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断章 ダーク・ランタン

 夜半もすぎて、火の入っていないランタンを手に持ったシグモンドは、目的の部屋を訪れた。

 

 コンコンと、ドアを叩いて「宿屋の者だが、火はいるかね?」と扉越しに問うた。返ってきた答えは当然ながら「ランタンの火は消しておいてくれ」というものだった。

 ドアを開け、ジクモンドが部屋に入ると、ウルビアンは鎧を脱ぐことなく、ベッドの傍らにある粗末な木製の椅子に座って、シグモンドの来訪を待っていた。

 部屋には明かり一つ無い。

 シグモンドもウルビアンも、元来の職業柄ゆえに夜目がきくので、明かりがなくとも、さほど困らない。

「あー、自己紹介がいるかい?」

 どこか、困惑した表情で軽口を叩くシグモンドに、ウルビアンはむっつりとした表情で答えた。

「いらん。報告のみ聞こう」
 
 その答えにシグモンドはため息をついた。

 このエルフがこういう性格なのか、それとも、ブレランド王室情報部ダーク・ランタンがこうなのか。

 通常エルフといえば、フィアラン氏族か、大戦中にフィアラン氏族から分裂したチュラーニ氏族、エアレナル諸島、エアレナルから進出しコーヴェア大陸南東部に建国されたヴァラナーのどれかに所属するものだとシグモンドは思っていた。

 だがこのエルフ青年は違う。ブレランド王国に忠誠を誓っている。ボラネル王の名のもとに正義を執行する巨大組織キングス・シターデルの情報部門に属しているのだ。

 このエルフ青年がブレランド王室へ忠誠を抱くに至った物語を、いつか聞いてみたいものだ……。


 シグモンドはこの3ケ月の顛末を語り、ウルビアンの質問を答えることで、何故彼が派遣されたかを深く理解した。

 最終戦争が終わって、数年が経ち、コーヴェア大陸の五つ国は今、復興景気に沸いている。

 南方大陸であるゼンドリックから産出される竜水晶ドラゴンシャードや、かつてゼンドリックを支配した巨人族のお宝を求めて冒険者が絶えず乗り込み、一山当てた連中が、お宝を持ち帰るなり、お宝を換金して派手に使うことで、景気はさらに加速している。

 その好景気のおこぼれに与ろうと、戦争中はなりを潜めていた海賊たちがサンダー海へ戻ってきた。

 コーヴェアとゼンドリックを結ぶスマグラーレスト航路は、海賊たちが溢れ(その中で飛び抜けて暴れていたのが血潮団である)、代替としてコルソス航路を使うことになった。

 ところがそのコルソス航路さえも白竜の襲撃で潰されようとしている。

 新しい航路はそう簡単に見つからない。

 せっかくの好景気を潰されては国が立ち行かなくなってしまう。

 ダーク・ランタンが動くのも無理はなかった。
 
 ウルビアンは血潮団に関する情報を集め、それを対処するべくゼンドリックの植民都市ストームリーチに向かう途中で白竜に襲われたのだった。全ての船が沈んでいるために、コーヴェアには詳しい情報がほとんど行ってないとはずだと、報告を全て聴き終えたウルビアンは、表情を変えることなく語った。

「こちらからも情報がある。悪い報告と悪い報告だ。どっちを聞きたい?」

 そのセリフにシグモンドは絶句した。

 それは彼なりのジョークなのか?
 
「……普通、そこは良い報告と悪い報告の2つじゃねえんですかい?」
「良い報告なんてものは情報部には存在しない。たいていは憶測と希望の混じった誤報だ」

 疲れた表情に嫌悪感を浮かべて、ウルビアンは吐き捨てた。

「シグモンド、シヴィス氏族の竜紋所持者に救助の伝言を頼んだと言ったな?」
「ああ」

 シヴィス氏族は刻印の竜紋を持つ一族で、スピーキング・ストーンと呼ばれる魔法の石を使い世界中の情報伝達を担っている一族だ。

「相手は誰だ?」
三樽江島スリー・バレル・コーヴのラッカム」

 コルソスから約450マイル(720キロ)程西へ行ったところにある三樽江島スリー・バレル・コーヴは海賊たちの根拠地といっていい。嵐の竜紋を持ち、天候を操れるがゆえに海運業を担っているリランダー氏族とは敵対したり、護衛したりと、その関係が海の天候のように、その時々によって忙しく変わる。

海賊養成所ラッカム・トライアルのか?」
「奴に貸しがあるからだが……まさか」
 
 シグモンドの顔が一気に蒼白になった。だが、ウルビアンは即座に彼の懸念を否定した。

「そこが落ちたという情報はない。陥落したのはブラックロッホ砦だ。血潮団の連中にな。それだけじゃないぞ、血潮団の根城であるミストラル島要塞攻略だが失敗した。ハウス・デニスの連中は全滅、ハウス・オリエンの連中だけが命からがらストームリーチに逃げ込んだそうだ」

 その話を聞いてシグモンドは、話の不可解さに顔をしかめた。

 最終戦争では多くの人材が死んだために、このご時世、腕利きと呼ばれような人材は貴重だ。ハウス・デニスの軍を追っ払えるほどの人材の集まりなどいったいどうやって集めたのか?

