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コルソス島奇譚 墓所の守護者

 飛び込んだ先は石造りの道が続いて、中央の柱には松明が掲げられていた。そして右に折れた通路の先から、聞き覚えのある不気味な詠唱が聞こえてくる。その詠唱は間違いなく、あの洞窟で聞いたのと同じものだった。

 「ルイズ、どこだ!」

 直情な才人はいてもたってもいられずに大きな声を上げた。声はさほど広くない石造りの廊下で反響した。偵察を得意とするウルビアンなら、敵に見つからない様、慎重に進むのだろうが、才人はむしろ、声に釣られて出てくる奴をボコれば居場所を吐くだろうと考えていた。

 (ルイズあの半魚人達に捕まってるんだ! 助けなきゃ!)

 道なりに通路を右に曲がったところで、才人はぎょっとした。

 (ほ、骨が歩いている! スケルトンて奴か!?)

 骨――スケルトンは才人に気づくことなく、墓所の奥へ、奥へと向かってる。

 墓所の廊下は等間隔に石棺が立ち並び――才人には読めなかったが――歴代のヘイトン達の名前、生きた年代、業績などが、石棺の表面に彫られていた。立ち並ぶ石棺の中にひとつ、蓋が床に転がっているものがある。このスケルトンは、そこから飛び出したのだろう。その蓋の開いた石棺の傍らには、拳大のサファイアが転がっていた。

 大股で歩くスケルトンのカシャ、カシャという足音が、才人にはカサ、カサと聞こえてしまい、自分の部屋に出たゴキブリの足音に思え、墓所という雰囲気も相まって、目の前を歩くスケルトンに強い嫌悪感を抱いた。

 (ルイズの元へ急がないといけないのに、邪魔しやがって!)

 スケルトンの脇を駆け抜けるべきか、それとも一刀のもとに切り捨てるか――才人は自分の右手にある炎の剣を見た。この燃え盛る剣でなら、あのホネコツをぶった切れるかも!

「……往生せえやあああ!」

 鞘を投げ捨て、まるでヤクザの鉄砲玉のような雄叫びをあげて、才人はスケルトンに斬りかかった。


 †


 彼は石棺の中で目が覚めた。あまりに長い眠りの為に、もはや名前すら思い出せなかったが、自分がヘイトンに連なる一族だということは覚えていた。

 何故、目がさめたのか疑問に思った彼は、墓所の中に邪悪な力が満ちているのを感じた。

 この力が我らの安らかなる眠りを妨げたのだ! 

 怒りが彼を突き動かし、不逞の輩を誅すべく、石棺を飛び出し、墓所の奥へと向かった。


 † 
 

 スケルトンは才人の雄叫びに気づいて振り返ると、正面から迎え撃つかのように、拳を固め、すっと腰を落とした。
 
 雄叫びこそチンピラのそれであったが、才人は、大きく踏み込んで、裂帛の気合を込めて、炎の剣を右上から左下に振り下ろした。ところが、迎撃するかにみえたスケルトンは、素早い足さばきで一歩後退し、才人の攻撃をあっさりと躱した。

「くっそ! 避けんな!」

 才人は炎の剣をぶんぶんと振り回したが、スケルトンは半身に構え、右に、左にと巧みな足さばきで才人の攻撃を躱し続けた。才人が野球のバットの様に横殴りにフルスイングした時には、ボクシングで言うところのスウェーイング、上半身を大きく後ろにそらして、攻撃を回避し、あまつさえ、己の心臓を守るかのように左腕を縦にして、右腕を水平にして、フリッカージャブの様にカシャ、カシャと動かし、ついでに、あまりにお粗末な才人の攻撃をあざ笑うかの如く顎をカパカパと動かした。胃と口を動かす筋肉と声帯があったなら「下手糞」と罵っていただろう。もしかすると、このヘイトンの生前は、モンクだったのかもしれなかった。

「ふっざけんな、骨のくせに!」

 才人は大上段に炎の剣をふりかざし、思いっきり左足から踏み込んだ。そして「おおお!」と雄叫びをあげ、振り下ろした。

 だが、またしてもその攻撃は躱された――その結果、普段から居合等で振り慣れているならいざ知らず、振り下ろした剣は重力に従って、勢いを制すこともできずに、大きく踏み込んだ自分の左脛を切り裂き、同時に剣に込められた炎の魔力が傷口を焼いた。

