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コルソス島奇譚 浜辺にて

 ジーツ・シミスは冒険とお宝と女をこなよく愛するローグである。
 そんな彼が、最終戦争末期からつるんでいる仲間達、ウィザードのタルブロン・テウンとクレリックのセリマス・ヴィルンと共にコルソス島に来たのは、セリマスの父親が原因だった。

 数年前、彼は娘可愛さのあまり、腕利きの冒険者だったジーツに護衛を依頼したのである。

 ジーツはその依頼に面食らい、依頼人の正気を疑った。自分はローグだ。あくまで古代遺跡の罠を解除したりするのが仕事であって、護衛の仕事はファイター等の前衛に依頼するべきだと突っぱねた。

 だが、依頼人は首を振り、どうしても受けてほしいと、話を続けた。

 娘が冒険に出たがっている。1回行けば納得するだろうから、どこか適当なところに連れてってくれ。危険な罠でヒヤッとすれば、怖がって冒険になんか行かないと言い出すだろう……。

 依頼人の庭先でちらりと見かけた、あの負けん気の強そうなお嬢さんが、そんな事でへこたれるか甚だ疑問であったが、テーブルに乗せられた金貨の輝きを見て、ジーツは依頼を了承した。

 そして、自分がかつて冒険したことのある遺跡にいき、自分で罠を再設置して、セリマスの度肝を抜くような派手なドッキリに成功した。

 だが、自作自演は完璧に過ぎた。

 彼女はジーツの読み通り、負けん気を発揮し、むしろのめり込んでしまったのである。


 以来、腐れ縁とはよくいったもので、その後、最終戦争でカルナス戦線を、駆けづり廻るはめになった。

 敬虔な《銀炎》シルヴァー・フレイム教徒であったセリマスは、数々の戦闘で自分の実力を遺憾なく発揮して、頭角を表し、自分の部隊を預かるまでになった。そしてカルナス国のアンデッドによる特殊部隊と正面から殴り合い、ジーツは彼女の従者であったタルブロンと共に、《透明化》インビジビリティの魔法で、敵陣に近づき、生きている高級将校を暗殺するという戦法で、セリマス部隊を補助し、おびただしい戦果を上げた。

 無論、正々堂々を旨とするセリマスが、暗殺なんて手段を容認するわけがない。

 ジーツのいい加減な報告に、彼女は苦虫を噛み潰した顔をしていたが、最終的には容認した。仲間との信頼関係に罅をいれたくなかったのか、大事の前の小事と考え直したか、おそらくは両方であろう。

 ジーツは従軍中も、彼女の父親から給料を支払われた。

 彼は管区長であるから実入りがいいのは当然だった。


 †

 
 ……やがて、戦争が終わりスローンホールド条約が結ばれた。

 しばらくの間は、戦後処理に忙しく、特に問題も起きなかったが、銀炎教会も一枚岩ではない。生臭い人間は山ほどいる。戦果をあげ、経験を積み、位階もあげたセリマスは、生まれ育った故郷スレイン国の首都フレイム・キープではちょっとした有名人だった。それを妬んだ者たちの手によって、生きている英雄はいらないとばかりに、ゼンドリック大陸は植民都市ストームリーチの一角にある、ソウルゲート砦に、体よく左遷されることになった。

 そこは修行時代に、姉妹の契を交わした部屋子、マルガリータ・ドライデンとその父が治める場所である。セリマスは昔を懐かしみ、命令を左遷とは思わず、神託が下ったと、自分が倒すべき《悪》を求めてゼンドリックへ旅だったのだった。

 もちろん、彼女のお守りであるジーツ達もである。

 幼少よりセリマスの従者であった、《戦闘機械》ウォーフォージドタルブロンは、従軍の経験により、幻術のアークメイジとなるほど成長した。またスローンホールド条約により、個としての自由と、主セリマスよりテウンの姓を戴き、気のおけない仲間となったジーツと共に、冒険者としての新たな人生を楽しむつもりだった。

 かつてゼンドリックに栄えた巨人魔法文明の残滓が、ウィザードとしての自分を、より高い位階へ導いてくれるのではないか?

そうあれかしと、センドリック行きに志願した。


 ジーツはより単純だった。

 まだ見たことのない世界、

 まだ見たことないの大量の金銀財宝、

 まだ触ったことのないお姉ちゃん達のおっぱい!

