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コルソス島奇譚 囚人6号

 激しく痙攣していたサファグンは、やがて静かになり、完全に動かなくなった。ドス黒い血がゆっくりと地面に浸透してゆく。
 重戦棍を振るって血を払い飛ばしたセリマスは、安堵の溜息を付いた。よもや、目の前の少年がいきなり武器を放り捨て、土下座をかますとは思わなかった。運良く、敵の初撃を交わせたから良いものの、通常ならその場で人生が終わっていただろう。

「サイト、大丈夫!?」

 セリマスは才人の様子を伺った。

 才人は顔を青ざめさせて、立ちすくんでいた。体を瘧の様に震わせている。

「おい、サイトしっかりしろや」

 ジーツが才人の体をトンと小突くと、「え? あ?」と、ようやくその魂を現世に戻らせた。

 ジーツは背負い袋から、サイトから進呈された酒瓶を取り出し、「一息付け」とムリヤリ、才人の口に流し込んだ。無理やり押し込まれた液体を飲みきれず、たまらず才人は、むせてmacallanを吐き出した。

「ちょ、ジーツさん! いきなり何するんだよ!」
「しっかりしろ。ここでヘタレると全員の命に関わるんだよ。気合いれろボケ」

 ジーツは才人の尻を軽く蹴飛ばした。

「お前、ホントにお坊ちゃんなんだな? 死体見るのはじめてか?」

 恐怖を除去する呪文のせいで恐怖は覚えていないが、自分が殺されそうになった事や、セリマスが躊躇なく命を奪い取ったことに才人は衝撃を覚えていた。正直な話、胸と胃のむつかきが酷い。この場で吐きたいぐらいである。

「死体どころか、その、ジーツさんやセリマスさんには悪いけど、誰かが暴力を振るう所を見るのも初めてだよ……」

 できるだけサファグンの死体を見ないようにしながら、か細い声で、才人は答えた。

 セリマスは才人の答えにひどく驚いた。いくらお坊っちゃんと言えどそんな事がありうるのか?

「え、うそでしょう? 貴方、最終戦争の時どこにいたのよ?」
「あー、セリマス、それなんだが……サイト、別の次元の住人だから」

 事もなげに言うジーツに「はあ!? ジーツ、貴方またいい加減な事言って」とセリマスは噛み付いた。

「いや、マジなんだって!」
「二人ともその辺にしよう。ここを突破せねば」

 口論になりかけた二人をタルブロンが制した。

「お嬢様、そこらへんの詳しい話はあとで私から報告します」
「わかりました。先をいそぎましょう。その前に……タルブロン、サイトに達人の手腕マスターズ・タッチの呪文をかけた方がいいわ」

 セリマスの意見にタルブロンは同意し、才人の手をとって呪文を唱えた。

 才人の脳裏に、自分が手にとっている棍棒をどういう風に扱えばいいのか、情報が流れこんでくる。

「サイト君、棍棒を振ってみたまえ。今の君なら、どう扱えばいいのかわかるはずだ」

 タルブロンに促され、野球で振るバットの様にではなく、自分に危害を加えようとする何者かの攻撃を交わし、逆に相手の急所に一撃を加えるという、言わばシャドーボクシングの要領で、才人は棍棒を振るった。

 呪文の加護を得て、軽々と棍棒を振り回す才人を見たジーツは、才人がどのような想定で武器を振るっているのかをはっきりと理解した。静かに右足を一歩踏み出し、左腰の小剣を右手で抜くと、才人に素早く、下から上へと切り上げた。

 才人はすかさず反応し、棍棒でそれを受け止め、体格差を活かしてジーツの態勢を崩そうと、左肩を前面に押し出しタックルをしかける。剣を振り抜いた態勢にあるジーツは、己の左手を右腰の小剣にのばしつつ、才人のタックルを交わした。左手の小剣を抜くよりも速く、才人のタックルが迫ってきたために、早抜きクイック・ドロウの技法を習得しているジーツと言えど、腹に突き刺すには、僅かに間に合わない。

