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コルソス島奇譚 予期せぬ帰還

 慌てふためくミウリに急かされ、シグモンド達は波高亭を出た。
 ミウリの話によると、サファグンがシグモンドを名指しで呼び出したらしいが、それは罠だと彼は考えていた。

 シグモンドを一箇所に誘き出し、防備の手薄な別の場所へ襲撃をかける――。

 それは戦の常套手段であり、また極めて有効な戦術だ。罠とわかっていても行かねばならないのなら、せめて敵の行動を遅延させるべきだった。

 シグモンドは桟橋へ、わざとゆっくりした歩調で歩いた。途中、ルイズが魔法で派手に吹き飛ばした小屋の前で、ラースと従者であるウォーフォージド達が何やら揉めているのを尻目に、村外へ通じる門へと向かった。そこには、門を守備している息子のガンナーと聖騎士ウルザ、他数名が砂袋になった水袋を積み上げ、襲撃に備えていた。

「襲撃があるかもしれないから、油断するなよ」

 シグモントがそう声をかけると、ガンナーは、口の端をわずかに上げて微笑み、リピーティング・クロスボウを掲げた。シグモンドが視線をウルザに向けると、彼の目をしっかり見つめて頷いた。ここは大丈夫だろうと彼は確信した。

 親の贔屓目だが、息子は良い男に育ったと思う。ウルザみたいな、しっかりした姉さん女房をもらってくれれば――と、思うが、彼女は初老に差し掛かったラースに熱をあげていて、ガンナーの事を弟としか認識していないらしい。初恋は実らないというが、世の中うまく行かないもんだなと嘆息しながら、シグモンド達は村の結界を設置してある小屋に向かった。

 結界の要石はカイバー竜水晶で構成されていて、それを安置している物置小屋はハウス・デニスの鼻垂れ小僧と、その取り巻きのゴロツキどもが十重二十重に囲んでいる。

この連中は同時に、海からの襲撃に備えて、24時間、3交代で詰めていた。

 シグモンドは、成人したばかりで、人生経験が少なく、激高しやすいルクセン・ド・デニスを、鼻垂れ小僧と内心で呼んではいたが、ゴロツキどもを瞬く間にまとめ上げ、悪さを働かないようにし、この3ケ月宿に泊まらず、要石のある物置小屋にずっと寝泊まりしているのは、たいしたもんだと認めていた。

「ルクセン、ここの事はよろしく頼む」

 シグモンドは年下の少年に頭を下げた。ルクセンは、シグモンドが自分に頭を下げたのがよほど意外だったらしく、「お、おう、まかせとっ」け、と言いたかったのだろうが、最後はおもいっきり舌を噛んだらしく、涙目で口を左手で抑えながら、シグモンドに開いた右手をヒラヒラと振って桟橋へ行けと促した。

 何故シグモントがゆっくり歩き、寄り道ばかりするのか、理解していないミウリは、苛立ちを隠さず、何度も「急いでくれ」と急かした。シグモンドに請われて付いて来たジーツとタルブロンは、従軍経験があるだけに、シグモンドの行動を察して、同じ歩調で、ジーツに至っては口笛まで吹きながら後に続いた。 

 桟橋へ続くなだらかな坂道をゆるゆると歩きながら、桟橋に停泊しているソウジャーン号を見やれば、吹きっ晒しの甲板でリナールがドラウの娘たちを相手に説教している姿が見えた。カトゴスの姿が見えないのは、寒風を忌避して、すでに船室に入ったのだろう。

 そうして、一行は、ようやく桟橋にまでたどり着いた。

 桟橋は、水袋に、酒や水の代わりに砂をいれた袋が、人間の胸ほどの高さにまで、壁になるよう厳重に積まれ、即席の城塞となっていた。本来であれば、木材や石等を使うところであるが、そのどちらもこの狭い島では一定の数が用意できず、浜の砂を代用したのだが、その性能は折り紙つきで、すでに幾度ものサファグンの襲撃に耐えており、これを構築した者は「防戦に徹するなら、一個大隊に耐えられる」と請け負った。