 ついでに、うまい酒があればよかった。一度は故郷のタレンタ平原に顔を出す事も考えたが、同族の女たちはちっパイしかいないから帰っても楽しくない、という結論に達し、ゼンドリック行きに了承した。

 いつもの月給に加えて、さらなる危険手当を当然のようにセリマスの父親に要求したのだった。

 
 スレインからライトニングレールに乗り、一路ブレランド国へ。

 コーヴェア大陸最大の都市シャーンから船に乗り、サンダー海を超え、中継地点コルソス島に降り立ったところで事件が起きた。

 目撃者の話によれば、のんびりと空を飛んでいた白竜が、空中で雷に打たれたかのように身悶えした後、突然、海上の船を手当たり次第に攻撃し、尽くを海中に沈めた。その後、白竜は翼をふるって、空中に静止し、何がしかの呪文を唱えたという。

 それからというもの、コルソス島の周辺海域は常に曇天に覆われ、赤道至近であったのに、雪が降り、南国の色彩あふれる植生は寒さによって枯れ始め、付近の海上は氷に、空は白竜に閉ざされた。

 時を同じくして、海中からは《半魚人》サファグン達が、村を襲撃し始めた。

 半月に一度、海中と地上の物産を物々交換するという、穏やかで良好な関係を築いていたにもかかわらず。

 問答無用の襲撃だった。

 どうにか撃退し、村の門にバリケードを築きあげ、いつでも襲撃に対応できるような警戒網を作り上げると、今度は、村人やコルソスに寄港している船員及び客まで行方不明になる事件が続発した。

 不運な行方不明者達は、半魚人達に喰いつくされた動かぬ死体、あるいは、邪悪な儀式によって生きる死体、すなわちゾンビとして、門の外を彷徨している所を発見された。

 運良く生きて発見された場合、《海神》ディヴァウラーを讃えよと洗脳されていて、帰依を拒否すると襲いかかる有様だった。

 門のバリケードはより強固になり、門を出ることは、有力な冒険者以外は禁じられた。


 セリマスは連日、門を抜け、海神を祀る祭壇を見つけては破壊し、ジーツは暇さえあれば、浜辺に到着する品物を懐に収めたり、死体を丁重に葬ったり、生存者であれば、村まで届ける事にしていた。

 これが、この3ケ月の顛末だった。様々な物事に楽しみを見出すジーツも、この状況には流石にうんざりしていた。

 そんな矢先の事である。

 目のいいジーツは、浜辺に倒れている身なりの良い少年を見つけた。

 こりゃ運が向いてきたぞ。遺品を届けりゃ金になる。生きて親元に届けりゃもっと金になる。

 ジーツは踊りだしたい気分で少年の元へ向かった。


 †


 潮騒が聞こえる。


 寄せては帰り、帰っては寄せ、静かになり、時には轟音となり、幾許か逡巡した後、ああ、波の音だったのかと、才人はぼんやりと考えた。

 才人は浜辺でうつ伏せに倒れていた。

口の中にまで砂が入り込み、ジーンズは波をかぶり、冷たく、重い。

 そうだ! ノートPC!

せっかく修理から帰ってきたのに、濡れたらヤバイと、慌てて起き上がり、母に頼まれたスーパーの袋の中身と、背中のリュックサックが無事なのを確かめたところで、ようやく自分の頭がすっきりしてきた。

 ……ここはどこなんだ?

 そう、確か、女の子がいて、魔法で召喚したと言わなかったか? それで、その子と話していたら、足元がいきなり割れて、青空へ投げ出された……。

 見上げた空は、いつの間にやら、曇天模様になっていて、雪が降り始めていた。辺りを見渡せばここが島なんだということは理解できた。だが、いったい何処の島なのか?