「……そんなに強いだなんて、そこいらのチンピラじゃねえな。どこかの国の兵隊崩れ? あるいは正規兵を使った私掠船か?」
「いや、血潮団の構成員はドラウの弓兵と秘術師、ホブゴブリンにコボルド、オークのクレリック、それから知性を持った死人共らしい」
「……なんだその組み合わせ? そんな連中聞いたこともねえ」

 シグモンドは組み合わせの珍妙さに驚いた。まともな人族がほとんどいないではないか。

「推測だが、ほとんどはゼンドリックからの現地調達。死人共はカルナスからの落人だろう。今や北方は銀炎教がそれこそ、破竹の勢いだからな。……血潮団関連はおそらくハウス・タラシュクが絡んでいる」

 ウルビアンは、推測の中身をより詳しく述べた。 

 ゼンドリック大陸の植民都市ストームリーチは、元は海賊たちが作り上げた街であり、ストームリーチを開拓した海賊たちの子孫達がコイン・ロードとして街を統治している。そして、各竜紋氏族達はコインロード達に許可を得て、居留地を借りることで、権勢を広げている。

 だが、ハウス・タラシュクはストームリーチに居留地を得ていない。

 その理由として、傭兵業がハウス・デニスと重なっている事と、人間で構成されているハウス・デニスが種族差別的なロビー活動をストームリーチで行っているからだ。 

 ハウス・タラシュクはハーフ・オークを主とする一族である。

 ゼンドリックに住まうオークの諸部族達から積荷を奪われてきた商人たちにはそのロビー活動はさぞ効果的だったことだろう。しかしタラシュクは、ハーフオークであるが故に、ただの人間よりも、ゼンドリックに住まう人型生物の諸部族には話が通りやすいという利点も存在する。

 それら部族を訪ね、積荷を襲わないよう金品で交渉することもできるし、部族の戦士を現地採用し、傭兵業としてハウス・デニスよりも使える人材が揃っていると、私掠船戦術という実益を兼ねたデモンストレーションを行っているのではないか?

 それがウルビアンの推測であった。
   
「お前の所にもタラシュクとチュラーニの若造共が来てるだろう?」
「あ、ああ……たしかタラシュクが積荷をチュラーニの船長に頼んだって話だったな」
「奴らから決して目を離すな。奴らに関する情報は全て私の所に持って来い」
「いや、それはいいけどよ。こっちの問題はどうするんだよ?」

 不満気にシグモンドは問うた。スマグラーレスト航路より、目の前の問題がより切実である。

「ジーツとか言ったか? あいつらくらいの腕ならなんとかなりそうだな」
「人任せかよ……」

 不満気に顔を歪めるシグモンドに、エルフの青年は鋭い視線を向けた。

「不満か?」
「ああ、不満だね。こちとら命がかかってら。俺だけじゃなく、家族、村人、客も含めてな」
「言っておくがな、小僧。前につるんでたお友達と一緒に、宿泊客から情報を聞きだして、船ごと頂いていた事はすでに調べてある。中にはブレランド王室に少なからぬ損害も与えていた事例もあった。それを見逃してやっているのは何故か、もう、言わなくてもわかるな?」

 ウルビアンの指摘に、シグモンドは、うっ、と二の句を噤まづるを得なかった。

 妻のイングリットと出会い、子供ができてからは、堅気になろうと誓い、それからまっとうに生きていても、過去は消すことはできないのだ。

 改めて、そう思わせられた。

「お前に利用価値がある間は見逃してやる。過去に出した損害分、王室に奉仕しろ」
「……わかったよ」


 シグモンドが部屋から退出すると、ウルビアンはいつもの作業にとりかかった。

 ベッド上に人が寝ているように毛布で上手に偽装し、部屋の隅にあるクローゼットを前に引き出して、自分が壁に寄りかかれるだけの空間を創りだし、棍棒を抱いて、精神を解き放った。

 エルフに睡眠は必要ない。だが脳と体を休め、心と体の調子を整える作業には数時間を要する。


 自分に与えられた任務と、その遂行にあたって、かつてない障害が目の前にそびえ立っている。

 だがそれは、彼にとって『いつもの事』なのだった。







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