けたようだった。

 広間から天井を仰ぎ見ると、先ほどの轟音は何事かと、赤沼族のサファグンがうろうろと歩いているのがわかった。

「全員準備できたか? できたら……イングラム、こいつを天井に投げつけろ」

 ラースがそういって渡したのは、ローグ達が手作りで制作し、使う手榴弾だった。

「天井の氷にぶちかませば、爆発して天井が落ちてくる。破片に気をつけろよ。そしたら、あの梯子を登れ」

 そういって、ラースは梯子を指さした。

「派手にやらかすぞ。いいな? イングラム、やれ!」

 イングラムは――そうプログラムされわけでもないだろうに、まるで野球選手のように振りかぶるや否や、氷の天井に向かって手榴弾を投げつけた。25個のシベイ竜水晶と火の精霊の欠片からなる手榴弾は弾着と同時に大爆発を起こし、炎を球状にまき散らした。同時に、氷で作られた天井は穴を穿たれ、そこを中心にして亀裂が生まれ、広がっていき、やがて音を立てて大崩壊と呼ぶべき惨状をもたらした。

 氷の天井――そこを床として使っていた赤沼族のサファグン達にとっては悲惨なことに――の崩壊に巻き込まれ、突然足場をなくした赤沼族の巡検隊は、下層の梁に叩きつけられて死んだ。

 ……たまたま位置が良くて、水面に落ちた者もいたが、キンザザ達灰肌族の者達の投げた石槍に貫かれ、一匹、また一匹と、彼らの魂はディヴァウラーの腕へ抱かれることになった。灰肌族の脳裏にはコボ共に殺されるくらいなら、せめて同胞たる俺達が――という思いがあったのだろう。コボ達が手を出すよりも速く、正確に、石槍は哀れなサファグン達の喉を正確に貫いていた。

 そうした悲惨な光景を見ることなく、ジーツは梯子をすばやく上り、残敵がいないか索敵し、安全を確認して登って来いと合図を出した。

 氷の天板を破壊した事でほとんどの敵は下層へ落とされたらしく、上層では戦闘は起こらなかった。

 ただひたすら上へ、上へと続く道――どちらかといえばなだらかな滝と言っていい――を登っていった。

 海中にある秘密の通路を通ってきた時には、曲がりくねり、分岐が山ほどあって苦労をしたのに、地上からは呑気に坂道を歩くだけというのは不公平、というのが、コボ達の偽らざる愚痴だった。

 戦闘に出遅れ、猛る復讐心をぶつける相手を失っているだけに、その思いを払拭するのは難しいようだった。

 これなら、上から強襲したほうがよかったのではないか? 

 特にガルニアはぐちぐちと文句を言い立てた。

 ガルニアの愚痴に全員の我慢が限界に達する頃、ようやく海面吸気口までたどり着いた。

 開口部は、村の門から出て左手側の崖の下にあり、生贄の巨木と崖の丁度中間地点にある。ここから、敵陣へ殴りこむには 海面吸気口からはご丁寧にもロープが垂れ下がっていて、重量的には、やや重いアマルガムが引っ張っても切れることなく、このまま登っても大丈夫そうであった。

「……何か聞こえねえか?」

 ジーツが怪訝な声を上げた。

「私には何も聞こえないけど?」

 セリマスはそう答えたが、ジーツは目を瞑り、自分の耳を信じて、音の出処を探った。

「音だけじゃねえ。何か焦げ臭い。先に登らせてくれ」

 ジーツはするするとロープを手慣れた様子で登っていった。蜘蛛の件で懲りたのか、頭をそっと出し、様子を伺う。

 ジーツの耳と鼻は正確だった。

「ジーツ、何かわかった?」

 下からからセリマスがジーツに声をかけた。

 ジーツはロープを使わず、飛び降り、スタンと見事な着地を決めて言った。

「村が燃えてる」









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