 最もその男は、2回目の襲撃であっさり死亡してしまったのだが。どうやらこの島で大言壮語を吐くと死ぬ運命にあるらしい。男は死んだが、砂袋城塞は立派に機能している。袋が解れて、砂が漏れでていないか確認してから、シグモンドは桟橋の先へと向かった。

 そこには、サファグン達が待っていた。

 シグモンドら4人とサファグン達は、砂袋の壁を挟んで向かい合った。相手は3匹。

 先頭のサファグンは武器らしき物は何も持っていないが、後ろにいる2匹は石槍を携えている。ジーツとタルブロンは油断なく、周囲の警戒をはじめ、シグモンドはもう一度、ソウジャーン号を見た。シグモントが見ているのに気づいたのか、リナールは、ドラウの娘達に行動を促し、三人娘は弩を構え、3匹のサファグンに狙いを定めた。

 もし、この3匹が妙なことをすれば、右の側頭部に矢が生えることになる。

 シグモンドは、眼前に立つサファグンを見て、ふと、既視感を覚えた。

 このサファグンは、どこかで見た覚えがある――。

 どこでこのサファグンと会ったのか、シグモンドが思い出そうとした時、サファグンが踊りともとれる奇妙な動きを始めた。両手で両頬をパンパンと軽く叩くと、ガニ股になって両掌をシグモンドに見せ「クー」と鳴いたのだ。

 シグモンドの脳裏に、過去の情景が雷光のように閃いた。

「お前! もしかしてキンザザか!?」

 シグモンドは思わず叫んだ。そして、目の前のサファグンと同じように、両手で自分の両頬をピタピタと軽く叩くと、ガニ股になって「クー」と、聞こえるように言った。

その挨拶に満足したのか、そのサファグンの目尻が脂下がった。

「久しぶりだ、地上人」

 コルソス島の住人や、コルソス航路を通る船員なら一度は世話になるサファグン、灰肌族のキンザザ・プリンだった。


 †


 ラースと、彼を護衛しているウォーフォージド達が、吹き飛ばされた物置小屋を片付けていると、戸板の下から、倒れ伏したサファグンが現れた。

 ラースが足のつま先で軽く蹴り上げ、仰向けにすると、胸部が規則的に動いているところから、気絶しているのがわかる。その傍らには、割れた素焼きの壺と、ラースの先祖が書いた巻物が転がっていた。

 その巻物には、ラースとウルザの先祖達が灰肌族やコルソス島の島民と共に、シーデビルと呼ばれた巨大な海トロールと戦い、捕縛したものの、強力な再生能力を持つ海トロールをついに殺し切る事叶わず、かつて夢の領域ダル・クォールの住人、クオリ達が巨人を捕縛するために作った魔法装置、氷の棺に封印した事が書かれているのである。

 このサファグンは装置の操作方法を詳しく知るために、ラースの小屋に侵入したのだろう。ところが運悪く、ルイズの魔法に巻き込まれた……。

「お前ぇ、運がねえにも程があるだろ……まあ、とりあえず死んどけ」

 ラースは左腕の小口径秘術砲ルーン・アームを倒れたサファグンの胸に向けた。もし、彼がハウス・カニスの頂点に立つべきマスター・アーティフィサーになれていたのなら、彼の左腕には、5つの竜水晶が輝いていたに違いない。

 彼の左腕のにある3つの竜水晶は唸りを上げて回転し、エネルギーの蓄積を始めた。

「マスター! お待ちください!」

 発射圧に達した小口径秘術砲ルーン・アームを触って止めたのは、アマルガムだった。

「何故止める?」

 アマルガムの顔を見ることなくラースは尋ねた。彼の視線は、駆除すべきサファグンに、感情の揺らぎもなく注がれている。

「サファグンをぶち殺すのが、俺の新しい生き甲斐だって教えただろうが。それを邪魔するのか? お前が? 文字通り頭のネジでもはずれたか? どうなんだ、おい、ポンコツ!」