 もし、才人が植物に詳しければ、浜辺の奥に生えているヤシの様な木々を見て、南方に植生する木々だとか、判断できたかもしれない。そして、そのような植物が生えている南方に、何故雪が降っているのかと疑問に思ったかもしれない。だが、頭がすっきりしてきたとはいえ、めまぐるしく環境が変わった才人は、自分の置かれた状況に立ち尽くすほかなかった。

 ただ、冷たく湿ったジーンズのみが、これが現実だと伝えていた。

「お~い、アンタ、アンデッドじゃねえよな?」

 遠くから聞こえてきた日本語に驚いて、辺りを見渡すと、浜辺の奥のほうに小さな人影が見えた。こちらに手を降っている。よかった。どうやらここは日本らしい。

 才人は人影に向かって歩き出した。

 自称、魔法使いのルイ何とかさんは、自分を元の世界に送り返し……いや、ちょっと待てよと、たった今自分にかけられた言葉を考えた。

 さっき自分にむけて言った言葉はおかしくなかったか? 

 大丈夫か、なら普通だ。

 アンデッドじゃねえよな? 

ってフツーは言わない。

「よう、アンタ、生きててよかったな」

 たどり着いた才人に、そう語りかけた男はやたら背が低かった。才人の半分程度でしかない。寒さのせいか、男の肌はやや青白かったが健康的な生気に満ち、黒髪の一部を二つ編みにしてあとは背中に流していた。黒い革鎧をまとい、左肩から右腰へ、革でできた投げナイフ用の弾帯を帯び、腰の両側には小剣が吊るされていた。 

「俺は見ての通りハーフリングだ。名はジーツ、よろしくな、坊っちゃん」

 握手を求めてきた眼鏡のとっちゃん坊やは、にこやかに微笑んだ。


 †


 ジーツの目の前に居る黒髪の坊ちゃんは、非常に良い服を着ていた。シャーンかどっかの金持ちに間違いない。なにしろ髪はサラサラだし、手も苦労したことのないキレイな手をしている。

 嗚呼、《幸運の神》オラドラよ! 感謝します。ついでに《機智の神》トラヴェラーも。

 ジーツは、金蔓を得たこの幸運が、これからも続くよう、《至上の主人達》
ソヴェリン・ホスト
暗黒六帝ダーク・シックス、それぞれの神々に祈ったのだった。

「よく無事だったな。まあ、坊っちゃんの乗ってた船はバラバラになっちまったが、生きてりゃ万歳だ。積荷は諦めるしかねえやな。寒いだろ? もうちょっと奥のほうに火を炊いているからな。そこであったまるとしようぜ」

 有無を言わせず、ジーツは早口でまくしたて、さあさあさあと才人の手荷物を取ろうとした。もちろんいくつかの品を、気づかれないように懐に収めるつもりだ。

「俺、平賀才人っていうんだ。こっちだとサイト・ヒラガになるのかな」

 才人は疑うことなくジーツにスーパーの買い物袋を渡し、陸地へ歩いて行くジーツの後についていった。

「なあ、ジーツさん」
「さん付けはいらないよ、坊っちゃん」
「坊っちゃんは、やめてくれ。聞きたいことあるんだけど?」
「なんだね、サイト坊っちゃん」

 焚き火へ向かって歩きながらジーツは才人に答えた。人を食ったような笑みを浮かべながら。

「ここ、地球じゃないよな?」
「チキュウ? ここはコルソス島さ、コーヴェアとゼンドリックの中間地点だよ」
「神戸と四国の間にある島じゃないんだよな?」
「シコクって何処なんだい? 聞いたこと無いねえ」

 ああ、やっぱり日本じゃないんだなと、一気に才人は落ち込んだ。だいたい、パープリンとかいう種族なんて、日本どころか、地球にいるわけがない。映画『ロード・オブ・ザ・リング』に出てきたホビットみたいなものなんだろう。

 いったいどうしたら家に帰れるのか?

 ……魔法で連れてこられたのだから、魔法に詳しい人に聞けば良いのではないか。

 才人はそう考えた。

「あのさ、俺、この世界の住人じゃないんだわ」
「そうかい、そりゃすげえや! サイト坊っちゃんは《紺碧の空》シラニアの住人かい? その割にゃ羽が見えないね」
「……シラニアってのはよくわからないけど、ジーツさん魔法に詳しい人知らない? その人に俺を故郷に魔法で送り返して欲しいんだ」
 