「うぐわあああ!」

 突如沸き起こった激痛に、才人は耐えられず悲鳴を上げ、思わず剣を取り落とし蹲ってしまった。傷口は焼かれてはいたが、炭化して血を防ぐほどではなく、才人は両手で必死に傷口を抑えた。

 脳みそはないが、その隙を逃すほど、スケルトンは愚かではなかった。

 才人を蹴り飛ばし、尻もちした才人に馬乗りになると、両手で顔面を何度も殴りつけた。これにはたまらず、才人は再び悲鳴を上げた。

「サイト!」

 サイトの耳にフラワーの声が届いた。

「フラワーちゃん!」

 両手で顔をかばいながら、サイトはフラワーの名を呼んで、助けを求めたが、やってきたのはスケルトンの拳で、才人はおもいっきり舌を噛むはめになった。

 舌を噛んで悶絶する才人を、スケルトンがもう一度を殴ろうとした時、音もなく忍び寄ったウルビアンが、手持ちの棍棒でスケルトンの頭を強打した。強打された頭は亀裂が入り、蜘蛛の巣状の罅がはいってはいたが、僅かに打点がずれていたらしく、砕ける程ではなかったらしい。新たな敵に気づいたスケルトンは立ち上がり、ウルビアンと対峙しようとした――が、それが叶うことはなかった。

 痛みをこらえながら、才人はスケルトンにむかって足払いを放った。

 ウルビアンに気をとられていたスケルトンはあっさりと転んで、ひっくりかえり、ウルビアンが止めの一撃を眉間に喰らわすと、スケルトンの頭部は下顎を残して完全に砕け散った。頭部を破壊されたスケルトンは、糸が切れた操り人形の様に、ぴくりとも動かなくなった。

 おそらくは、その魂が死者の領域ドルラーへと舞い戻ったのだろう。

「サイト君、大丈夫か?」
「全然ダメ。顔はボコボコだし、左足が……痛ぇ」

 顔をパンパンに腫らした才人は、痛みに涙をポロポロ落としながら、フラワーが来るのを待った。

「うわあ……派手にやったなあ」

 のしのしとやってきたフラワーは、才人の左脛に手を当てて、軽傷治療キュア・らいと・ウーンズをかけた。

 ウルビアンは手当をフラワーに任せると、奥へと音もなく進み、自身が最も得意とする偵察を買って出た。

 左脛の傷は、深手ではあったが、血管や神経は幸いにも傷ついていないらしく、フラワーの掌から流れる暖かい力に、才人は安堵を覚えた。傷口は定規を押し当てたようにうっすらと跡が残っている。

「今夜、左足が少し熱を持つかもしれないが我慢しな。顔はどうする?」
「いいよ。じんわりと痛むけど耐えられないほどじゃない。サンキューなフラワーちゃん」

 フラワーの手を借りて才人は立ち上がった。

「礼はいいよ。呪文の加護を与えようとしたら、いきなり飛び出すんだもの。びっくりしたよ」
「ごめん、俺、居ても立ってもいられなくなっちまって……」
「気持ちはわかるよ。あと、サイトが倒したスケルトンだけど、あれ、たぶんここの墓で眠ってた人だな」

 ほら、ここに名前が書いてる、と、砕け散った石棺の蓋の破片の中で、比較的大きい部分をフラワーは指さした。そこにはホーレス・ヘイトンと刻まれていた。

「墓を荒らす罰当たりから、ここを守るための守護者だったんだね」
「え? 敵じゃないの?」

 フラワーの話を聞いて、さすがに、才人はバツの悪い顔をした。

「違うね。まあ仕方ない。あとでラースに謝っておきな」

 フラワーは「ほれっ」と、床に転がった鞘と拳大のサファイアを拾い上げると才人に押し付けた。

「あとでラースに返すんだよ」
「ラースってあのゲロ吐いてたおっさんか……ああ、もちろんだよ」 

 フラワーと才人が話している横で、偵察を買って出たウルビアンが帰ってきた。

 この通路の先は竜語で言うところのTの字になっているらしく、右には木製の扉があり、呪文が聞こえてきているらしい。左側にいけば、道はさらに左と真っ直ぐに分かれていて、どの道に行こうが呪文が聞こえてくるという。しかも道中に一抱えはありそうなき巨大な茶色蜘蛛が2匹いる――

