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コルソス島奇譚 蠢動各個

 コルソス島の地元民が生贄の木と呼ぶ巨木の洞の中で、サファグンであり、自称、海大将であるヴェッツ・スプラーはバタバタとエラを鳴らし、不満と苛立ちを隠さなかった。いつまでたっても、副官であるヒュール・エイが帰って来なかったからである。
「あの野郎、何処ほっつき泳いでんだ!?」

 奇しくも、同時刻、似たような事を波高亭でシグモンドが口走っていた事をヴェッツ・スプラーは知らない。

「仕方ねえ。行きありばったりだが、野郎ども準備しとけ。奴らが一番寝こけてるのは日が登る前だ。一撃交えたら、攫って逃げるぞ」

 ヴッェツ・スプラーの下知にサファグン達が湧いた。

 
 †


「ラースからの合図はまだなのか」

 ミウリはイライラとしながら、シグモンドに尋ねた。

 シグモンドはあれから、ガンナーを探して村中を探し歩いたが見つからなかった。これだけ探しても見つからないのであれば、敵情を知るべく、偵察に行ったのかもしれない。

 シグモンドは胸の中に沸き起こる不安と疑念を堪えつつ、波高亭に戻った。戻った所を、スツールに腰掛け、カウンターを指でトントンと叩き、いらだちを顔に浮かべたハーフエルフにとっ捕まったのだった。 

「まだでしょう。一応大人数連れて行きましたけど、制圧に時間がかかってるんでしょうや。それに装置をいじって、吸気と排気を逆転させるって言ってましたからねえ。ものすごい轟音が合図だそうですし、まあ焦らず待ちましょう。そもそも予定では、早朝でしょう?」

 シグモンドはそう言って、ミウリを宥めた。このハーフエルフは、まだ若いせいか、ちょいと辛抱が足りない所がある。

 ミウリの気を紛らす為に、シグモンドは別の話題を振った。

「『アレ』の準備はどうなってるんで?」
「『アレ』は急いで分解してる。船の周りはキンザザ達の配下がぐるりと取り囲んでるから、大丈夫だとは思うけど」
「……思うけど、辛抱たまらんってとこですかい?」

 シグモンドの問いにミウリは苦笑を浮かべた。

「そんな感じだね。戦士たちなら――武者震いっていうのかな? そういうのを抑える術を知っているのかもしれないが……どうにも、ね」

 商談なら、どんと来いなんだけどなあと、ミウリは、恥ずかしそうに頭をかいた。

 酒場のカウンターという、誰が聞いているか分からない環境では『アレ』とぼかした表現で二人は語ったが、秘術火砲メイジ・ファイア・キャノンの事である。重量があまりにありすぎて、桟橋に載せられるか不安を感じたシグモンドは、リナールにばらしてくれと頼んだのだ。実際のところ、リナールも乗るか乗らないかやってみないとわからなかったらしく、シグモンドの頼みを了承したのだった。

「それにしてもよく『アレ』についての情報知っていやしたね? リナールはずっと黙ってるつもりだったみたいですが」

 シクモントがミウリにガランダ蒸留酒を差し出しながら、直裁に聞くと、ミウリは「運がよかっただけさ」と曖昧な解答をした。

「運が良かったとは?」
「……彼の配下のエルフ達もこの3ケ月生きて故郷に帰れるか不安だったのだろうね。ここの廊下で噂話を聞いてしまってね」

 ミウリはシグモンドと視線を合わそうとはせずに答えたせいで、シグモンドは彼が嘘をついていると半ば確信してしまった。

「リナール船長は秘術火砲メイジ・ファイア・キャノンを持ってるのに出し惜しみしている。あれを使えば故郷にかえれるかもしれないのにって。そんな話がきこえてきてね……」

 ミウリはそう言うと蒸留酒を呷った。

 シグモンドは、その話で誰が得するかを考え、食っ先に、ブレランド王室に奉仕し続けているエルフ――ウルビアンが脳裏に浮かんだ。察するにソウジャーン号に忍び込んで調べあげ、このハーフエルフに情報をわざと漏らしたのだろう。その行動力と実力に、シグモンドは改めて、彼とその背後にあるモノに恐れを抱いた。