 ジーツは、タックルをかわしてがら空きになった、無防備な背中に左手の小剣を突き出した。

 背中に危険を感じた才人は勢い良く前転し、その攻撃を避け、棍棒を構えて立ち上がる。

 歴戦の古強者……と、まではいかないが、自分の身を守るだけなら、その動きは十分合格点といえた。

「ま、こんなもんか」

 ジーツは鞘に剣を戻して言った。

「才人、これから敵中を突破するわけだが、自分から突っ込むなよ? 自分に向かって来た奴だけ相手しろ。相手が複数で来たときは俺たちの所に敵を連れてこい。いいな?」

 才人は真剣な表情で頷いた。


 †


 いつしか不気味な詠唱は止んでいた。

 その事にベテラン冒険者三人は気づき、歩をより慎重に進めてゆく。道中の壁には、蛇のレリーフが刻まれた飾り棚があり、その脇には松明が、奥へ、奥へと誘うように辺り照らしている。

 歩を進めた先々に、サファグンの言葉であろう、何がしかの落書きが、朱色の染料で描かれているが、誰にもそれは読めなかった。タルブロンによると、サフアグン達は自分達とは見える色が若干違うのだという。彼らにとって朱色は何らかの意味を持つ色なのだろう。それが宗教的な意味なのか、それとも単に実用的な物なのかまではわからなかった。

 曲がりくねった洞窟の先は、またしても、レバーのある円形の扉だった。

 誰かが扉の内側で会話しているのに気づいたのは、ジーツだった。独特の音階を持った舌打ちを2度すると、二人は合図に気づいたのか、動きをとめ、静かになった。

 才人も二人を真似て大人しく、一切の音をださないように細心の注意を払う。

 ジーツは、扉に近づき、耳を当て、内部の会話を真剣に聞き取った。会話の端々に、ちゃぷちゃぷと水の音が聞こえるところから、海水が流れ込んでいるのかもしれない。


 ーここは何処だ?

 ーコルソス村だ。

 ー何が欲しい? 金か? それとも俺の命か?

 ー私がほしいのは情報だ。脳に刺激を与える情報だ。私は、な。

 ー助けてくれ! 私はまだ死にたくない! こいつらはどうなってもいいから私だけは助けてくれ!

 ーバカヤロウ! お前はどっちの味方だ!? エラ野郎に屈するのか!

 ーいずれ判る。さぁお前の秘密を吐くんだ。情報だ、情報だ。

 ー喋るものか!

 ーどんな手段を講じてでも喋らせてやる。いや、喋らせてくださいと頼み込むようになるだろう。

 ーお前は誰だ。名前を言え!

 ー私は新しいNo.2だ。

 ーNo.1は誰だ?

 ーお前は生簀の囚人6号だ。

 ー番号なんかで呼ぶな!私は自由な人間だ!

  
「……ヤバイな、そろそろ踏み込まないと見せしめに誰か殺られそうだ」

 眉を寄せ、そう呟くジーツに、セリマスは敵の数と捕まっている人の数は? と聞き返した。

「囚人の数は最低でも6人。敵は最低12匹以上、アホだったら6匹以下」
「アホだったらいいわねえ……」

 そのほうが楽でいいわ、とセリマスはこぼした。

 連日の戦いのせいか表情は疲れており、重戦棍を肩叩き代わりに使っている。

「手順を確認するわ、私が3匹、ジーツは短時間なら4匹はいけるわね?」
「ああ、タルブロンは催眠ヒュプノティズム蜘蛛の巣ウェブの呪文で、できるだけ足止めしてくれ」
「心得た。サイト君はここのレバーを引いてくれ。そうして我々が突撃して、5秒たったら来てくれ。できれば戦闘には加わらず、敵にとらわれている人達をどうにか救出してほしい。敵が来たら、ジーツの方に引き寄せてくれ」
「OK、無理はしないよ」

 才人は棍棒を掲げた。先程とは違って、強い意志と目の輝きを見たセリマスは「大丈夫そうね」と安堵した。

「タルブンロン、透明化インビジビリティを」
「心得た。その後に加速ヘイストの呪文だな?」
「いつもどおりに、な」

 ニヤリとジーツが笑う。タルブロンは幻術に特化したアークメイジである。極めて低コストの精神力で透明化の呪文をかけることができる。タルブロンは自分を含めた3人に呪文をかけた。才人にはまだ、かけない。移動、呪文の詠唱、会話以外の行動をすると呪文がとけてしまうからだ。

 タルブロンが指先を複雑に動かしながら、万歳をするように腕を動かすと、自分の体に未知の力が侵入しくるのを才人は知覚した。何気ない、ちょっとした動きでもいつもの倍以上に素早く動かせる。