 ウルビアンは「その蜘蛛はつぶしておいた」と、緑色の体液がべちゃりとついた棍棒を才人達に見せた。

 才人達は、そこから漂う甘酸っぱい匂いに、顔をしかめた。

「才人君、君は剣を使えないんじゃないか? さっきの怪我は――」
 
 ウルビアンが言い終わるより早く「そうだよ。使えない」と才人は答えた。

「むしろウルビアンさんの棍棒と交換してくれない? それなら、ケガしても打ち身ですむし。できればタルブロンさんみたいに、武器を使えるようになる呪文が欲しいけど……」 
達人の手腕マスターズ・タッチか。私もいくつか秘術は使えるが、呪文を覚え直す必要があるな。今は無理だ……棍棒は君がいいなら交換してもかまわない」

 ほら、とウルビアンは自分の持っている棍棒を才人に手渡し、才人の炎の剣と交換した。

 才人は自分がゲットしたお宝を渡すのは、正直、惜しいと思ったが、使いこなせないなら意味がない。

「よし、サイト、改めて呪文を唱えるから、抵抗せず受け入れてくれ。ウルビアン、アンタもだ」

 フラワーは、悪よりの保護プロテクション・フロム・イビル牡牛の筋力ブルズ・ストレングスを自分も含む全員にかけた。

「俺がヘマしたせいで、逆に遅くなったけど、力を貸してください」

 お願いします! と、才人は二人に向かって頭を下げた。

 二人は「もちろんだとも」と、笑顔を浮かべて、その願いを請け負った。

 
 


 体を全体を包む倦怠感と下腹部の鈍痛に、ルイズは――ああ、月のものが来たのかと、ぼんやり考えた。だが、おかしい。自分の周期からいってもう少し先のはず。そこまで考えてから、自分がベッドではなく、固くじめじめとした、レンガの床にうつぶせになっているのに気づいた。

 どうして自分はここにいるんだろう?

 そこまで考えた時、脳裏に、侵入者が自分を襲って、何度も自分の腹を蹴りつけたのを、思い出した。身を起こそうとして、ルイズは自分が後ろ手に縛られているのに気づいた。当然、杖もない。

 辺りを見渡せば、10メイル四方の正方形をした、壁も床も石造りの部屋だったが、一辺あたり5つ石棺が等間隔に並んでいて、3方向、計15の石棺がルイズを監視するかのように並んでいる。残りの一辺は長い年月に風化した、粗末な木製扉の入り口だけだ。そして中央には、異様としか形容できない台座が鎮座していて、傍らには、血まみれの大きい斧が立てかけてあった。

 人目を引くその異様は、台座の側面が、最も顕著にその特徴が現れていた。何しろ、直径1メイルはあろうかという歯をむき出しにした巨大な髑髏だった。その目の中にはロウソクが瞬き、異様という形容を通り越して、見る者の嫌悪を掻き立てた。髑髏だけでなく台座自体も木製であったが、魚のような鱗のある薄い皮が誂えられている。高さ50サント程度しかない台座の天板にあたる平面は、人の者か定かではない脊椎が、槍の様に何本も突き立てられ、そこから血が滴り、床までか細い川をなしていた。

 想像したくない事だったが、この台座で生贄にされた者の数だけ、この脊椎が台座に突き立てられるのではないか?

 ルイズは自分の想像に怖気が走った。だとしたら、次は間違いなく、自分の番だろう。 

「目が覚めたか」

 寝そべったままのルイズは、苦労して振り返った。

 声の主は、自分の部屋で、月光に照らしだされた、あの下卑た顔がそこにはあった。ボンクラ平民と同じ黒髪で、瞳は緑だったが、左目の上から眉間にかけて刀傷があり、見苦しいにも程がある。ルイズを見下すように口元はニヤつき、ろくでもない仲間とつるんで「これから毎日家を焼こうぜ」と台詞を吐いて、無辜の民を苦しめていそうな凶相だった。右手には黒い刀身の小剣をぶら下げていた。

 男の傍らにはもうひとり、気の弱そうな男が立っている。どこか怯えたように、きょろきょろと辺りを忙しなく警戒していた。

『アンタ達、私をこんな所につれてきてどうする気なのよ!』

 ルイズの口から出た竜語に、男はきょとんとした表情を浮かべた。竜語をしゃべることのできる者は滅多にいないのだから当然だった。

「お前、何を喋っている? まさか共通語が喋れないのか?」

 困惑した表情を浮かべる男に、ルイズは舌打ちしたい気分だった。こんな時にあのボンクラ平民がいてくれたら、通訳してくれるのに――同時に――彼がここに居ない事に不安と安堵も覚えた。