 ラースの口汚い罵倒に、アマルガムは表情を動かす事なく、このサファグンを生かすべきだと主張した。

 二人のやり取りを、通りかがったシグモンドとジーツ達が不思議そうに見ていたが、ミウリに急かされて去っていった。

「殺す前に、この者から情報を引き出すべきです」

 ラースが手ずから創り上げたウォーフォージド・アマルガムは、主人たるラースに一歩も引かずそう主張した。水銀とアダマンティンが合成アマルガムされた複合装甲が、弱々しい陽光を受けて煌き、ラースの顔を照らしている。この型のウォーフォージドは、最終戦争を最後まで戦い抜き、勝利をもたらす為には、あえて上官の命令にある程度逆らう事ができるよう鉄の意思アイアン・ウィルがプログラミングされている。そして、熟練兵からなる1個大隊と、戦闘の基礎だけをプログラミングされた、ウォーフォージドの未熟な1個大隊を組み合わせた2個大隊を、錬金術師達は合成アマルガム半旅団と呼んだ。

 この、ラースの手元に残ったのは、イングラムと、スローン・ホールド条約締結前に組み上げていた彼だけだ。その彼が、マスターである自分に意見を具申している。彼がこのコルソスでの騒乱を集結に導く為に必要だと説くならば、それは傾聴に値する。だが、アマルガムの意見具申を無視して、サファグンに止めを刺す衝動を、ラースは渾身で抑えねばならなかった。自分をあれほど愛してくれた女性、カヤの仇の片割れが今、目の前にいる――。

 ラースの左腕に装着され、すでに発射圧に達していた小口径秘術砲ルーン・アームの、蓄積された秘術の紫光が、眩いばかりに溢れ、左腕で周回軌道を描く3つの竜水晶の回転数は、竜巻もかくやと言わんばかりの速度を出し、今にも暴発寸前だった。

 ラースは、空に向かって左腕を突き出し、秘術の力を開放した。

 バシュっという、風船から空気が抜けるような音と共に、3発同時に発射され、紫光を纏った秘術の弾丸は、絡みあうように螺旋を描いて空へと消えてゆく。

 ラースの、胸の中で燃え続ける怒りが消えたわけではなかったが、それでも幾分かは冷静さを取り戻していた。

「……命令されただけの駒が、情報を持ってるとは思わんがなあ」

 ラースは酒に焼けたダミ声で、弱々しくアマルガムに反論した。

「マスターの設置された秘術の鍵を、解ける知性を持ち合わせているサファグンです。きっと何かを知っているでしょう」
 
 アマルガムは自信たったぷりにそう答えた。

「それと、あちらをご覧ください」

 今まで、沈黙を守っていたイングラムは桟橋を指さして言った。

「やや遠目ですが、シグモンドと会見しているのはキンザザではありませんか?」
「キンザザぁ? あの野郎生きてたのか」

 キンザザ。

 その名前を聞いて、ラースはようやくアマルガムを、そしてイングラムの指差す方向を見た。

「彼ならこのサファグンから情報を引き出してくれるでしょう」

 まだ怒りが収まらないのか、ラースは転がっているサファグンに一蹴り喰らわし、「おまえ達に任せる」と吐き捨てた。  

 
 †


 キンザザをはじめとする灰肌族のサファグンは、このコルソスでは、人間と物々交換をする程度には友好的であった。

 中でもキンザザは、火燐棒を欲しがった。

 彼の棲まう海底では、すぐに湿気ってしまって使えない火燐棒なぞ何に使うのか? 

 と、シグモンドはかつて一度問うたことがある。

 その問にキンザザは、しかるべき処置をして、空気のある海底洞窟で使うと、それはそれは幻想的な風景が広がるのだと、答え、真珠と交換して欲しいと、彼に大粒の真珠を差し出したのだった。

 地上の価値観では、真珠と火燐棒という交換は、地上人にはボロ儲けでも、サファグンにとっては大損のはずだ。それでも良いと答えるキンザザに、シグモンドも流石に阿漕な真似をするわけにもいかず、真珠はいらないが、代わりに、地上の住人が海に落っこちたりしたら助けてやってくれと求め、キンザザは火燐棒がたくさん詰まった箱を手に入れたのだった。

 そうして、凪の海のように穏やかな友情が、地上人と海底人の間に育まれていたのだった。
 
 そして、その友情は今、失われようとしている。

 キンザザは言った「我々の同胞が君達によって殺された」と。

 挨拶をかわしてから、キンザザの雰囲気はがらりと変わった。シグモンドに事の真偽を確かめるべく、その表情はややキツくなっている。

「昨夜の事だ、地上人。我々と君達との物々交換に使われる部屋に、汚らわしいコボルド共がいたのはどういうわけだ?」

 シグモンドは、ポカンと口を開けた。質問の意味がわからない。昨夜? コボルド?

