スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

コルソス島奇譚 アーティフィサー

 ルイズ、才人が揃って、夢の領域ダル・クオールへ赴いている頃、波高亭の階下の酒場では、カルナス杉で誂えられたテーブルを、3卓もつなぎあわせ、13人の人型種族達による現状報告が行われていた。この会議が行われている間は、定められたメンバー意外誰も入らないようになっていた。女将であるイングリットも含めてである。
 会議のメンバーは、宿屋の主人シグモンド、その息子のガンナー、村長のヴィジー・ストール、村唯一の聖騎士パラディンウルサ・ジャンスヤード。この4人がいわゆる『村組』の人族だ。そして、タラシュク氏族でハーフ・オークのカトゴス、チュラーニ氏族でエルフ族のリナール、デニス氏族で人族のルクセン、リランダー氏族でハーフ・エルフのミウリの竜紋氏族ドラゴン・マーク・ハウス組だ。

 ルクセン・ド・デニスは、成人してからまだ3年しか立っていない(五つ国で人間の成人は15歳とされる)ごま塩頭の若者で、釣り上がった三白眼が、彼を酷薄そうな人間に見せている。その容貌は、傭兵業を営む、上に立つべきハウス・デニスの人間として、役に立つものだった。
 
 商船の護衛としてデニス氏族の者が数人船に乗り込んでいたが、生き残ったは彼だけだ。

 ルクセンはこの会議で「村内の気温を維持する竜水晶を破壊しようとしたカルティストの一味を切り捨てた。今後も警戒を要する」と、要点だけを述べた。

 次に発言したのは、生き残った商人達と折衝を行なっているミウリである。彼は「早期解決を望んでいる。あとはいつもの愚痴」と肩をすくめた。

 ミウリ・ド・リランダーは、赤毛のハーフ・エルフだが、そう呼ばれるのを好まない。彼と同じ境遇の者達と同様に、できればコラヴァール……コーヴェアの子と呼ばれたがっている若者だ。他の人形種族に比べると、凹凸の少ない白く平たい顔の右眉から顎にかけて、竜の鉤爪のような竜紋が、水色の蛍光塗料の様な色合いで刻まれ、低い鼻、薄い唇、アーモンド型の目をしていた――この場に才人がいれば、「アジア系の人?」と感想を持っただろう。

 後は、冒険者組といっていい、ドワーフのサッド、フラワー、ハーフリングのジーツ、ウォーフォージドのタルブロン、人間のセリマス。

 現在、コルソス島にいる村人、客、冒険者達の3派は、この場に居る者を、それぞれの代表者と認めていた。

「……と、いうわけで、サファグンの巫女を殺害、神殿の破壊も成功したわ。これからは少しだけ、戦いが楽になるはずよ」

 セリマスがそう締めくくりながら、卓に付いている一同の顔を、眺めた。ほとんどが浮かない顔をしている。何が楽しいのかニコニコしているのはジーツだけだ。

「あの、それで、連れ去られた村人や娘は……?」

 おずおずと、村長のヴィジーがセリマスに尋ねた。でっぷりと太って、艶々と輝いていた頬は、この3ケ月で、げっそりとこけていた。先日、村の防備の隙を突かれ、彼の娘アリッサを含む数人の村人が行方不明になることで、彼の健康はさらに急降下している。

 その時当直だったウルサは、村人を守りきれなかったことを悔い、激しく気落ちしていた。額の真ん中から髪を二つに分けて編みこんでいる金髪は、ウルサの心を表しているかのようにくすんで見える。至上の主人達ソヴェリン・ホストの中でも、勇気と武勇の神ドル・ドーンを信仰しているだけに、彼女は雪辱を果たす機会を待っていた。だが聖騎士といえど、村娘や自分の尻を触った狼藉者の歯を、へし折るだけの簡単なお仕事しかなかった彼女には、村の防衛は荷が勝ちすぎているのも事実だった。

「まだ、わからない。何箇所かアタリをつけているけれど……サッドはどう?」

 セリマスに話を振られたサッドは、「む……」と、卓上に広げられた地図を見て考え込んだ。

13101901.jpg

 コルソス村は島の最北西にあり、ここから南へ古代カニス氏族の敷いたレンガ道の上り坂がまっすぐに伸びている。そのレンガ道は、竜語で言う所の、S という文字をやや左に傾けたようにカーブを描き、最終点は、嘆ケ峰に突き当たる。道の西側は登るに険しい切り立った岩山、道から一歩東へ行けば崖となっていて、直下の海面には、カニス氏族のウォーフォージド補修部品生産工場へ送られる取水口が顔を出している。そのまま、沖合に目を向ければ、およそ100ヤード先には、生贄の木が生えている小島が見える。そこはサファグンの勢力圏内で、うかつにボートで近づこうものなら、あっという間に取り囲まれて、嬲り殺されるだろう。