 その言葉にジーツは動きをとめた。振り返り、才人を見つめるその目には、剣呑と言える程の輝きに満ちている。

「そいつは依頼かい、サイト坊っちゃん?」

 その声は、陽気なハーフリングに似合わない程の低く、ドスが篭っている。

「俺は冒険者だぜ? タダ働きするつもりはないよ。お前さんは今、別の世界から来たって言ったよな。ガリファー金貨は持ってんのか? それとも魔法の品でもくれるってのか?」
「……金貨なんて持ってないよ。でも気にいってくれると思う」
 
 才人はジーツから荷物を取り返すと、ごそごそと袋をあさり、目的の品を取り出した。

「これだよ」

 取り出した品はMacallanとラベルの貼ってあるウィスキーだった。

「『お前にはまだ早い』って親父が絶対のませてくれなかった酒なんだ。ジーツさんにまるごと一本進呈するよ」
 
 だめかな? と、才人はジーツの様子を窺った。

 ジーツはニヤリと笑うと、才人の手からウィスキーをひったくった。

「いいぜ。手付には十分すぎる。腕利きの魔法使いにツナギをとってやるよ」
「助かったよ、ジーツさん」

 それからさ、と、才人はジーツに言った。

「さっきも言ったけどさ、その酒飲んだこと無いんだ。1杯でいいから俺にも飲ませて」


 †


 タルブロンは焚き火に当たりながら、己の魔法書を読んでいた。が、寒風吹きすさぶ中での読書はページが風にめくられ、それを抑えながらだと、覚えるべき呪文がなかなか頭に入ってこない。

 彼は戦闘機械であったが、感情がないわけではない。

 呪文を覚える作業が何度も中断され、苛立ちを覚えていた。いっそ、作業を中断し、ジーツの元へ行くか、今頃、自分の様に苛立っているだろうセリマスの元へむかうべきか、果たしてどっちが作業効率が良いだろうか?

 そう、思案を始めたウォーフォージドの元に、相棒のジーツが黒髪の少年を連れて戻ってきた。

「よう、相棒、お前さんに客を連れてきたぜ」
「客?」

 ミスラル装甲で作られた彼の顔には、表情がまったく表れなかったが、声音は十分に訝しんでいた。こんな辺境で、自分に用のある客とはなんだろうか?

「相棒、こいつサイトっていうんだけどさ、この惑星エベロンを取り巻く13の次元界じゃねえ、別のとこから来たんだってよ。それで、お前さんの魔法でピューっとひとっ飛びで故郷に帰りたいんだとさ」

 話の、あまりの突拍子のなさに理解が及ばなかったので、タルブロンはジーツからではなく、才人の話を聞くことにした。ジーツはおもしろければ良いと話を拡大する悪癖がある。

「サイト君といったか。詳しく話を聞かせてくれないか?」

 その声、姿に才人はびっくりした。

 映画『アイアンマン』そのまんまだ!

 だが、ジーツに詳しく聞いてみると、中の人のいないアイアンマン、要するに高度なAIが搭載されたロボットだということがわかった。

 ロボットなのに魔法を使うとは……この世界パネエ……


 焚き火に体を温めつつ、ウィスキーをちびりちびりと飲みながら、才人は今までの事をタルブロンに語った。その間、才人はウィスキーをタルブロンに差し出したが、人間の飲食物は飲めないと断られた。ならばと、才人は父が通勤に使っているスクーターのエンジン・オイルを、タルブロンに差し出した。

 それをおっかなびっくり飲んだタルブロンは『美味い』という感覚を初めて知った。



 才人の告白は驚きに満ちていた。

 才人の話が本当なら、14番目と15番目の次元界が発見されたことになる。だが、彼の話は嘘ではないとタルブロンは信じた。見せてもらった携帯電話なる物に魔法は使われておらず、見知らぬ物質で出来ていた。精霊が封入されている形跡もない。

 また、タルブロンは日本語の文字を見たことがなかった。話し言葉は通じているが、ルイズとかいうウィザードが創りだした召喚の門の効果なのかもしれない。

 タルブロンは、自らに湧き上がる知的な興奮に、快哉を叫びそうになった。

 「そういうわけで、故郷に帰りたいんだ」

 どうにかならないかと不安な顔を浮かべる才人に、タルブロンは言った。

「君を還す呪文はある」
「あるの!?」
「ただ、その呪文に効果があるかどうかはやってみなければわからない」
 
 ぶっつけ本番か……と才人はため息をついた。

「それに、その呪文はこの島の包囲を解かなければムリだ。いつ戦闘があるか分からないから、今は戦闘に必要な呪文を頭にいれている。この島の騒ぎが収まったら、君の要望を受け入れよう」