「ま、もうすぐこの乱痴気騒ぎともお別れだ」
「……そうだね。そうあってほしいね。僕も自分の部屋に引き上げるよ。何かあったら起こしてくれ」


 †


 ミウリとシグモンドが波高亭にいる頃、ルクセンは村の結界安置所にいた。

 この結界安置所は、波高亭と桟橋の中間地点にあり、石造りの倉庫だ。元々は村の食料貯蔵庫であり、竜水晶も倉庫の片隅で、誰もその存在を気にかけることもなく、静かに、稼働しつづけている代物だった。

 それが――魔法による寒冷化から、村を守る命綱になろうとは誰も予測しえないことだった。その60フィート四方の倉庫に、ごろつき共はめいめいに敷物をしいて寝床を作っていた。明日に備えて寝ている奴もいれば、札遊びをしている奴もいる。  

「……一人いないな」

 辺りを見渡して、ルクセンはひとりごちた。

「タイチョー、見回り、お疲れ様でアリマス」

 寝ている連中に迷惑にならぬよう、ランプの光を極力抑えて、静かに札遊びをしている連中がルクセンに声をかけた。

「お前らそろそろ寝ろよ。明日きついぞ」

 ルクセンがそう声をかけると、

「勝ったら寝るでアリマス!」

 と、連中はふざけた敬礼をかえし、下卑た笑い声が静かに響いた。

 こちらをバカにしたその返答に、内心のいらだちを上手に隠しながら「しょうのねえ野郎どもだ。程々にしておけよ」と言い残し、ルクセンはその場を後にした。すると、

「あ、タイチョー、ヤークナーの野郎がいなくなりやした」

 と、後ろから、軽い声がルクセンを引き止めた。

「ヤークナー……顔に傷のある男だったな。逃げたか、寝返ったか……見つけたらぶっ殺せ」
「アイ、念入りに殺しときます」

 振り返らず、今度こそルクセンは後にした。


 †


 ソウジャーン号の船内では、タラシュクとチュラーニの混成2個小隊が、作戦手順の最終確認していた。

 1. ラースからの合図 角笛のような低音かつ轟音がなりひびく。予定では早朝
 2. サファグンが生贄の木、荒廃した墓所、ハウス・カニスの水道設備を攻める 
   (腕に布を巻きつけているのは味方)
 3. 先鋒はハウス・デニスのルクセン率いる2個小隊、次にタラシュク・チュラーニ混成2個小隊と秘術火砲、
   力術特化魔法使いとお付きの従者
 4. 秘術火砲で敵陣地を焼きつつ、嘆ケ峰まで前進
 5. ドラゴンはコボ達により、旦那を呼び寄せた。早朝までにはたどり着くから空からの攻撃は心配ない 

 追記 あんな嫁いらない カトゴス 
 追記 同感だ リナール

 6. 嘆ケ峰内部にデニス隊が突入したら、連絡要員を残して砲は村まで帰還。

  
 手順書には、戦いに赴く戦士達を和ませる為か、余計な茶々まで入っていた。

「近接戦闘用の武器は持つが、われわれの基本は矢戦だ」

 ハーフオークの隊長らしき風格を持った、片目の男が辺りに聞こえるよう、低音、かつ、ゆっくりと宣言した。

「今、錬金術師アーティフィサー達が、精神力の限りを尽くして召喚矢コンジュア・ボルトを生産している。持分は一人あたり300発だ」 

 部屋の片隅で、錬金術師アーティフィサー達が、矢を召喚しては取り出しやすいように、丁寧に袋詰めする作業に追われていた。


 †


 時を少し遡る――。


 敵は明らかにこちらの動きを察知しているに違いない。

 こちらの裏をかくようなやり方に疑問を抱いていたガンナーは、今までの様に、突破されないよう、門前をただ守るだけでは駄目だと考えていた。

 敵の行動を監視し、逐一味方に伝えることが大事。

 そう考えた彼は、準備していた鉤縄をぶんぶんと回し始め、それを門の岸壁に投げた。投げた鉤縄の鈎は、がっしりと岩に食いつき、大柄なガンナーの体重をしっかりと支えるだろう。腕に力を込め、ガンナーは苦労して岸壁を登ると辺りを見渡した。

 ここはガンナーのお気に入りの場所だった。

 コルソス島の南東部に位置する嘆ケ峰から、北西部の村までは全て切り立った岸壁だ。当然、村から見て門の右側、つまり北西部は当然崖であるが、そこからは、村の様子も、門の外にいる敵の様子もある程度見えるのだ。