 さらに東に行くと、村の様子が伺えるちょっとした展望台がある。これも海に近づかなくてはならず、探索が進んでいない。

 村を南下すると、カルティスト達の検問がある。側にはA群とサッドが勝手に読んでいる丘があり、これら各群には、弓手、呪文の使い手、前衛の3人一組で、辺りを巡回したり、または木陰に潜んでいたりする。このA群を頂点として、南東にB群、南西にC群があり、C群の南にウォーフォージド補修部品生産工場跡地がある。跡地東側にD群があり、足元にある石橋をルイズが吹き飛ばしたので、ここからは嘆ケ峰には行くことが難しくなった。

 A群からD群はそれぞれ100ヤード以内の距離にある。どこかの拠点に、何か事あれば、互いにカバーできる距離なのが厄介だ。最終戦争の時には、艦載砲としても使用された秘術火砲メイジ・ファイア・キャノンがハウス・カニスによって配備されていたというが、戦争終結時に、補修部品生産工場と共に全て撤去されたのは幸いというほかなかった。

 B群の東側は谷河となっていて、嘆ケ峰へ行くことのできる唯一の橋が残っている。そこから東側に行くと、古代カニスの水道施設がある。ここも手が足りず探索が進んでいない。この谷河沿いに上流へ南下――途中、氷蜘蛛の死体の山をかきわけねばならないが――老朽化した墓所にたどり着く。ここを調査しようとしていた矢先にルイズと出会ったわけだ。

 カニス古水道の東側は海だ。海辺に行く道があったから、そこを降りていけば、おそらく未探索の神殿があるだろう。古水道の南は……嘆ケ峰の入り口となる洞窟が存在する。敵の本拠地だ。


「敵の勢力圏で、まだわしらが行ってないのは、工場跡地、生贄の木、展望台、カニス古水道、老朽化した墓所、嘆ケ峰……」
「行ってない所ばかりではないか!」

 ルクセン・ド・デニスが声を荒げ、サッドの発言を遮った。

「貴様らこの3ケ月何をやってたんだ? ドラゴンの空襲に逃げ惑い、半魚人共の強襲に怯え、カルティスト共の人さらいに震えるばかりで、ろくに成果があがってないではないか。貴様らに払っている金はどこから出ていると思っているんだ!」 

 ジーツ達3人組とサッド・フラワーのドワーフ組の依頼人は、ガナリ声を上げているルクセン・ド・デニスだった。

 ここの宿代と飯代を必要経費として払ってやるから、この状況をなんとかしろ。なんとかすれば、ハウス・デニスの高級武具を融通してやるし、氏族の様々な恩恵を受けられるぞ、と、彼は持ちかけたのだった。もちろん、彼等だけでなく冒険者と思しき者や、傭兵、ゴロツキ同然の者にまで声をかけ、どうにか50名程度の人間を確保していた。

 そして、そういう輩に食事と寝床、酒を振る舞うことで、村で暴発するのを抑えている所は、この場にいる誰もが認めている事だった。が、

「ですが、我々だけじゃ戦力が足りやしませんよ」
「それをなんとかするのがお前らだろう!」

 先日、船主達から責め立てられたことで、デニス氏族の名誉を汚されたと感じているルクセンは、ちょっとした事で怒り易くなっていた。よりにもよって、商売敵であるタラシュク氏族の前での失態である。なんとしてでも、成果を上げねば、デニスの沽券に関わると、まだ歳若い彼は考えていた。

「こうなったら、いっそ攻勢をかけるべきかもしれんな」 
「攻勢? そんなの気違い沙汰ですよ」

 ジーツは誰に気付かれることなく抜いた3本の投げナイフを、お手玉しながら答えた。

「戦力が不足してるってのは旦那だってわかってるはずですぜ、何しろチュータイ指揮官なんでしょ?」

 わざと揶揄するニュアンスでジーツは問いただす。

 その声音に、ルクセンの顔は、羞恥と怒りで真っ赤になった。実際の所、分隊指揮官であるのだが、冒険者ごときに舐められてたまるかと、大きく吹聴したのだった。ルクセンが吹いた事をジーツは気づいている――その事に気付いたルクセンの三白眼は、さらに釣り上がり、彼はジーツに怒鳴ろうとした。