「まあ、なんだっていいや。どうせお前さんはコレだからな」

 男は訳の分からない言葉で、自分のクビを掻き切る仕草をして、ルイズは目の前の男に恐れを抱いた。杖がないことよりも、言葉が通じないというのがまずかった。交渉なり、情報を引き出すなりで時間を稼ぐ事ができない。

 ルイズは自分がどうやって生き延びるべきか、必死に考え続けた。どうにかして、起き上がり、あの木製扉を突破すれば、或いは――

「な、なあ、この娘はどうするんだ?」

 ルイズの思考を途絶させたのは、怯えた表情を浮かべた吃音の男だった。

「ほ、本当に殺すのか」

 彼が何を言っているかわからない。だが、自分を見る目は哀れみを浮かべているように思える。ルイズはそう判断した。

 (この男はもしかすると助けてくれるかもしれない。だけど過信は禁物よ)

 ルイズは恐怖に震えそうになる心と体をそう叱咤しつつ、二人が油断してくれるのを祈る気持ちで、事の推移を見守りつつ、いつでも走りだせるようになんとか体を起こした。

「オレが殺すんじゃない。向こうがどうするかを決めるのさ」
「だ、だけど、ラ、ラースの話じゃ、こ、この娘が作戦の」
「おい、ジャコビー」

 男がドスの効いた低い声音で吃音の男の胸ぐらを掴んだ。

「お前、帰依するって言ったよな? あれは嘘なのか?」

 二人の男の視線がルイズからそれている。ルイズは意を決して、扉へ向かって一気走りだした。

 部屋の内側であるのに蝶番が見当たらない。と言うことは、手の使えない自分でも、体当たりすれば、扉は開くはず!

 ルイズはそこまで計算して、扉に体当たりをかけた。

「くそ! どけ!」

 顔に傷のある男は、吃音の彼を突き飛ばし、懐から投げナイフを放った。手首のスナップを効かせて投じられたナイフは、回転しながらルイズの無防備な背中へと肉薄したが、彼女が扉を破ると同時に倒れこんだせいで、彼女に突き刺さることはなかった。しかし、ナイフはそのまま、先の通路へ飛んでいき、通路の左隅にある石棺にカツンと当たるや火花を散らし、床に落ちた。


 扉はあっさりと外側へ開いたものの、勢いをつけすぎてルイズはそのまま、床にヘッドスライディングしてしまい、強かに顔面を強打した。鼻血が出ているのも構わずに、起き上がり、眦を上げて前を向く。

 負けるものか!

 その不屈の闘志だけが、ルイズを支えていたが、彼女の行く手には、絶望が待ち構えていた。

「何だ貴様は?」

 声のかけられた左側を見ると、そこには、波高亭で見たサファグンと呼ばれる亜人が立っていた。ルイズを睥睨し、威嚇するかのようにエラをバタバタと動かした。そのせいで、サファグンの呼気が床に伏せているルイズにまで到達し、生臭いその匂いに、ルイズは一気に胸が悪くなった。

 ルイズはサファグンの問いに答えず――共通語がわからないので答えようがなかったのだが――慌てて立ち上がり、逃げようとした。だが、サファグンはルイズの髪をむんずと掴むと、漁に使う投網を手繰るように、強く髪を引っ張り、ルイズを捕まえた。

 遠慮も呵責もなく髪を引っ張られ、ルイズは苦痛に喘いだ。

「貴様は何者だと問うている」
『アンタの言葉が私にはわからないのよ!』

 痛みに涙を流して、そう答えると、喚かれた竜語にサファグンは不可解な表情を浮かべたが「帰依した者が我らに取る態度ではないな」と独り言ち、改めてルイズに宣言した。 

「帰依しないなら死ね」
『何言ってるかわからないけど、お断りよ! こんな無礼な所業、絶対に許さないわ!』

 ルイズは目尻に涙と恐怖を堪えながら、この理不尽との対決を改めて宣言した。

「いやあ、旦那、お手数かけましてすいやせんねぇ」

 揉み手をしながら、顔に傷のある男は、ルイズ達に近づいた。

「チョイと目を離した隙に逃げられまして」
「先程の貴様か。こんな小さい娘に逃げられてどうする。次に失敗すれば、この娘よりも先に貴様が贄になるぞ」
「ハッ、肝に命じます」