「我々の僧侶が一人、奴らの毒矢を受けて死んだ。僧侶は解毒の呪文を唱えるほどには、位階が届いてはいなかった」

 シグモンドが思考の迷宮に嵌り込み、答えないのを不審に感じたキンザザの眦は、次第に釣り上がっていった。

「答えを聞こう地上人。我らの間に、地上と海底の狭間には、友愛の精神は失われてしまったのか?」

 キンザザの詰問に、シグモンドは「違う!」と大声を出した。

「誤解だ。聞いてくれキンザザ! あの部屋にコボルドがいるのは、奴らが貴重な情報の持ち主だからだ!」
「情報?」

 キンザザは怪訝な顔を浮かべた。

「そうだ。キンザザ、コルソスの現状を知っているか?」
「いいや。我らは、いとこ達の救援要請を受けて、お前たち地上人が赤沼津レッド・フェンズと呼ぶ場所へ行っていたのでな。ここにたどり着いたのも昨夜の事だ」

 キンザザの答えに、シグモンドは「ならば知らないのは仕方ない」とため息をついた。シグモンドは、灰肌族がここを離れている間に起こった3ケ月の事を、大まかに説明した。コボルド達が何がしかの情報を持っていること、それを聞き出そうとしていたことも。

「言いづらい事だが、お前さんの同胞に起こったのは不幸な事故だ。お前さんが帰ってくるのを知っていたら、コボルドを地下のワインカーヴに押し込めたりはしなかったさ」

 シグモンドの言に、キンザザはエラをパタパタ動かし「キュー」と鳴いた。事情は了解したが、不満があると言いたいらしい。
 
「事情はわかった地上人。海上を氷が覆っていることから察するに、封印施設を解いた者がいるな。そいつらは海を荒らす者、ディヴァウラーの教えを破らんとするバチ当たり共だ。そやつらは我ら灰肌族が始末しよう。どうやら我らの家族も、どこぞに連れていかれたようであるし、何としてでも奪還せねばならぬ」

 キンザザの言葉を受けて、シグモンドの顔は輝いた。灰肌族があの忌々しい連中を抑えてくれる! それだけでも戦力倍増というものだ。

 シグモンドが感謝の言葉を口にしようとすると、キンザザは、すっと手の平向けて、シクモンドを制止した。

「待て地上人、我々はコボルドの件を納得したわけではないぞ。共闘はするが、あくまでシーデビルの件と、我らの家族を奪還するまでだ。我らは地上の戦に関与はせぬ。また、僧侶の仇はいずれ討たせてもらう。この件について、努々邪魔するでないぞ」

 そう言ってキンザザはシグモンドを睨みつけた。

「よお、キンザザ、久しぶりだな」

 緊張に満ちた場の雰囲気を突き崩したのは、ラースと彼の従者達だった。

「ラースか。息災で何よりだ。生きている金属達も……ちょっと待て、何だ、それは!」
「何だって見りゃわかるだろ。お前ぇの友達だよ」

 ラースの従者たちは、サファグンの手足を縛り上げ、輪っかを作り、そこに物置小屋から拾ってきた鉄の棒を通して、逆さ吊りにしていた。口には、軽慰癒薬ポーション・オブ・キュア・ライト・ウーンズが突っ込まれ、哀れなサファグンは、まるで人間の赤子のおしゃぶりの様に、モゴモゴ言いながら薬をムリヤリ飲まされていた。