「こちらも報告がある」

 と、苦々しい顔でリナールが発言したことで、ルクセンは口を噤まざるをえなくなった。

「ハウス・ジョラスコの御令嬢ドルーセン・ド・ジョラスコが村内で行方不明になった。早急に救助せねばならん」

 狭苦しい船内に閉じこもるのに飽いて、村内へ散歩に出た所をカルティストに誘拐されたのだと、彼女の従者であるハンサム・ウィルというハーフリングが血相を変えて、リナールに報告に来たという。直ぐ様、村内に潜り込んだカルティストを狩りたすめ為に、船内の護衛を差し向けたが、彼女とカルティストの行方はついにわからなかった。

 有能な癒し手が欠けるのは大問題である。

 その報告に誰もが呻いたが、サッドが何かを思い出した様に発言した。

「癒し手ならコボルドにもいたな」

 ディック達コボルドは、この報告会に呼ばれていない。この部屋に通しただけで、「暑くて死ぬ」と喚きだすのも理由の一つだったが、オージルシークスの家令と使用人であるという事実から、まったく信用されていなかった。コボルドといえば、知能がさほど高くなく、共通語が不得手で竜語を喋れない者を見下し、加えて、世界中のコボルド、特に都市部のコボルドは下水施設等を棲家として、しょっちゅう詰まらせたり、犯罪とされること平気で行い、人間を取っ捕まえて食う等、そもそも評判の悪い嫌われ者なのである。

「コボ助等役に立つものかよ」

 シグモンドは自分の経験を照らしあわせて、吐き捨てた。

「役に立つか、立たないかでいえば、立つだろうな。少なくとも何がしかの情報を知ってるだろう。あとでわしから聞いておこう」
「それなら、ルイズ嬢とサイト君を間に立たせたほうがいい、意思疎通が円滑に進むはずだ」

 タルブロンが、そう発言した。

「サイトって小僧は竜語が喋れるのか?」とサッドは訝しむ。タルブロンはそうではないと否定した。

「あの二人は、特殊な事情でな。コボルドの竜語をルイズ嬢が解し、それをサイト君に伝え、彼が我々に伝える」

 事情を知らない竜紋氏族達から、ルイズとサイトという人物は何者か、と質問が飛び、タルブロンとサッドが両名の情報と事情を簡単にを伝えると、ついにルクセンの癇癪が爆発した。

「別の世界から来ただと!? 馬鹿馬鹿しい、そんな戯言に君等は付き合っているのか?」
「厳密な検証ができる環境と情勢ではないが、私は信じる。少なくともサイト君の持っている持ち物は、全てを検分したわけではないが、コーヴェアでは見たこと無い代物だ」

 タルブロンはそう断言した。

「ほう、面白そうな物を沢山持った、金持ちのボンボンか。商売相手としては面白そうだな」

 カトゴスは、そう発言してリナールを流し目で見た。

「私はむしろ、その貴族のご令嬢に興味があるがね。君はどうだ?」

 と、リナールは、ミウリに発言を促した。

「僕は……正直に言ってわからない。だが、飛行艇で彼等の世界に行けるのなら、儲かるかもしれないな」

 ミウリが氏族の一員らしい商売っ気を、努めて朗らかな声で口にしたことで、この場に満ちていた重い空気が、やや取り払われた様だった。この3ケ月は、生き残ることに必死で、将来の希望なんてものはこれっぽっちも見えなかった。真偽はともかく、ルイズと才人という、別次元からの来訪者は、ひょっとすると福音をもたらす者達かもしれない。

 そのミウリの発言は、ルクセンのお気に召すものではなかったらしく、彼の眦はさらにキツく釣り上がった。


 その時、不意に扉が開いて、ムッとする潮風が入ってきた。

 扉に目をやれば、皺くちゃの茶色いローブを纏い、酒瓶を片手に持った男が立っていた。白髪頭に、手入れのされていない顎鬚は髪と同じく白く、顔の皺は、年齢や海の男という理由だけはでなく、絶望が共に刻まれていた。その男の後ろには、二体のウォーフォージド達が、男の身を案じて、害する者はいないかと波高亭の中を睥睨している。

 もう一度風が吹いて、今度は酒精と、幾日も風呂に入っていないのか、男の饐えた体臭が部屋の内部に撒き散らされ、会議をしていた面々は、皆、顔をしかめた。

 その様子を見た男は何か言おうとして、「うぇぇ、気持ち悪ぃ……流石にちょっくら飲み過ぎた……」と呟くと、えろえろえろと、その場に吐き出し、自分の胃液で、焼く前のピザを床に描き出した。そのまま崩れ去りそうになった男を「マスター」と、ウォーフォージドが助けるべく男を抱き止める。