「レバーを引け!」

ジーツの鋭い声にレバーを引くと、「吶喊!」とセリマスが吠え、二人は突撃していった。 


 † 


 セリマスの吶喊という怒声よりも速く、扉の内側にするりと入り込んだジーツは、内部の状況を一瞬で見て取った。

そこは、広大な広間だった。右側には海賊たちが掘ったであろう飾り棚と松明をいれる穴がぽつんとあり、広間の左側には、さらに奥へ続く円形扉がある。レバーの代わりに扉の中央には大きな鍵穴がついている。
 
 広間の奥には、洞窟入口にあったような岩棚が設けられ、その高さは跳躍ジャンプの呪文の加護を得ても手に届かない高さにあり、敵襲を味方知らせることができるように、釣鐘が設置されていた。

 敵も期待したほどアホではないらしく、釣鐘の付近には、3匹のサファグン達がいた。

 岩棚の下、広間の地べたには、格子状の蓋を被せた生簀が6つあり、その格子に必死に齧りついて呼吸をしている囚人いる。そこまで海水が来ているのだろう。そして、当然の事ながら、生簀には、それぞれ1匹ずつ、サファグン達が石槍を手にし、海面から必死に口をだして、空気を取り込んでいる哀れな囚人達を、ある者は指さして笑い、ある者は啄いて遊んでいる。

 左から3つ目、広間中央にある生簀には、白いローブを纏った、白髪の初老の男が立っていた。透明化の呪文でジーツがみえていないので、視線はそちらを見ていない。

「敵しゅ」 

 初老の男は、敵襲と最後まで言う事は、叶わなかった。

 ジーツが突風の様に、男の懐に飛び込み、小剣を喉笛に叩き込み、同時に男の腹を蹴り飛ばす。男は吹出す血を止めようと、喉笛を押さえ込みながらバタバタともがいたが、やがて動かなくなった。その早業に生簀のサファグン達は唖然としていたが、魔法が解けて、姿が露見したジーツに気づくと唸りをあげて、襲いかかった。

 熟練のローグは、強化直感回避インプルーヴド・アンキャニー・ダッジと呼ばれる技能を習得している。もちろんジーツもだ。ジーツは、自分を四方八方取り囲んだ、荒波と水圧に耐える筋骨隆々の半魚人を、一度に6匹も相手にしながら、なお不敵に微笑んでいた。

 前後左右から繰り出された6本の石槍を、横っ飛びに跳んで交わし、ハーフリングの小さい体格を活かして、右に陣取っていたサファグンの股下へ転がり込む。

 岩棚にいた3匹が、鐘をならそうとして、極度の粘性を持つ蜘蛛の巣に阻まれたのを、ジーツは転がりタンブルしながら視界の端に捉えた。

 自分の相棒はいつだって最高だな!

 転がりこんだ先のサファグンの太腿へ斬りつけて、ジーツは包囲を脱出した。大量出血という置き土産で、敵戦力を削る。足を斬りつけられたサファグンは、己の血の海で溺れのたうちまわった。それを見たサファグン達はわずかに動揺した。

 その一瞬の隙を、セリマスは逃さなかった。

「銀炎よ、守り給えかし!」

 ジーツを包囲し、背後から槍を突き出したサファグンは、セリマスに無防備な後頭部を晒していた。セリマスの重戦棍が襲いかかり、これを粉砕。血の華を散らして、そのサファグンは倒れ伏す。これで2匹。

 ジーツとセリマスは残り2匹ずつを相手にすればいい。

「また不意打ちかよ。正々堂々と相手にするのが信条じゃなかったのか?」
「敵に隙を見せるほうが悪いのよ」

 最終戦争を戦い抜いた、歴戦のローグとクレリックは互いに軽口を叩きながら、残りのサファグンを相手取る。

 カルナス戦線の、生前の知性を保持したアンデッドによる特殊部隊と違って、不意打ちも効くし、血を流して死んでくれる。

 なんとありがたい敵であることか!

 隣り合ったジーツとセリマスは、互いの得物をチンと軽く打ち鳴らすと、猛然と目の前の敵に襲いかかった。

 
 †


 タルブロンの言いつけ通り、5秒遅れて扉の内部に入った才人は、戦闘しているセリマスとジーツから、最も離れた生簀に小走りで近寄った。

 生簀には、海水の冷たさにより、顔を青ざめさせたエルフの男性が、格子に必死にかじりついている。彼はどうにかその格子を持ち上げようとしているが、冷え切って、弱っている彼の筋力では開けることができないらしい。