 村がこんな状態になってしまってから、一度もきてはいなかった。何もかもが変わってしまった村を見るのが苦痛だったし、海からの寒風と嘆ケ峰からの吹き降ろしが交じり合うこの場所は、結界の範囲から外れていることもあって、今はとにかく寒かった……村がこうなる以前は、涼しくて昼寝をしたり、絵を書いたりするにはいい場所だったのだが。

 ガンナーはそこから村の様子を見た。桟橋が何やら騒がしい。よく見ると、ハーフオークやエルフの男達が荷下ろししている様子が見えた。明日の戦いに備えて、船員が徹夜で準備しているのだろう。

 翻って、敵の様子を覗いて見た。

 空は厚い雲に覆われていたが、それでも目を凝らさなくても見える程度には、十分な光量だった。月が13個もあるこの星の夜はとにかく明るい。

 カルティスト達が普段検問を敷いている所で動きがあるのが見えた。ちょうど坂を登り切るか切らないかといった所に、信者達がこぞって材木や石を積み始めていた。

 何故あんな所に? 今までそんなそぶりを一切見せなかったのに。

 やはりこちらの動きを知っているのだろう。と言うことは、やはり裏切り者がいるのだ。あちらへこちらの動きを流している者がいる――。

 ガンナーは一旦、離脱して状況を伝えるべきだと、腰を浮かしかけたが、この場に留まって、状況に変化があれば、それを逐一伝えたほうがいいだろうと思い直し、懐からくしゃくしゃになった紙と墨壺、羽ペンを取り出した。

 もう長い間絵を書いていない。

 ガンナーはこのお気に入りの場所で、もらったペンと紙、インクで、絵を描くのが好きだった。

 この島に入港してくる船を描くのだ。船は皆、一隻、一隻が個性的で、国によって船の形が違っていたりする。その事がガンナーの好奇心をたまらなく刺激したのだった。

 シクモンドには「絵描きになりてえのか?」と問われたこともある。

 ガンナーは否と答えた。

 自分程度の実力の持ち主はいくらでもいるし、これで食える程世の中あまくない。まあ、たまには船に乗って旅行にでもいってみたいもんだが――。

 その答えにシグモンドは安堵し

 「蓄えも溜まってきたし、これからは年に1度くらいは、ストームリーチに行ってみるか?」

 と、ガンナーの頭をくしゃくしゃと撫でたのだった。

 今や――羽ペンの代わりにリピーティング・クロスボウを持ち、ひたすらに引き金を引いてきた。

 だがそんな苦痛に満ちた日は終わる。やっと終わる――。

 そんな、ガンナーの淡い希望を祝福するかのように、雲間から月光が優しく降りてきた。

 月光の下で「敵に動きあり、防御を固めている」と短く書くと、折りたたんで、矢の先端付近に結びつけ、波高亭の看板――マグカップの中身が高く波打っている絵、長い年月に色あせてしまった――に向けて狙いを定めた。

 その時、自分の右後方から、バンっと何かが弾ける音がかすかに聞こえ、ガンナーは驚いて振り返った。途端、体に衝撃を受け、のけぞり、後ろに倒れこんだ。自分の身に何が起きたのかわからず、ガンナーは混乱した。

 息ができない。体が熱い。自分はいったいどうなったのだ?

 雲間から、またも月光が降りてきて、その光に包まれた時、ガンナーは全てを悟った。

 胸に2発、喉に1発矢が刺さっていた。3ケ所から血が溢れはじめた。特に喉の傷がまずい。方向からして、サッドがA群と呼んだ敵の拠点から飛んできたのだろう。あそこまで80ヤードはあるが、無理な距離ではなかった。こちらの鏃が月光を浴びて、むこうに見えたのだろう。

 敵に腕利きの弓兵がいる――その事も伝えねば!

 だが、体が動かなかった。いくらがんばっても指先に力が入らない。助けを呼ぼうにも声はかすれて、まもとな音にならなかった。

 崖の下からは愛すべき人々の声が、風にのって聞こえてきた。

「あの野郎、何処ほっつき歩いてんだ!」 

 シグモンドの声だった。

 (親父、お袋、アイーダ、すまない……)

「ガンナーを見つけたら、親父さんが探してたって伝えておくよ」

 (ウルザ……俺はもう、引き金を引かなくていいんだな……)

 それが、ガンナー・バウアーソンの最後の思考となった。











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