「お? おお、悪いなアマルガム」

 男が立ち上がると、アマルガムと呼ばれたウォーフォージドは一礼して、元の位置に戻った。 

「ラース!」

 その様子を見ていたウルサは、男の名を叫んで、彼に駆け寄り、汚れや臭いを気にすることもなく抱きしめた。ガンナーも立ち上がり、彼の側へ駆け寄った。

「ラース、心配してたのよ。よく無事で……」
「イッヒッヒ、そう簡単に死にやしねえよ。アマルガムやイングラムがついてっからよ」

 なあ、そうだろう? と、ラースと呼ばれた男は、酒に焼けたダミ声で、ウルサにではなく、ウォーフォージド達に微笑みかける。男の信頼に、ウォーフォージド達は、己が背中に預けてあった、巨大な戦斧をはずして両手に持つと、握りこんだ柄を胸の高さまで掲げ、捧げ斧の答礼をし、再び背中へ戻した。

「ああ、そうとも。簡単に死ぬもんかい……カヤの仇をとるまではな」

 酒精に濁っていると思われた目は、復讐の輝きに満ちている。

 ウルサは、カヤの名を聞いて、胸に短剣を突き立てられた様な痛みを覚えた。同時に、想い人が復讐の為とはいえ、生きる気力を持っている事に安堵し、カヤではなく自分が彼の側に要られることを喜び、そして、そんな自分の心の動きを嫌悪した。

 カヤ・バウダッター。シグモンドらバウアーソン家の親戚で、ウルサの親友であると同時に、ラースの恋人だった女性だが、3ケ月前のサファグンによる襲撃で亡くなっていた。ラース自体は、戦争終結後、補修部品の工場長としての任を解かれ、失職し、失意に満ちた酒浸りの生活を送っていたが、彼を懸命に支えて社会復帰を促していたのがカヤだった。

「シグモンドのヤサで雁首揃えて作戦会議か? 俺にも一口噛ませろや、な?」
「師匠、その前に酒を抜いてくれ。酒が入ると狙える物も狙えな」

 ガンナーは最後までいうことが出来なかった。いつの間に抜き放ったのか、目の前には、リピーティング・クロスボウの鏃が室内に灯されている永光灯エヴァー・ブライト・ランタンの光を受けて鈍く光っている。さらにガンナーの脇腹にある感触は、おそらく、ラースの左腕に装着された小口径秘術砲ルーン・アームだろう。視線をおろせば、惑星エベロンを取り巻く13個の月のように、彼を左腕を秘術を刻まれた竜水晶が3つ、等間隔で軌道に乗って周回しているはずだ。

 老いたりとはいえ、恐るべき早業にガンナーは二の句を失った。

「俺に口を出そうなんざ10年早ぇんだ。黙ってろ小僧」

 ルイズの絹を裂くような悲鳴が聞こえてきたのは、まさにこの時だった。

 階下にいた人間は、手元の武器を引き寄せ、抜きかけたが、才人のバカ笑いと「お姉ちゃん、大丈夫!?」とアイーダの声に武器を下ろした。

 やがて、二人の言い争う声が次第に大きくなり、粗末な木綿の上下と、毛皮の腹巻を纏った才人が「ゴメン、マジゴメン!」と大声で謝りながら、走ってきた。その後を眦と口を吊り上げ、美しいかんばせを地下世界カイバーの悪魔のように歪めたルイズが、杖を持って追ってくる。

 性悪なコボルドと戦ったことのある冒険者なら、一度は耳にする言葉がルイズの口から飛び出した。

『die! soon,soon!』
  
 杖が振り下ろされる、ほんの一瞬前に、才人がラースの『焼く前のピザ』に足をとられてすっ転んだのは、僥倖としかいいようがなかった。

 ルイズが狙いを定めていた目標が突如消え失せ、視線の先にあったのは、巨大なネズミと蜘蛛が這いまわるせいで放置された、物置小屋だった。

 怒りに我を忘れていたルイズは、呪文の威力を最大限に発揮させていた。

 結果、物置小屋は飛行艇の空爆を受けたかのように吹き飛ばされ、中に居ただろう、ネズミも蜘蛛も何もかもが炸裂し、小屋の板切れの木っ端と共に爆散した。

 あまりの威力に、その場に居た全員が顔を青ざめさせる中、ただひとり、ラースだけが、哄笑していた。

「素晴らしい! これで何もかも精算できるぞ! 奴らを吹きとばせ、一人残らず吹きとばせ、ハッハッハ!」

 その目は復讐を完遂できる喜びに満ちていた。







目次

コメントの投稿

非公開コメント

1031のつぶやき
ギルド・本棚・DLO目次・蒸気
rds1031村
リンク
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。