 タルブロンとジーツは、コルソス島の現状をざっと才人に説明したうえで、依頼を受けると明言した。

「君の依頼を受け入れよう。呪文に必要なスクロールの代金は金貨1125枚、さらに技術料をいれてざっと金貨2000枚、端数は割り引きしてあげよう」
「え、金とるの!?」
「たりめーだ。オレ達は冒険者だっていっただろうが。報酬がなきゃ依頼は受けないよ」
「魔法使いは研究に何かとお金がかかるのでな。だが……」

 タルブロンはエンジンオイルを掲げてみせた。

「これは素晴らしい物だった。さらに金貨500枚割り引こう」
「同感だ。ガランダ氏族の酒も美味いが、こいつはそれに匹敵するぜ」

 ジーツはタルブロンと同じくマッカランを掲げた。

「と、いうわけで金貨1000枚だ」
「それでも高いよ!」

 才人は抗議した。日本円でいくらになるのか分からないが、とんでもない額になるのは間違いな
い。

「……まあ、それもあのクソ忌々しい竜をどうにかしてからの話だな」

 見ろよ、とジーツは顎で才人に空を見るよう促した。 

 羽を広げ、曇天を滑空する白竜を見た才人は、その美しさと偉大さに圧倒された。あの美しく偉大な生き物を見ることができた自分は、幸運なのか、それとも不運なのか逆にわからなくなってしまった。


 ……結局、ジーツ達とは村の宿屋まで連れてってもらう事になった。

 そこからはどんな手段を使ってでも金を稼がなくてはならない。いや、金を稼ぐ以前に、この脅威から生き残らねばならなかった。


 †


 元々は海賊が密輸のために使っていたという洞窟の中は、潮風が入り込んだまま流れず、淀むせいなのかやたらと生臭い。遠くから聞こえてくる不気味な詠唱のせいで、才人の気分をより滅入らせた。

 才人は小さな棍棒を持って、おっかなびっくりな足取りで奥へ進んでいった。奥には女性がいて、円形の不思議な扉の前に立っている。

「そこの少年、止まれ!」
 
 警告する力強い女性の声は、辺りに反響したせいで、実際よりも大音声となって才人には聞こえた。彼女が、ジーツ達のリーダーであるセリマス・ヴィルンだろう。篝火に照らされた蜂蜜色の髪と白い肌、人族と証明する丸耳、鼻筋が通り、面長の美人の目は強い意志に煌き、眉も釣られて上がっている。

 その気の強さは同時に彼女の実力も証明している。

 彼女は鎖帷子を着込み、胸部、肩、腰、脛を板金で補強していた。補強された板金はスカイブルーに彩られ、盾と胸部には銀炎の紋章が銀で彫金されている。

 セリマスは油断なくヘヴィー・メイスを構え、才人に問いかけた。

「君は何者だ?」
「あ、オレ、才人っていいます。ジーツさんとタルブロンさんがここに行けって。貴方がセリマスさん?」

 ジーツとタルブロンの名を出すと、彼女はメイスをおろし、警戒を解いた。笑みを浮かべ、先程とは打って変わって、柔らかい声音で、安心させるように才人に話しかけた。

「そうよ。セリマス・ヴィルンよ。よろしくねサイト。それにしても……あの二人まだ宝探ししてるの?」
「もう、少ししたら行くって言ってました。その間、セリマスさんといるようにって」

 その答えを聞いたセリマスはフレイム!くそったれと悪態をついた。

「ジーツが遅刻するのはいつもの事だから仕方ないわ。たまに戦棍で頭をカチ割りたくなるけど」

 仕方ないわ、行きましょうと才人に行動を促した。
 
「さっきから聞こえてくる不気味なコレ、なんです?」
「サファグン達がディヴァウラーへ祈りを捧げているんでしょう。私たちはそこへ乗り込んで、サファグン達を殺す。そして祭壇を完全に破壊するの。覚悟はいいわね?」