「もう1本行っとくか」

 ラースは懐から、軽慰癒薬ポーション・オブ・キュア・ライト・ウーンズを取り出すと、蓋をとって、サファグンの口に突っ込んだ。瓶を無理やり突っ込まれて苦しいのだろう。2本目はまともに喉を通らず、大半がエラから漏れでてしまった。

「地上人! これは我々に対する決別と見るぞ!」
 
 ラースの行為にキンザザは激怒し、警告した。場に再び緊張が走る。

 が、虐待行為を働いた当の本人は涼しい顔で、キンザザに話しかけた。

「まあ、待てや。こいつ、俺の小屋で盗みを働いていたんだぜ。かのシー・デビルに関する巻物を盗んだんだ。お前のお仲間なのか、そいつをまずはっきりしようぜ」

 キンザザは目を眇めて、縛られているサファグンを見た。そして、何かに気づいたのか、驚愕の顔を浮かべ、後ろにいるサファグン達に、彼ら海底人の言葉で話しかけた。

 キンザザを守るように立っていた彼ら海底人達も、一様に驚いた顔を見せ、縛られているサファグンを凝視している。

「どうなんだキンザザ、仲間なのか、それとも敵対氏族なのかはっきりしろよ。俺ぁ昔ほど気は長くねえんだぜ」
「待て。地上人、確認させる。タ・プリン・レプ・リレフ!」

 キンザザは振り返って、護衛の一人に命令を飛ばした。命令されたサファグンは、ぴょんと海に飛び込んで、あっという間に見えなくなった。

「ラース、瓶をとってくれ。彼と話がしたい」
「いいだろう」

 口に突っ込まれた瓶をラースが取ると、縛られているサファグンが口を開き、かすれた声で「地上なぞ呪われろ。父なるディヴァウラーと共に海に沈め」とこぼした。キンザザは、ラースに痛めつけられた(実際は少し違うのだが)同胞を痛ましく思いながら、砂壁越しに語りかけた。

「父なるディヴァウラーの腕より生まれし我らは灰肌族。同胞よ、身の証を立てよ」

 だが、そのサファグンは答えず「殺せ」という言葉しか口にしなかった。

「何故、身の証を立てぬのだ? 言えぬ理由があるのか?」

 キンザザが再度問いかけるが、それでも彼は答えない。キンザザは頭を振って、おそらくだが……と前置きした上で「彼は赤沼族だ」と周りに聞こえるように明言した。

 赤沼族? と、周りの地上人が不思議に思っていると、海面から泡を立てて、サファグンが2匹とびだした。キンザザはそのうちの1匹を「従兄弟だ。名をタ・プリンという」

と紹介し、「従兄弟よ、彼を見てくれ。私達には、彼の鱗がかすかに赤く見える」と、縛られたサファグンを指さした。
 
 タ・プリンと呼ばれたキンザザの従兄弟は「間違いない、赤沼族だ」と明言した。

「おいおい、地上人にもわかるように教えてくれやキンザザ」

 ラースがそう急かすと、キンザザはわずかにためらい「……長い話になる。シグモンド。お前の巣で話そう。向こうが了承すればの話だが、コボルド共とも話がしたい」と

提案した。その提案にシグモンドは了承し、ソウジャーン号で弓を構えているリナールたちにも合図を送り、警戒を解いた。

「来いよ。キンザザ、お前が好きだったハウス・ガランダの極上酒がまだ地下にあるぜ」
「それは楽しみだ……ああ、そうだ、忘れるところだった」

 砂壁に手と足をかけて乗り越えようとしていたキンザザは、桟橋に降りて海に向かい、何やら呪文を唱え始めた。海の底から、小さい泡が無数にコポコポと音を立てて、やがて巨大で透明な空気の層がゆっくりと浮上してくる。それが海面に上がってくるに連れて、球体であることがわかる。そして、その球の中には人間らしき人影が――。

「シグモンドよ、お前との間に結ばれた約定に従い、地上人を助けたぞ」

 球体が完全に海面に浮かび上がり、パチンと弾けると、波間にその人物は漂い始めた。その人物は、桟橋にいる人間すべてが知っていた。


 コルソス島の網元の息子、ジャコビー・ドレクセルハンドだった。






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