 いや、よく見ると、大きな南京錠の様な鍵がついている。鍵は、生簀の地下から溢れる海水で至る所に錆が浮いており、棍棒で何度か殴りつければ簡単に破壊できそうだ。

 才人は棍棒でそれを殴りつけ破壊した。魔法が解け、姿を現した才人を見た囚人たちは「オレも助けてくれ!」「ここからだしてくれ!」と騒ぎ始めた。

「助けるから!  静かにして! あんまり騒ぐと他の敵が来ちゃうから!」

 囚人たちに注意を促し、次々と鍵を破壊して格子を持ち上げた。魔法で筋力を増強している才人は簡単に持ち上げることができた。

 大半の囚人たちは自力で這いでてきたが、エルフの男性だけが出てこない。才人は再び彼に近寄って「大丈夫ですか?」と手を差し出し、陸へ引きずりあげた。弱ったエルフは「ありがとう」と一言述べ、地ベタに座り込んだ。短く刈り込んだ金髪だけでなく、彼の着ている革鎧からも、しとどに海水が垂れていた。

「私の名はウルビアン。助かったよ」
「才人です。俺もあそこで戦っている人たちに助けられたんです。困ったときはお互い様ですよ」

 和やかに自己紹介をしていると、ある囚人が別の囚人に掴みかかり、思い切り殴った。

 才人は慌てて間に入り、殴った男を引き剥がそうとした。しかし男は怒り狂って、手がつけられない。あげく、呪文の加護が終了したせいで余計に手間どった。結局、ウルビアンも間に入って、どうにか場は収まった。

 殴られた男は「殺されるのが怖かったんだ。許してくれ、許してくれ」と泣きじゃくり、鼻血と涙で顔をぐしゃぐしゃにして謝り続けた。

 才人が詳しく両者に話を聞くと、殴られた男、ジャコビー・ドレクセルハンドは、恐怖のあまり、他の連中はどうなってもいいから、オレだけは助けてくれと叫んでしまったらしい。それが他の生存者の怒りを買ったのだという。しかも彼はコルソス島の網元の息子であり、よりにもよって得意先の担当者を、己の命の代償に差し出したのだった。

「それは流石に……」

 弁護できないと、才人は続けられなかった。

 自分の身に置き換えて考えて見れば、同じようなことを叫ばないとは断言できなかった。そのうえ、才人には、両者を黙らせる力もない。

 ただ、語尾を濁すほかなかった。

「お前ら、何揉めてんだ?」

 そうこうする内に戦闘はすべて終了し、ジーツ達が戻ってきた。

 話を聞いたジーツはアホらしいと、すべてを無視して、さらに奥への扉に近づいてゆく。

「え? あの、仲裁しないの?」

 才人が驚いて聞くと「金もらってないのに?」と逆に聞き返された。才人が唖然としていると、ジーツは殴った男、ダクス・ブーンと名乗る交易商人に向かって言った。

「まあ、ジャコビーを殺りたいならいうなら、殺れば?」
「ちょ、ジーツさん、それは!」

 才人を遮ってジーツは続けた。

「それが敵の狙いだと思うけどね」

 その意見にはセリマスも同意した。

「……そうね、ただ、殺るなら私の目の届かないところで殺ってちょうだい。目の前でやられたら、ガリファー法典を破った現行犯として逮捕しないといけないもの」

 ちなみに銀炎教団では、コルソスはストームリーチ管区なのでソウルゲート砦に収監されるわよと、セリマスはダクスに向かって咲き誇る華のような笑顔でのたまった。

 返り血を浴び、それを拭おうともしない美女の微笑みは凄絶にすぎた。

「コルソス村の現有戦力はいいとこ、50人だ。我々が調査したところ、敵兵力は白竜抜きで700を越えている。これ以上の戦力低下は避けたいところだな」

 タルブロンの言葉にダクスはついに折れた。

「とりあえず、ここから出よう。そこから先は話しあおうじゃないか、なあ、ジャコビー」
「……はい、すみませんでした……」

 袖で鼻血を拭いながら、ジャコビーはダクスに謝罪した。

「話はついたか?」

 ジーツは鍵穴を盗賊道具で扉の鍵穴をいじりながら聞いた。

「待ってろ。もうちょいで開くから……っとホラ開いた」

 巨大な鍵穴から手を抜き出すと同時に扉が壁へ収納されてゆく。

 そこにいたのは、十二匹のサファグン達だった。

 ジーツは気色ばんで叫んだ

「逃げろ!」

 その叫びもむなしく、サファグンの一匹の指先から2条の紫光がふわりと、飛んできて、ダクスの背中を貫いた。

 ダクスは自身を襲った激しい苦痛に血を吐き、絶命した。







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