 よくないです。 

 とは、言えなかった。才人はごくりとつばを飲み込み、ただ、うなづいた。
 
 サイトにああ言ったものの、彼が役に立つとは端から考えていない。せいぜい自分の邪魔にならないようにしてくれればいい。

 そうセリマスは考えていた。

 「サイト、私の呪文を受け入れてね」
 
《酸、電気に対する抵抗》レジスト・エナジー《恐怖の除去》リムーブ・フィアー《祝福》ブレス《助力》エイド《雄牛の筋力》ブルズ・ストレングスと、次々に呪文を重ねがけしていく。

 才人は体内に湧き上がる、歓喜ともいうべき不思議な感覚に酔いそうだった。

 スゲー。やっぱり魔法ってスゲー。

 竜や半魚人達に包囲されエライことになってると聞いたときは、はやく地球に帰りたかったが、安全な地域をちょこっと観光してお土産もらってからでもいいなと考え直した。

 ……金貨1000枚は一旦忘れよう。


「準備はいい?」
「はい」

 才人の答えを聞いたセリマスは扉のレバーを下ろした。複雑な歯車がぎしぎしと音をたて、石造りの円形の扉は、右へ転がりながら壁へ収納されていく。

 扉の内側は、自然の洞窟の部分を残しながらも、ランタンや松明を置けるよう手が加えられている。左手にはせり出た岩棚がある。そこへは、粗末な今にも崩れそうな木製のはしごを登れば到達できる。岩棚には鐘がおかれ、もし、見張りがいればこれを叩いて侵入者を仲間に知らせただろう。だが幸いなことに、ディヴァウラーへの儀式に全員が参加しているのか、見張りはいなかった。

 奥は鉄格子で行く手を遮られ進めなくなっている。

 セリマスは、鉄格子の前まで進み、格子越しに奥へ目を凝らすと、最奥に地面に設置されたレバーと歯車がある。そして通路は右へとつながっているようだった。その右奥から相変わらず不気味な詠唱が聞こえ来る。 格子の近くに目をやると、天井に穴があいてるのを発見した。左手にはしごがあることを鑑みれば、岩棚の鐘の付近に穴があるはずだった。奥にあるそのレバーを引くことで、目の前の鉄格子が天井に収納される仕組みのようだ。

「サイト、悪いのだけど、はしごをのぼって、奥のレバーを引いてくれないかしら? 私の重量だとはしごが折れそうなの」

 と、恥ずかしそうにセリマスは言った。

 いいですよ、行きますと才人は答え、するするとはしごを上り、穴の縁に立った。高さは2メートル程で、砂地に降り立てば、然程音を立てずにすむ。そう判断し、実行した。

 べちゃっと踝まで砂が入り込む感触に顔をしかめつつ、奥のレバーに近づいた。

 通路の右側はさらに奥へと繋がっているはずだ。不気味な祈りの声が、絶えず聞こえているし、見張りなんていないはずだ……。

 そう考えて、安心しきって、レバーに近づいた時だった。

 松明の明かりの届かぬ影から、ぬっと槍をかまえたサファグンが現れた。

 顔は魚、敢えて言うならオコゼと呼ばれる魚に似ているだろう。真っ青な体色で、体は荒波や水圧に耐えうる為か筋骨逞しく、手は物が握れる程度には指があるものの、足はヒレそのものだ。

 下半身は申し訳程度にワカメでできた褌のような下着を身につけている。水中で推進に使う尾ヒレは、地上ではバランスを取る為に役立っていて、ヒレという偏平足の欠点を補っていた。

 そのサファグンは、難破船から拾ったのだろう、エアレナルの森から産出される、デンスウッドという鉄に似た性質の硬く重い木材を、柄にし、尖った石を穂先にしていた。その石を補強するように、何か巨大な魚のとがった背骨を石を補強するようにくくりつけている。

 侵入者と見て取った、サファグンのただならぬ眼光に、才人は圧倒された。恐怖除去の呪文の加護を得ていても、予想を覆された驚きに、頭が真っ白になり、自分が次にどのような行動をすべきなのかがわからなかった。

 サファグンは侵入者を殺すべく、槍を突き出した。

 その刹那、脳裏に浮かんだある閃きが、才人を救った。

「海の神様~♪ ラララララララ~♪」

 突き出された槍は、棍棒を放り出し、土下座して、演歌のサビを歌い出した才人を貫くことな
く、頭上を通りすぎて行った。






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