 サファグンは、来い、と、ルイズの髪を引っ張っりながら、台座のある部屋の中に入った。

 ルイズは強引に髪を引っ張られ、痛みと不当な扱いに抗議したが、それが聞き入られることはなかった。

 サファグンはルイズを台座の中央まで、引っ張り、無理やり跪かせると、背中を踏みつけ、台座に彼女の頭を載せた。

 ルイズは血臭を間近で嗅ぐ羽目になり、その匂いに頭がくらくらした。そして、傍らにある大斧を見やり、自分の運命が決まったことを知って、泣き喚き、力の限りを奮って、暴れ始めた。

『ふざけんじゃないわよ! こんなの絶対に認めない。私はちい姉様の為に、こんなところまで来たのよ! こんなところで、果てるなんて運命、私は絶対に認めない!』
「わけの分からぬ言葉で泣きわめくな、女。不愉快だ。おい」

 サファグンは、吃音の男と、顔に傷のある男を順繰りに見やると、くいっとアゴで行動を示唆した。

「諦めな」
「ご、ごめんよ」

 二人は、暴れるルイズを押さえつけた。

 サファグンは大斧を振りかざし――脇へ下ろした。

「首が見えん。儀式には首を丁寧に切断する必要がある。髪が邪魔だ。切れ」

 サファグンに下知され、顔に傷のある男は、右腰に下げた鞘からすらりと黒光りする小剣を、音もなく抜いた。

「こいつはな、アダマンティンでできてんだ。どんな物でもバターみたく切れるんだ……おっと、お前さんは共通語がわからねえんだったな」

 ヒャッヒャッヒャとルイズを嘲笑いながら、ルイズの美しく、手入れされたピンクフロンドの髪に、すっと刃をいれると、一気に切り取った。そして、さも価値がない物のように、無造作に床に投げ捨てた。
    
 ルイズは衝撃のあまり、悪態すら口にすることができなかった。

 (ちい姉様が梳いてくれた髪が……)

 自分の身に起きた出来事を、理解したルイズは、目に怒りの炎を宿したながら、呪いの言葉を吐き綴った。

『アンタたちは絶対に殺す。始祖ブリミルが裸足で逃げ出すようなやり方で絶対に殺す!』
「何を言ってるかわからんが、許さんとか殺すとかそういう類だろ? お前に未来はねえんだよ」

 そういって、顔に傷を持つ男は、小剣の切っ先でルイズの右頬をすーっと縦に線をひいた。彼女の頬は一文字に血が滲み、やがて、床に点、点と少しずつ滴りだした。

「儀式を行う。そのまま女を抑えおておれ」

 サファグンは、そのゲコゲコと耳障りな声で、ディヴァウラーへの祈りを朗々と詠唱し、再度、大斧をふりあげた。


 
 このルイズの髪を切るという行為によって起きた遅延が、まさに彼女の生死を紙一重で分けたのだった。



「ルイズ!」

 木製扉を蹴破って、現れたのは、彼女がボンクラ平民と蔑んだ、使い魔(仮)、平賀才人だった。


 才人はルイズの状況を見るや、大斧を振り上げたサファグンをなんとしてでも止めなければ、と悟った。
 
 そして、

 (おっさん、ごめん!)

 と、ラースに心の中で謝ると、青く輝くサファイアをサファグンへ向かって勢い良く投げつけた。

 才人の筋肉は、フラワーの魔法の加護により、大幅に上昇している。呪文の名前の由来の様に、逞しい牡牛の如き筋肉から発せられた物は、普段のもやしのような才人の体からは決して発せられない運動エネルギーを生んだ。

 そのエネルギーは約260ジュール。

 プロ野球選手の投げる投球の倍のエネルギーだったが、たったの260ジュールとも言える。銃弾に換算するなら.380ACP弾を使う小型自動拳銃程度の、まさに豆鉄砲だった。

 しかし、ルイズを救うには十分だった。

 才人の投げた宝石の弾丸は、サファグンの胸に命中し、さしもの筋肉を誇る海底人といえど、のけぞらせ、得物を取り落とし、尻もちをつかせた。命中したサファイアは砕け散ることなく、威力を減じて天井へと跳弾し、わずかな浮遊時間の後、ついには床で砕け散った。

 砕け散ったその刹那――

 その部屋にある全ての石棺の蓋が内側から破壊され、中から勢い良く、15体のスケルトンが現れた。









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